「断る」
「えー!?」
二人で借りたDINKS向けの小綺麗な賃貸マンションの一室に、タキオンの素っ頓狂な声が響く。
ポッケは拗ねた調子で答えた。
「どぉーせ実験の一環なんだろ」
「そうだが?」
「だからだよ!いい加減学べコラ!!」
「ええー!?」
「ううう…私の実験行為は遍く愛情表現の一環なのだとポッケ君なら分かってくれていると信じていたのに…」
「ええ…あれで愛情表現だったのお前…」
「そうだとも!私の実験が君に迷惑をかけたことがあったかい!…いや、あるな」
「あるわ」
「うん、結構ある。今のは撤回しよう、私が悪かった」
「おー、いい子だ」
「ああ、諸々の行為が愛情によるものだと理解してもらえたのだから瑣末なことだ。さあ改めてポッケ君、私の前に君の純粋で無垢な身体を捧げたまえ!」
「断る」
「ええー!!?」
「なんでいけると思った?」
「ダメなのかい!?」
「ダメだな」
「ええー!??」
何一つ噛み合う気配のない会話に、ポッケは一つため息をついて言う。
「逆にして考えてみりゃわかんだろ」
「逆とは?」
「俺が。興味本位でお前の身体隅から隅まで暴いていーのかよ、って話」
「…は、」
「あ」
やらかした、と思った。
爆ぜそうなまでに額の先まで真っ赤になるタキオンに、ポッケは慌てて言い募る。
「ッしねーからな!おい!変な想像してんじゃねーぞコラ!!」
「…いや、」
振り払おうとしたポッケの腕を、タキオンが逆に掴み返す。
「…構わない、よ」
どこかふわつく目を、それでもしっかりとポッケに向けてくるタキオンに、ポッケは小さく喉を鳴らす。
「…本気かよ」
「私が嘘などつくと思うかい」
「…」
それでもポッケはタキオンの手を柔らかく解きながら、言った。
「だとしてもノリでしたくはねえ。…夜までお互い気が変わんなかったら、にしようぜ。…どーだよ」
「…ああ、分かったよ」
それから夜まで全ての記憶が曖昧で、一緒に食べた夕飯の味も分からなかった。