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    et_tlvskr

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    卒業後タキシャカちゃんでシャカファイ/カフェタキ前提。上とか下とかの話。

    #タキシャカ

    朝靄 戸をガンガンと鳴らす音で私は目を覚ました。徹夜明け、ようやく眠りについた矢先だった。
     不快。ただしそれは扉の向こうにいる何者かが何者か不明な場合に限り、だ。
     知る限り、チャイムを鳴らすでもなくこうして訪問してくる相手は『彼女』を除いて他にいない。
     身支度もそのままに玄関へ向かえば、想像通りの姿がそこにいた。

    「今日も元気だねえ」
    「そう見えるかよ」
    「そうでないことは頭では知っているが、見えるか否かでいえば是だな」

     まあ入りたまえよ。奥へ促すと、彼女は素直に着いてきた。


     *


     手土産は近所のパン屋のパンだった。曰く、こんな時間帯だと他に寄るようなところもないらしい。
     リビングの卓袱台にどさりと置かれた袋から紙パックの紅茶だけをありがたく頂戴し、私は横目に彼女を見遣る。

    「で?」

     白々しく聞くと、疎ましげな視線とともに言葉が返ってくる。

    「態々訊くんじゃねえよ、他にあるかよ」

     どこか不貞腐れた声音。そわそわと落ち着かない様子の手が、腰掛けたソファの上のクッションを弱く握る。
     勿論私とて察しはついている。こうしてやってくる時の彼女の用件と言えば、概ね一つに絞られる。
     それでも私は尚、問う。

    「ふむ、他とは?」
    「テメエ」
    「認識の不一致は事故の元だぞ」
    「テメエのそれは楽しんでるだけだろ」
    「分かっているなら話は早い。で、何の用なのかね」
    「……」

     紙パックの底が焦れたように、ずぞぞ、と音を立てる。
     飲み干したそれを机の上に放置して奥の部屋へ向かうと、後ろから絞り出すような声で何か聞こえた。

    「シャワーは浴びてきた」
    「ふむ。その心は?」
    「……もういいだろ」

     勿論やめてもいい。奥の部屋から諸々の『必要なもの』一式を持って、私は彼女の待つリビングへと戻る。
     眼前に置かれたそれらを見て彼女が否を唱えないということは、認識の齟齬はほぼないものと見て間違いない。
     ただ一つ、彼女は勘違いをしている。
     これは既に意思確認などではなく、これから起こる『楽しいこと』の前座なのだ。

    「よくないさ、答えてくれなきゃ私が楽しくない」

     私は堂々と寝間着代わりのキャミソールを脱ぎ落としながら言う。
     ギリ、と音でもしそうなぐらい、彼女が強く歯を噛み締めたのが分かった。

    「相変わらず悪趣味だな」
    「なら私になぞ頼まなければいいじゃないか。愛しの彼女はどうしたんだい?」
    「頼めるかよ、ンなこと」
    「ああまだ言ってなかったのかい、君が本当は『そっち』側だって」
    「言えるわけねェだろ」

     言ったところで、彼女は拒まないと思うけれど――そう出掛けた言葉を狡くもそっと仕舞って、私は小さな子に目線を合わせる時のように、ソファに腰掛けたままの彼女の前に膝を突いた。

    「さて、準備は整ったが」

     顔を近づけ、改めて、問う。

    「どうしてほしい?」

     訊くと、ソファに置かれた彼女の両手が、更にきゅっと固くなる。
     顔に出すまいとはしているのだろうが、それでも憮然としたその目元や鼻先に僅かに血色が滲むので、よくない想像が捗って仕方がない。
     さて、今日はどうしてやろうか――なんて思考を巡らせていると、尖ったその口が、ようやく小さく言葉を発した。

    「……優しく、して」

     ……おやおや。
     思わず目を丸くしてしまった。そこまで言わせるつもりはなかったのだけど。
     それでもいよいよ顔を真っ赤にして、睨むようにこちらを見てくる彼女を目の前にすれば、それ以上どうこうする気も飛んでしまう。
     私は隣に腰掛けると、両腕を広げて彼女を招く。

    「任せたまえよ。ほら、おいで」
    「……クソ」
    「うん、いい子だ」

     這うように凭れてきた彼女をしっかりと抱き止めると、まずはたっぷりと髪を梳き、首筋を撫でてやる。服を暴くより先に、これだ。反抗的な瞳がとろりとしてくるまで繰り返してやらねばならない――彼女は矜持の割に、存外怖がりで、繊細だから。

    (ああ、だから)

     心地良さげに瞳が溶けていくのとは反対に、くっついた身体から伝わる鼓動は僅かに速度を増していく。
     そんなことを感じながら、思った。

    (確かにこれは、迂闊に彼女には頼めないのかもしれない)

     愛し子にこんな態度を見せられでもしたら、私とてどうなってしまうか分からない、なんて。



     ***



    「つーかお前こそカフェには言ってねえんだろ、『そっち』だって」

     事を済ますと一転、けろっとした様子で手土産のパンを貪りながら、彼女は徐に私にそう問うた。

    「そうだが」

     服を着るのもだるくてそのままでいると、器用にも彼女はパンを齧りながら、もう片方の手で下着を投げつけてくる。

    「言わねえのかよ。あと早く服着ろ」
    「私は彼女を大事にしたいんだよ。服はだるい」
    「手を出さないことが大事にするってことなのかよ。いいから着ろ」
    「今はまだ、ね。なら君が着せてくれたまえよ」
    「そんなら勝手に腹でも壊してろ」
    「つれないなぁ」

     にべもなく断られてしまっては仕方がない。腹を冷やすのは流石にいただけないので、仕方なく投げつけられた下着を手に取った。
     のそのそと身に付けていると、パックの飲料で口の中のものを飲み下したらしい彼女が小さく言う。

    「……拒まないんじゃねえの、カフェはよ」

     どこかで聞いた言葉だった。
     思い当たるのに、さして時間は必要なかった。

    「その言葉、そっくり君に返すよ」
    「ア?」
    「それに私は、いずれは、とは考えているのでね」

     切れ長の瞳が、一瞬こちらを見る。
     それからまた興味も無さそうに、パンの続きを齧り始めた。
     その鋭い歯に噛み千切られるパンが妙に美味そうに見えて、気づけば私は腰を浮かせていた。

    「それ一口おくれよシャカール君」
    「その前に服を着ろ」
    「後で着るったら」
    「……絶対だぞ、ほら」

     顔を寄せて齧らせてもらったパンは、想像通りの味しかしなかった。
     ああ、そうだ。私は自覚する。
     大事なものにいきなり向けるには、この牙は少々尖りすぎてしまったのだ――そう、誰かさんのお陰で。
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