シャカタキと噛み癖と後のうだうだ「これはまた見事に残ったものだねえ」
鏡を覗き込めば首元にはくっきりと歯形が浮いていて、タキオンは素直に感嘆の声を上げた。
後ろで呻くような声がする。
「……悪かったって」
「痛みの程度こそさしたるものじゃないが、下級生の面々の情操教育を鑑みれば当面共通浴場の使用は控えるべきかな。歯形といえば然るべき鑑識にかければ指紋と同程度には個体の識別を可能にするマーカーにもなり得るというが、君のに限って言えばそうするまでもなく君だと一目で分かるわけだし」
「だから悪かったって」
「別に君に謝罪を求めているわけではないよ」
「うるせェ調子乗ったって自覚があるから言ってんだよバァカ」
「うん? 弁明ならもう少し論理的にだね、」
「するかよ、しねぇよ」
吐き捨てるように言って、後ろの彼女は大の字にベッドに倒れ込んだ。
「大体発散するだけなら一人でだって幾らでもやりようあんだろ、なんで毎度毎度態々オレを呼ぶんだよ」
「それは尤もさ、だが私は君も知っての通り調和の内の快楽よりも他者の手による偶発性を愛する性格なものでね」
「だったら却ってオレ一人に固執する方がおかしいだろ、サンプル数増やしてけよ」
「ふむ、……それも尤もだ。困った」
「ア?」
「君でないとどうも怠くてね、消費体力を鑑みた時割に合わないのだよ」
「……したことあンのか」
「クク、どうだと思う?」
「興味無ェ」
「だろうな」
「…」
「…本当は?」
「…どうだと思うよ」
「興味があると言うなら開示してやってもいいが」
「興味はあるが開示しなくていい」
「『ない』よ。君だけだ」
「……、いいっつったろーが、クソ」
「おお、副交感神経優位に切り替わったね!」
「そうかよよかったなお望みのデータが取れて」
「うん? ああ違うさ、データが取れたから上機嫌なわけじゃない」
「…」
「君が可愛いからだよ」
「へえへえ」
「なんだい可愛がり甲斐のない」
「頼んでねェんだよ」
「私が可愛がりたいのだから応じてくれたまえよ」
「どうしろってンだよ」
「ふむそうだな、例えば…」
「真面目に考えンじゃねえ。しねェからな」