贖罪 光を失った深い青色の瞳がオレを責めるように見つめる。
「人を救うのに疲れたんです」
隈がひどく、頬のこけた顔。シャツから見える触れるだけで折れてしまいそうな細すぎる腕。
反社であるオレを武道が探しに来たことによって殺すしかなかったのに、オレが武道を殺さない選択をしたことによって彼を閉じ込めるしかなくなった。
武道の笑顔が日に日に失われていくのを見て、どうすることもできず。凶器になりそうな物を持っては自身を傷つけるようになった。危ないものを取り除いた結果、武道のいる部屋には布団とソファぐらいしかなかった。
少しでも武道の気が紛れるように、勝手に死なないように、梵天の面々に監視という名の話し相手に付けていた。
そして、食事を拒否した。点滴を行ったこともあったが、彼は点滴を引き抜き首に巻き付けるなどの行為をした。押さえ付けて無理矢理しても何度も点滴を行った血管は細く、痛々しい跡ばかりになってしまった。
そんな武道を見たくなかった。
そのためオレが無理矢理食わせるしかなかった。
「タケミっち、食べて」
「食欲ないです」
ポテトサラダの乗ったスプーンを武道の口に運ぼうとするも、彼は首を振って拒否する。
「食べないと無理矢理突っ込むよ」
「それ、苦しいから嫌……」
口を少し歪ませて言うも、スプーンを口に入れようとはしなかった。それに舌打ちしつつ、スプーンを自身の口に入れ、飲み込まずに舌の上にサラダを置く。仄かに甘い味が広がり唾液が出てくる。
すかさず、武道の首の後ろを手で掴んで彼を引き寄せ口付ける。
彼は口を固く閉ざしたものの、空いた手で彼の鼻をつまめば苦しさから口を開けた。その瞬間を狙って彼の口へと入れる。
吐き出さないようにそのまま口付けたまま武道が嚥下するのを待つ。
武道もこのままは嫌なのか、諦めたように咀嚼を始めた。ゴクリと喉が鳴ってやっと口を離す。
彼は泣きそうに顔を歪めるも涙を流さなかった。涙が枯れ果て、いつからか出なくなったのだろう。
──泣き虫で、ヒーローだった武道はもういない。
その事実が辛かった。
「タケミっち、食べなきゃまたするから」
「……食べます」
これはオレのエゴだ。
武道が生きることを望んだせいで、彼は生きながらも壊れた人形のようになるしかなかった。
タイムリープしても、オレを救えなかったという事実。その元凶であるオレが生きている限りそれは続くのだ。その事実に気付くのがあまりにも遅すぎた。
だが、すぐに死ぬつもりはなかった。
「もういいですか」
モソモソと食べながら余り減ってない食事をうんざりしながら見る武道。
「半分は食べて」
「半分は多いです」
オレの顔を不機嫌そうにみるも食べなければ口移しをまたされると思ったのか、ため息を吐いてモソモソ食べるのを再開した。
最初から食べればいいのに、そうしないのは武道なりの抵抗だろう。
──早く殺して欲しいという、彼の願い。
だが、まだ聞き入れる訳にはいかない。
いつからかオレの名前を呼ばなくなった武道……。
最後に、大好きな武道がオレの名前を呼び……武道の本当の笑顔を見てから彼を解放したかった。