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    cocoo00n

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    ブラネロ版ワンドロワンライ様(@brnr_drwr)の小説×挿絵企画にて執筆させていただいたお話の修正版になります。
    Twitterに掲載されているものはこちらですので、ぜひ素敵な挿絵もご覧ください。(https://twitter.com/brnr_drwr/status/1505853177815449602?s=20&t=j-22d5ptVgsBA9gz3mG-mw

    かくしあじ お腹も満たされ暖かな陽だまりにまどろみたくなるような、そんなある日の昼下がり。昼食で使い終わった食器を片づけ終わったネロは、いつもより少し早めに夕食の準備に取りかかっていた。中央の市場で買ってきた新鮮なオスの宇宙鶏に、下味を揉みこんでいく。
     そう、誰かさんブラッドリーの大好きなフライドチキンを揚げるために。


     ネロが夕食の準備をしている日から数日前のこと。ブラッドリーがまたもや忽然と姿を消した。どうやら北の魔法使い同士で小競り合い──魔法舎の被害は決して小さくはなかったが──をしていたところ、うっかりくしゃみをしてしまったらしい。
     賢者とその魔法使いたちは皆またか、という顔をしつつも、心配そうな顔をする者、すぐに帰ってくるだろうと楽観している者、いつ帰ってくるか賭けをする者などと反応はそれぞれだった。ネロもくだらないことをするからだと呆れつつも、いつかの夏の思い出が蘇り、落ち着かないままブラッドリーの帰りを待っていた。
     そんな心配をよそに、ブラッドリーはふらりと魔法舎に帰ってきた。帰ったぜ、となんてことのないように手を挙げて帰ってきた彼を、昼食を食べていた賢者と魔法使いたちはそれぞれの形で迎え入れた。どこへ行っていたのかと聞かれたブラッドリーは、凶悪な魔法生物を倒しただの、辺境の村で歓迎を受けただのと、どこか誇らしげに道中の思い出を語った。そんなスリルのある話に西の魔法使いは興味津々といった具合に食いつき、年若い魔法使いたちも物珍しさに目を輝かせてその話を聞いている。ブラッドリーはそんな様子に気を良くしたのか、食堂の椅子にどかりと腰をおろし、盗賊団時代の様々な武勇伝を語り始めた。ブラッドリーの語り口調も上手く、西の魔法使いの野次も入ることで、壮大な冒険や戦いの物語にますます花が咲いていく。
     ──しかしネロは、そんなブラッドリーの顔にほんの少し疲労が滲んでいるのを見逃さなかった。賑やかな雰囲気を壊さないよう、ネロは談話室をそっと抜け出し、一人キッチンへと歩き出した。


     鶏肉を揉みこみ終わると、次は衣に取りかかる。料理用のバットに小麦粉を広げ、その上にさまざまなスパイスや調味料をふりかけていく。何百年も作り続け、改良を重ねたブラッドリー専用の調合だ。仕上げにほんの少し星屑糖を入れようとして、はたとネロの手が止まる。
    「……あー、そういや星屑糖切らしてたのか。」
     賢者によって伝えられたバレンタインデーの慣習のおかげで、魔法使いたちは感謝を伝えようと各々でチョコレートを作るようになった。どのスイーツを作るとしても星屑糖を使うので当然消費量は増える。また、その一カ月後にあるホワイトデーのお返しとして、何人かの魔法使いたちがキッチンに来てはネロにスイーツを教わったため、すっかり星屑糖を使い切ってしまったのだ。
     星屑糖がないからといって劇的に味が変わる訳ではない。しかし、ほんの少し加えた隠し味にブラッドリーが気づき、好評だった時からずっと加えるようにしていた。料理人として妥協したくないというプライドと、長旅で疲労の蓄積したブラッドリーに最高のフライドチキンを食わせてやりたいという思いが、隠し味で妥協するなとネロに訴えかけてくる。
     しかし、ないものはない。もし今から星屑糖を取りに行こうとすれば、まず間違いなく夕食の時間に間に合わなくなる。それに、漬けこんでいる鶏肉に味が入りすぎてしまい、それはそれで最高の出来とは言えなくなってしまう。思わぬ形でぶつかってしまった壁に、ネロは腰に手をついて考えこんでしまう。
     どうしたものかと悩んでいるところに、以前中央の国のお祭りを祝った時のことがネロの頭をよぎった。
     そういえば魔法使いのシュガーを入れてチョコレートを作ったではないか。魔法使いのシュガーには魔除けや体力回復、風邪予防や加護の付与など、さまざまな効果がある。疲れて帰ってきたブラッドリーにもぴったりだろう。
    「でもなあ、今更心配するような立場でもないし……。」
     自分がブラッドリーを気遣おうとしてフライドチキンを作り始めたというのに、ネロは気恥ずかしさからそのことを棚上げして言い訳を始める。誰が聞いている訳でもないのに、ぶつぶつと「いや、でも」を繰り返す。
     それでも一応、とネロは手の上にシュガーを数個作り出した。出来上がったのはネロの繊細さやブラッドリーへの気遣いが形になったような、美しいシュガーだった。ネロがそれをじっと見つめ、物思いに耽っていたその時。

    「ネ~ロ~ちゃんっ☆」

     ふいに、後ろから声をかけられた。今まで一切なかった気配が突然現れ、ネロは思わずうわっと声をあげる。
    「おや、すまんのう。驚かせてしまったか。」
    「ほほほ。こんなに可愛い双子ちゃんが来たというのに、そんなに驚かなくてもいいじゃろう。」
     後ろを振り向くと、そこにはスノウとホワイトが立っていた。二人して驚かそうとしている魂胆は丸見えなのに、まるでわざとではないように振る舞うところがネロには恐ろしく感じられた。この二人に見つかったからには、面倒なことになるに決まっている。
    「ど、どうしたんだよ双子先生。腹でも減ったのか?」
    「む、我らをミスラやブラッドリーと一緒にするでない。」
    「よさんかスノウ。我らはただ、ネロの様子を見に来ただけじゃ。」
     げ、と言わんばかりの顔をして、咄嗟のことで頓珍漢な質問をしてきたネロにスノウはむっとした表情をした。そんなスノウをホワイトが諭し、キッチンに来た目的を話し始める。
    「ブラッドリーが帰ってきた後、そなたはふらりと姿を消したじゃろう。二人の間に因縁があるのは知っておるが、もしや何かあったのではないかと思ってのう。」
    「そうじゃそうじゃ。優しい我らが心配して来てやったというのに、そなたと来たら……、ん?」
     ホワイトに続いてスノウが拗ねたように話しながら何かに気づいたようで、下がっていた口角を持ち上げる。
    「なるほど、そういうことだったか。そなた、フライドチキンを作っておったのじゃな?」
     いたずらな顔で問いかけるスノウに、ネロはぎくりと顔を歪める。特別悪いことをした訳でもないのに、何か酷く悪いことをしたような、決して見つかってはいけないことをしたような気持ちに苛まれる。
    「ほほほ、帰ってきたブラッドリーへこんな用意をしておったとは。良い子にはご褒美をあげようかの。」
    「いや、いいってそんなの。別にあいつのためとかじゃねえし。」
    「まったく、素直じゃないのう。その手にあるものも、ブラッドリーのために作ったものじゃろうに。」
     スノウの言葉で気づいたホワイトが、ネロを子どものように扱ってくる。双子にそんな扱いを受けるのが恐ろしいやら恥ずかしいやらで辞退するネロに、スノウがにやついた顔でからかってくる。二人は強い力を持つ分気配にも敏感なため、ネロの手の中にあるシュガーにも気づかれてしまった。これはもう隠せないと悟ったネロは溜め息をつき観念したが、同時に驚いた拍子で手の上にあったシュガーを思わずぎゅっと握ってしまったことに気づいた。無意識のうちに「隠さなければ」という心理が働いてしまったのだろう。
     今更隠したところでどうしようもないので、そっと手を開いてみると、綺麗だったシュガーは見るも無残に砕かれていた。粉々になったそれが手の端からバットにぱらぱらと落ちていく。
    「……あっ?!」
     しまった、と思った頃にはもう遅く、バットの中に入ってしまったシュガーの粉末はもう取り除きようがなかった。ネロはやってしまったと頭を抱え、へなへなとその場にしゃがみ込んだ。突然目の前で大声を出されたスノウとホワイトは困惑したように顔を見合わせる。
    「我ら、何かまずいことしちゃった?」
    「声をかけただけなのに?」
     どうしようかのう、と困っているスノウとホワイトに、こっちのことだからとネロは力なく笑う。
    「ちょっと星屑糖を切らしちまってさ。シュガーで代用しようかと思ったけど、そんな柄でもねえし。」
    「なんじゃ、そういうことじゃったか。ほほほ、そんなに照れんでも良いではないか。」
    「可愛らしいのう。青春じゃのう。」
     首をかきながら理由を話すネロにきゃっきゃ、とスノウとホワイトがはしゃぐ。からかわれたネロは顔を赤くし反論しそうになるが、ここで騒ぐと余計に痛い目を見ることになりそうな予感がして、寸でのところで思い留まる。それに、シュガー入りのフライドチキンなんてブラッドリーに知られてしまえば、それこそ死にたくなるほど恥ずかしい。ここでばれるよりも双子にいじられる方がまだましだ、とネロは自分に言い聞かせた。
    「ネロの愛情がたっぷり詰まったフライドチキンとは、ブラッドリーもさぞ喜ぶじゃろうな。」
    「そうじゃのう、早く食べさせてやりたいのう。」
     まるで我が子のことのようにはしゃぐ双子に、そろそろ恥ずかしさの限界が来そうなネロは立ち上がる。
    「わかった、わかったから。あいつにはサプライズで渡すつもりだから、それまで内緒にしててくれよ。」
    「はーい!」
     リケやミチルを相手にするように、まるで子どもを諭すようにネロが言えば、満足したのかスノウとホワイトは元気に返事をした。楽しみじゃのう、と恋バナに花を咲かせるような面持ちで笑い合い、まるで嵐のようにキッチンから去っていった。

    「さて、どうするかねえ……。」
     静けさを取り戻したキッチンで、ネロはバットを見つめて小さく呟く。できればシュガーなどなかったことにしたいが、魔法を使わない限り取り除くことは不可能だろう。しかしネロの料理に魔法の気配があれば、ブラッドリーはかえって怪しむに違いない。かといって、せっかく用意した衣を捨てて作り直すことは、ネロの料理人としてのプライドが許さなかった。
    「はあ、仕方ねえ。このまま作るか……。」
     ようやく腹を括ったネロは、まだ手元に残る砕けきっていないシュガーの欠片を使い、ブラッドリー好みの衣を作り上げた。


     からっと揚がったシュガー入りフライドチキンが、皿の上で湯気を立てている。途中でトラブルは起きたものの、これを見たブラッドリーが一も二もなく齧りつき、うまい!と満足げに叫ぶのがありありと浮かぶくらいの出来になった。
     しかし、出来上がったものを実際に目にして、ネロの中にむくむくと羞恥心が湧き上がる。少量しか入れていないとは言え、ブラッドリーがシュガーの気配に気づかない訳がない。匂いで料理をしていることがばれないようにと簡単な結界を張って調理したため、まだブラッドリーがフライドチキンに気づいた様子はない。今ならなかったことにできる、と一度考えてしまえば、もう頭からその考えが離れなくなってしまった。
    「よし、作り直そう。」
     結局恥ずかしさに勝てなかったネロは、シュガー抜きのフライドチキンを作り始めた。
     ──既に出来上がったそれを、後で自分が食べようとキッチンの机の上に放置したまま。


    ◆◆◆


     ひとしきり武勇伝を語り終えたブラッドリーは、ふと辺りを見渡しネロの姿がないことに気づいた。それと同時に、ぎゅるるる、と大地を引き裂きそうなほど大きな腹の音が食堂に響き渡る。ブラッドリーにも昼食が用意されたとはいえ、何せ突然帰ってきたのだ。皆の分のあり合わせだけで、ブラッドリーの腹が満たされる訳がなかった。
     腹が空いたとあればブラッドリーの行動は早かった。キッチンに食材を漁りに行くついでに、ネロを探せばいい。キッチンにネロがいれば御の字だと考え、話を聞いていた魔法使いたちを置いてキッチンへと向かった。するとその道中で、何やらにやにやしながらこちらを見てくるスノウとホワイトに出会った。ただでさえ腹が減って気分が下がってきたというのに、気味の悪い思いをしたブラッドリーだが、キッチンに魔法の気配を感じ何かあったのではないかと双子を無視して足を早めた。

     慌ててキッチンに来てみれば、ネロが何やら料理をしているだけで、特段変わった様子はなかった。なぜか入口に結界が張られており、不審に思ったブラッドリーだったが、机の上に視線が向いて納得する。おそらく、フライドチキンの匂いにつられて来た自分につまみ食いをさせないようにするためだろう、と。
     しかし、気づかれてしまえばこの結界はほとんど意味を成さない。元々匂いを遮断するためであって、侵入を拒むほど強い結界ではないからだ。ブラッドリーにとって、ネロにばれないようにそれをすり抜け、気配を殺してフライドチキンに辿り着くことは朝飯前だった。
     キッチンに入った途端、ブラッドリーの胃袋を鷲掴みにする芳しい香りが漂ってくる。まだ出来てから時間の浅いであろうフライドチキンは皿の上で湯気を立て、「今すぐ食べてください」と言わんばかりにブラッドリーを誘ってくる。その誘惑に抗う訳もなく、ブラッドリーはフライドチキンにがぶりと噛みついた。
     さくり、と小気味良い音を立てる衣の中から、じゅわりと肉汁がほとばしる。さまざまなスパイスの芳醇な香りが鼻を抜け、レモンの酸味が油をさっぱりと流していく。いくらでも食べられてしまうその味にもう一つ、と手が伸びそうなその瞬間。
     ふわり、と優しい甘さが舌の上に広がり、体中に巡っていく。思わぬ長旅で蓄積された疲れが溶かされていき、体の底から魔力がみなぎってくるのが感じられる。そして何より、誰よりもよく知っている者の魔力が、体の中に染み渡っていく。

    「──へえ、お前が結界まで張って、こんなものを作るとはな。」

     思わずそう呟いた声に反応したネロが、がばっと音が鳴る勢いで振り返る。ブラッドリーがシュガー入りフライドチキンを食べてしまったことに気づき、顔から首まで真っ赤に染まっていく。
    「て、てめえ……!勝手に入ってきて食ってんじゃねえよ!」
    「こんなもん迂闊に置いておく方が悪いだろ。それに、俺様の大好物にお前のシュガーを入れるなんざ、大した歓迎ぶりだなあ、相棒。」
    「うるせえ!食うな!こっちに寄越せ馬鹿野郎!」

     面白いものを見つけたと言わんばかりに片眉を上げて笑い、決してネロにフライドチキンを渡すまいと逃げるブラッドリー。茹でぬめりタコよりも真っ赤な顔で、何度もブラッドリーに掴みかかろうと追いかけるネロ。そんな二人の様子を、北の双子の魔法使いたちが楽しそうに見守っていた。


     騒ぎを聞きつけ駆けつけた他の魔法使いたちに事情を聞かれ、余計にネロが恥ずかしい思いをしたのは、言うまでもないだろう。
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    cocoo00n

    DONEブラネロ版ワンドロワンライ様(@brnr_drwr)の小説×挿絵企画にて執筆させていただいたお話の修正版になります。
    Twitterに掲載されているものはこちらですので、ぜひ素敵な挿絵もご覧ください。(https://twitter.com/brnr_drwr/status/1505853177815449602?s=20&t=j-22d5ptVgsBA9gz3mG-mw)
    かくしあじ お腹も満たされ暖かな陽だまりにまどろみたくなるような、そんなある日の昼下がり。昼食で使い終わった食器を片づけ終わったネロは、いつもより少し早めに夕食の準備に取りかかっていた。中央の市場で買ってきた新鮮なオスの宇宙鶏に、下味を揉みこんでいく。
     そう、[[rb:誰かさん > ブラッドリー]]の大好きなフライドチキンを揚げるために。


     ネロが夕食の準備をしている日から数日前のこと。ブラッドリーがまたもや忽然と姿を消した。どうやら北の魔法使い同士で小競り合い──魔法舎の被害は決して小さくはなかったが──をしていたところ、うっかりくしゃみをしてしまったらしい。
     賢者とその魔法使いたちは皆またか、という顔をしつつも、心配そうな顔をする者、すぐに帰ってくるだろうと楽観している者、いつ帰ってくるか賭けをする者などと反応はそれぞれだった。ネロもくだらないことをするからだと呆れつつも、いつかの夏の思い出が蘇り、落ち着かないままブラッドリーの帰りを待っていた。
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