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    kotobuki_tp

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    部下に手紙の返事を書くブレイズデルの話。部下は手紙を書くのが好きだった。

    その送り先は私で、内容も、朝食のスープが美味かったとか、庭に咲いてる花が綺麗だったとか、心底どうでもいいことばかりだ。

    私から手紙の返事を出すことはなく、いつも一方的に送られてきていた。そして、一方的に送られてきても手紙を残すことはしない。あいつからの手紙は一日に何通も届くものだから、その度にとっておくと部屋が散らかるのだ。何より、興味がなかった。

    そう伝えたとき、あいつは眉間に皺を寄せて、口を一文字に結んだ。悲しげに揺れる瞳に、少しだけ戸惑った。

    その後も、あいつの態度が変わることは特になく、仕事もいつも通りだった。ただ、いつもと違ったのは、あれ以来手紙が送られることがなくなったということ。

    次の日も、その次の日も、手紙が届くことはなかった。

    最後に届いた手紙の内容はなんだったか。引き出しの底やごみ箱を漁っても、手紙は残っていなかった。



    それから数週間後の出来事だった。

    あいつが死んだ。

    いつも通り任務を伝えて、他の者と一緒に仕事に向かわせたのに、あいつだけが帰ってこなかった。

    「申し訳ありません、ブレイズデル様。誰もこんなこと、予期していませんでした。撤退するのに精一杯で、彼女の遺体も持ち帰れませんでした。力及ばず、本当に申し訳ありませんでした。」

    ぼろぼろと涙を流しながら頭を下げる彼の言葉が、どうにも上手く頭に入ってこなかった。
    どうして置いてきたのか、何があったのか。疑問は山程あったが、口には出来なかった。誰かが死ぬのは当たり前で、今までだって何人も死んだ奴らを知っている。私が殺したこともあった。いちいち、干渉していられなかった。

    でもどうしてか、私はあいつの部屋の真ん中に立っている。

    もう、誰も使っていないベッドに腰を掛け、色褪せた枕の下に一通の手紙を滑り込ませると、そのままベッドに倒れ込んだ。

    私が書いた、最初で最後の手紙。
    今まで送られてきた手紙の返事を、そこに全て書き込んだ。

    どうして書いたのか、自分でもよく分からなかった。

    もしかしたら、区切りをつけたかったのかもしれない。あいつからの手紙が急に来なくなって、なんとなく気持ちが悪くて。だから返事を書いて、それで終わりにしたかったのだと思う。

    しばらくすれば、あいつの名前も顔も忘れてしまう。この部屋に訪れることも、恐らくもう無い。この手紙も、誰にも読まれることなく朽ちていくのだろう。

    深く息を吸い込み、部屋の空気で肺を埋める。一瞬だけ香った懐かしい匂いに、あいつの死を理解した。

    これから先、心底どうでもいい内容の手紙は、二度と届くことはなくなった。

    今思えば、一枚くらい残しておけば良かったのかもしれない。
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