似非ファンタジーまいたけ オレたちの村は首都の傍にあってそこそこ栄えていた。でも新興国に首都が落とされて、オレたちの村も従うことになった。
「で、村一番の美人って聞いてたんだけど。
お前男じゃん」
首都と周辺の村はトーマンとかいう新興国の王のもの。村の綺麗どころは集められ献上されることになった。
オレの幼馴染のヒナも。
なのでオレはヒナと入れ替わることにした。ヒナには弟の直人とオレの仲間4人がついて、国境まで逃げる手はずになっている。
時間稼ぎが目的だった。それは果たされた。
間抜けなことに白いドレスに身を包み、監視をごまかすために被ったヴェールは剥がされたために男丸出しの容姿になってしまった。
男にしては華奢な方だが女と見ればゴツイ。そんな微妙な外見だったから寝所まで保ったのは僥倖と言っていい。というか身体チェックの時に男が「こいつでいい」と腕を掴んで寝所に引っ張り込んだもんだから恐ろしいほどの幸運だった。もしバレていたらその場で殺されていたはずだ。
「煮るなり焼くなり好きにしろよ。
お前なんかにヒナは絶対ぇ渡さねぇ!!」
啖呵を切ってベッドの上に胡坐をかいた。
死ぬのは怖い。死ぬよりひどい目に遭うかもしれない。
ぎゅっと目を瞑って、その時を待った。
「ねぇ、目開けてよ」
そっと頬を包まれた。男はオレの目の前に立ち、身をかがめて顔をのぞき込んでいた。
首都に攻め込み一夜にして侵略を終わらせた王様は、思ったより整った容姿をしていた。
山賊みたいな大男を想像していたから少し肩透かしだ。
獅子のような金の髪。黒曜石みたいな瞳。造作の美しい顔立ちに象牙色の肌。体躯は小柄ながら薄手の羽織から筋肉の厚みを覗かせていた。
あまりの美しさに息を止めてしまった。
男はたまらず噴き出す。
「お前鼻の穴すげー開いてる」
「なっ…」
「女のために勇気出して、偉かったな」
頭をなでられて涙がポロリと転がり出た。それからはもう滝のように。
ゔええええと汚い声をあげても男は微笑みながら頭をなでてくれていた。
そして気が付いたら朝だった。
男はすでに部屋にはいなかった。
オレは許されたんだろうか。それともこれから牢屋に行かなければならないのか。
そんな不安を抱えているころ、王とその側近が、
「ねぇケンチン、昨日の奴嫁にする」
「なんだよ、そんなに気に入ったのか…オーミゾ村のヒナだっけ?」
「多分それ。
めっちゃかわいいの。目が青くてさ、あとアホっぽい」
「そうか…まぁよかったんじゃね?
お前も身を固める気になったってことで」
「あ、そいつ男だから子供は望めないよ。
世継ぎにはケンチンとエマの子一人頂戴ね」
「………はぁ!?」
などという会話が繰り広げていたなど、知る由もなかった。
おわる。