えいぷりるふーるなので(?)「え、ここどこ」
気が付けば見知らぬベッドの上。病院の入院着みたいな服を着て首と足には謎の枷がはまっている。
現役レンタルビデオ屋従業員のタケミチは理解した。
これは流行したゾンビドラマの導入に似ている。ホラーは苦手なのであらすじしか知らないが、デスゲーム系も同じだ。天井の隅にカメラがあることも視認した。
監視されている。
借金したりヤバい賭博に手を出した覚えもないが、きっとここにいても碌なことにならない。
よし、脱走しよう。
思い切りの良さと悪運の強さが今試される―――。
廃ビルからの転落、運よく建材にひっかかりマイキーとタケミチは三途により回収され息のかかった病院に入院した。
とくに重症だったタケミチは助かるはずもないと見捨てようとしたが、マイキーがその手を握って離さず「絶対に助けないとお前の親兄弟家族全員命がないものと思え」と医者を脅していた。
そして日本の医療技術がすごいのか本人が化け物並みの回復力なのか、意識は戻らないながらも身体の方はみるみるうちに回復していった。
見た目もガキみたいだしこいつ不老不死なんじゃね、と半笑いで言ったのは灰谷兄である。しかし乾いた笑いしか起こらなかった。
正直キモイレベル。お前はジョン・マクレーンか何かかと。
傷が完治して意識が戻るだけになってからは身柄を拠点に移し、医療資格のある構成員たちに面倒を見させ自分は監視カメラ越しにタケミチを眺めるマイキー。
棺の中の白雪姫とネクロフィリアの王子様そのものである。どっちもキモイと幹部全員一致の想いだった。
そんな日々の中ついに。
「マイキー、花垣武道が…」
「目を覚ましたか」
マイキーは複雑な思いだった。ヒナとの結婚を祝福するつもりはあった。
けれど銃弾を三発も撃ちこんだし、殺意しかなかった。
すべてを失った自分とは逆に、ヒナと結ばれ幸せになるタケミチ。
きっと心のどこかで恨んでいたんだ。オレが闇の底で這いずっているのに、なんでお前は光の中で幸せになるんだって。
殺してしまえば、自分のものになる。タケミっちは、オレのもん。
長いこと忘れていたそれは、最後の最後でマイキーの心を満たした。
でも生き延びてしまった。いや、生き延びたのはいい。眠ったままでいてくれれば、どこにも行かずに自分のものでいてくれる。
目が覚めてしまったらきっと。
「脱走しました」
九井の言葉に、あぁやっぱりと胸がナイフで刺されたみたいにじくりと痛んだ。
しかし九井は青ざめた顔のままプルプルしている。なんだこいつ。
今にも卒倒しそうだが、大きく息をついて報告を続けた。
「脱走した挙句、屋上で行われていた灰谷兄弟主催第一回ドキドキラットでカ〇ジごっこになぜか混じっている…」
「なんで」
手渡されたタブレットの画像は荒いながらも、鉄筋の上を歩く男たちの姿を映していた。
その中に見覚えのある天パが宙づりになる中年の男の腕を掴んでファイト一発をかましていた。
「持ち前の人たらしパワーで仲間を励まして苦難を乗り越えているようだ」
「タケミっちぃ~~~!?」
数分後見知らぬおっさんに『お前を絶対助けてやる!』と啖呵を切ったタケミチは、かけつけたマイキーに回収され無言で責められることになる。
おわり