chou à la crème 「所長様が帰ったわよ〜〜!」
亜樹子のそんな声に俺はタイプライターから顔を上げる。入口の方を見れば亜樹子だけでなく照井のやつもいて…しかも照井の手にあるものからは甘い香りがした。
「…なんだ?差し入れか?亜樹子」
「ふふ〜ん!麻衣さんがくれたの!試作品らしくて味の感想もお願いします、だって!」
「へぇ…フィリップ呼んでくるわ」
立ち上がってガレージへと向かうとその間に照井が淹れてるのかコーヒーの香りがした。
「…シュークリーム?」
皿に乗せられたシュークリームが物珍しいのかフィリップは瞬きを繰り返した。
「フィリップ、シュークリーム初めてだったっけか?」
「検索済みではあるよ。ただ、食べるのは初めてだ」
「なら気をつけろよ〜」
「気をつける…?何を…?」
「…ま、これも経験か」
わからないと言った様子でその大きな瞳でフィリップは俺を見つめる。
「まあまあ、食べてみりゃ分かるって」
「…翔太郎、何かよからぬことを考えていたりしないかい」
「そんなことねぇけど〜?」
「…まあ、いい。追求は後でも出来ることだしね」
そうしているうちにコーヒーの準備が出来、俺たちは四人でぱちんと手を合わせた。
「うわっ」
勢いよくかぶりついたフィリップにカスタードクリームがかかり、予想通りではあったものの俺はおかしくて笑ってしまう。
「は……ははっ…やっぱやりやがった…っ!」
「…翔太郎、君がよからぬ顔をしていたのはこういうことだったんだね」
「何事も経験、って言うだろ?」
「事前に忠告してくれるのが相棒のすることじゃないのかい?」
「俺は飴も鞭も持ち合わせてるんだよ、ほらフィリップこっち向け」
「ん、」
顔を向け瞼を閉じる。長い睫毛に、無防備な顔にどきりとしつつもクリームまみれの顔を拭く。もちろん何枚かスタッグで写真に収めはしたが。
「…翔太郎のえっち」
「はぁ!?」
「ふふ、冗談だよ。もうとれたかい?」
「ああ、けどベタベタしてるだろうし後で顔洗っとけよ」
「分かったよ。で、食べるコツを教えてくれるかい?…先生?」
いたずらっぽく笑うフィリップの顔に思わず熱が集まるのを感じ視線を逸らす。フィリップはくすくすと笑って俺の口元に指先を伸ばす。
「ついてたよ、翔太郎」
「〜〜〜てめ…」
「僕はただじゃ転ばないんだよ、翔太郎」
「知ってる」
そして俺たちは顔を見合わせ、笑い合った。
***
「美味しいわ〜!やっぱり麻衣さんのお菓子最高!それに竜くんの愛情たっぷりコーヒーもあるし❤️」
「…所長、」
「ないの?」
「いや…ある、君に対しての深い愛情が」
「竜くん❤️」
「所長…」
そしてまた一方もいつものようにいちゃつくのだった……ーー。
-Fin-