あなたに出会えて本当によかった 「棍を詰めすぎだよ」
「…ティファリアか」
はぁ、とザフォラはため息を吐くと眉間の辺りを抑える。
「はい、淹れたてのハーブティーだよ」
「…ああ、」
ザフォラがまだカップに目を向けてないのをいいことに私は背を向ける。
「じゃあ、私もやることがあるからーー」
そう言ってドアノブに手を掛けたところで低い声と共に後ろから抱きすくめられてしまう。
「おい、待て」
「ざ、ザフォラ…!?」
「お前、俺が今日何の日か気づいていないと思っていたのか?」
「だ、だって…!」
「…というか、これだけじゃないだろ?お前の本当のチョコレートは」
かさりと音を立ててザフォラはさっき私がハーブティーと一緒に置いた市販のチョコを手の上で転がす。
「…ちょうど、休憩しようと思っていたところだ」
そう言ってザフォラは腕の力を緩め私はくるりとザフォラの方を向く。その顔はほんのり赤く染まっていて思わずニヤけてしまう。
「おい、にやけるな」
「えへへ…だって…」
「…持ってくるのか?持ってこないのか?」
「も、持ってくるよ!ザフォラのために作った本命があるから!」
「ならさっさと行け」
「ま、待っててよ!?」
「わかったわかった」
ひらひらと手を振るザフォラを背で受けながら私はキッチンの冷蔵庫まで走った。
***
「本命ってあいつな…」
ティファリアがいなくなった部屋で、同じようににやつく顔を隠すように顔を覆うザフォラ。
「……はぁ」
深呼吸をし、大事に閉まっていた小綺麗な紙袋を取り出す。その中には小さなバラのブーケがありその本数は5本。
「俺にこんなもの用意させたんだ。…変な反応、してくれるなよ?」
そう呟きながらもその瞳は優しさが込められていた。
5本のバラの花言葉はーー『あなたに出会えて本当によかった』。
-Fin-