二人きりの誓い 「じっと見て…どうしたの、悠翔」
「えっ……いや…なんでもない」
言われてて悠翔は慌てた様子で視線を外す。それを怪訝に思った仁菜は台本を閉じて悠翔の隣へと寄り添う。
「悠翔?」
「…………」
隣に座ってきた雛から逃げるように視線を逸らすが逃がすものかというように雛はぐいっと自分の方に向けさせ両頬を手で包み込む。
「…なんでもないよ、本当」
「嘘!悠翔のことなら何だって分かってるつもりだよ、私は」
「…何でも、」
「だから…悠翔が何か悩んでることがあるなら…教えて欲しい」
「…えっと、その…今度の…雛の仕事…」
「仕事?」
ぽつぽつと話しだす悠翔の言葉に耳を傾ける。
「そう…その…ウェディングドレス着るだろ?」
「あぁ…うん、そうだね」
ドラマというよりは某有名なウェディング雑誌のCMに雛は出演することが決まっており雛が先ほど読んでいた台本もその台本だった。
「だから…その…俺よりも先に雛の隣に立つつ男に嫉妬したというか…その…」
ごにょごにょと言葉を濁す悠翔。けれどその言葉は雛を喜ばす以外の何者でもなかった。
「悠翔!」
「うわ!?」
突然抱きついてきた雛に対して受け止める体勢を取れずソファーの背にぶつけてしまう悠翔。
「ご、ごめん悠翔…」
「雛は謝らなくていいよ、俺が力をつければいい話だし」
そう気弱に笑う悠翔に雛はまた抱きつきたい衝動に駆られながらそっと悠翔の腕に自身の腕を絡ませた。
「ひ、雛!?」
「…嬉しくて、悠翔が嫉妬してくれることが」
「嬉しいって…」
「それを私に言ってくれるのも嬉しい。前は…言おうとしなかったし、してても口には出さなかったでしょう?」
「う…」
覚えがあった悠翔は雛の言葉に顔を顰める。
「でも、今回は言ってくれた。その変化が…何より、嬉しくて」
「雛…」
「確かに…悠翔と結婚式挙げるよりも前にウェディングドレスは着ちゃうけど…そうだ、悠翔。見学しにくる?」
「え!?撮影を…?」
「うん!悠翔と私の関係は多くの人に知れ渡ってるし大丈夫だと思うよ」
「いやでも…それは…」
「私のウェディングドレス姿見たくないの?」
「見たい!…けど、楽しみにとっておきたい気持ちと嫉妬する俺が戦ってて…」
「ふふ…何それ」
「それに…やっぱり迷惑はかけられないよ」
「迷惑には誰も思わないと思うけど」
「ううん…でも…」
「もう!…じゃあ、結婚式の予行練習しよう!」
「…?」
悠翔が首を傾げている間にレースのハンカチを持ってきた雛は自分の頭に被せる。
「…誓ってくれる?」
「……何を」
ただレースのハンカチを被せただけなのに本当に結婚式のような錯覚を覚え悠翔の心臓は大きく音を立て始める。
「私との将来、私をずっと愛すること、幸せになることを」
「…誓う。いや、違うな…誓いたい、雛が…許してくれるなら」
「許さないわけないじゃない」
「……そっ、か…」
言葉を噛み締めるように悠翔は頷くと一回、二回と雛の手の甲に右と左からキスを落とす。
「…誓うよ。雛を愛すること、ずっと一緒にいること、…一緒にうんと幸せになることを」
「…じゃあ、誓いのキスだね」
そっと閉じられる瞼に長いまつげに熱が上がるのを感じながらそっと悠翔は雛に優しい口付けを送る。
「〜〜〜〜んっ!?」
しかし。
離れようとしたところで追いかけるようにキスをされ更に真っ赤に顔を染め上げた。
「ひ、雛ぁ…!?」
「ふふ、ずっと一緒にいようね悠翔」
「もう…お前って、本当…」
仕方ない奴、と笑って悠翔は戯れるように頬にキスをして雛はお返しというようにキスを送って部屋中を笑い声で満たしたーー。
-Fin-