「Softie、もしかして泳げないのか?」
Picoの何気ない問いかけに、BFは俯きながら小さく返事をした。
話を遡ると、2人でTVを観ていた時だ。たまたまリゾートホテルの紹介番組の中で映ったスパを見て、せっかくなら近場に泳ぎに行かないかとPicoがBFを誘ったのが発端だ。
「その、ぼ、僕……こんな体だし、プールとか、一度も行ったこと無いんだ…」
BFが声を震わせながら言う姿を見て、なんて軽率なことを言ってしまったんだとPicoは深く反省した。
「Softie。泳ぎ方は俺が教えるからさ、一緒に海に行かないか?」
「でも……」
「真昼間には行かない。夜に行こう。それなら人の目も気にならないだろ?」
「それなら、まぁ…」
そうして2人は海に行く準備に取り掛かった。
昼間は賑わっていた浜辺も陽が落ちるにつれて疎らになり、一番星が輝く頃にはすっかり人気は無くなっていた。
街灯がほとんどない浜辺だが、念のためにと持ってきた手提げランプも必要ないくらい月明かりが辺りを照らしていた。
穏やかな潮風が頬を撫で、サワサワと静かな波が砂浜に寄せては返すを繰り返していた。
「人がいないのはいいな。周りに気を遣わなくて済む。」
早々にシャツを脱いだPicoが背を伸ばしながら言ったが、BFは落ち着かない様子でそわそわとしていた。
「ほ、本当に大丈夫?誰もいない?」
「大丈夫だよSoftie。俺がついているだろ?」
BFを安心させるように手を繋ぎ目線を合わせたPicoに、やっと落ち着いたBFはおずおずとパーカーを脱いだ。
まだ色濃く残る虐待の痕にPicoは少しだけ表情を曇らせたが、月明かりに背を向けて逆光になっていたためBFに気付かれることはなかった。
「よし、まずは足から海に入る。怖くなったら言えよ。すぐ止めるから。」
「う、うん…」
2人は手を繋ぎながら海に入る。思ったより水は冷たくなく、すんなりと海に入れた。
「どうだ?怖いか?」
「ううん、大丈夫…」
「よし。次は膝まで入って、大丈夫そうなら腰まで浸かる。腰まで入ったらその場でしゃがんで、あとは顔を水につける。その順番で進めるぞ。」
Picoの説明にBFはコクコクと頷いた。
思ったより飲み込みが早いBFにPicoは関心しながら泳ぎ方を教えていた。
「すごいなSoftie!十分泳げているぞ。」
「そっ、そうかな…」
「もうだいぶ泳いだし、少し休もうか。」
PicoはBFの手を引いて浜辺まで向かった。
「体、冷えただろ?ホットティー持ってきたんだ。」
Picoは湯気の立ったカップをBFに手渡して、BFはホットティーを一口飲むとPicoをジッと見た。
「どうした?」
「あ、えっと…あの、ありがとう。連れて来てくれて…」
「そんなこと言うなよ。むしろ、俺が海に無理矢理連れて来たんだからさ。」
「………本当は海とか、プールとか、来てみたかったんだ。周りの子たちが楽しそうで羨ましかった。」
BFは月明かりに照らされた夜の海をぼんやりと見つめながら呟いた。
ああ、どうしてこの子は普通の生活をさせてもらえなかったんだ。
PicoはBFを強く抱きしめた。
「Pico、苦しいよ。」
BFはそう言いながらもPicoの背中に手を回した。
「また次も海に来ようよ。Picoと一緒なら、安心して泳げるからさ。」
ゆっくりと体を離したBFは穏やかな微笑みを湛えると、Picoにキスをした。
愛しい、心の底から愛おしい存在。Picoもその気持ちに応えるように、優しくキスを返した。
穏やかに照らす月明かりが2人を包んだ。