今日はPicoのみ仕事があり、BFは留守番をしていた。今日の依頼は少し面倒だったなとため息を吐きながら玄関を開けると、キッチンからひょこっと顔を出したBFに出迎えられた。
「おかえりPico!」
「ああ、ただいまSoftie。」
恋人の天使のような微笑みに一日の疲れが吹っ飛んでしまう。可愛らしいエプロンを着けて、ぱたぱたと歩み寄ってくる姿は本当に愛おしくてたまらない存在だ。
「もう夕食できてるよ。」
「ありがとう、Sweetheart。」
BFの額にキスを落とすと恥ずかしそうに目を伏せて、真っ赤になった顔を見られないようにくるりと踵を返してキッチンに戻ろうとした。
Picoの目に飛び込んできたのは、すべらかな背中とまろい尻だった。BFが身に着けていたのはエプロンのみで、それ以外の服を着ていなかった。あまりの光景にPicoはうっかり買い物袋から手を離してしまった。ドサッという音にBFが振り返り、硬直しているPicoを不思議そうに見つめた。
「Pico……?」
「服を着ろ!!」
やっと正気に戻ったPicoは大声で怒鳴り、大声に驚いたBFはびくりと肩を弾ませた。
「あ、そ、そうだよね…やっぱりこんな格好変だよね…」
「変じゃない!いや違う、その、とにかく服を着ろ!」
Picoは自分の上着を脱ぐとBFに羽織らせた。
「こんなに体が冷えて…いつからこんな格好してたんだ?」
「君から帰って来るって連絡をもらってから…」
「もう1時間も前の話だろそれ!」
イライラとした声色のPicoにすっかり怖気付いてしまったBFの手を引いてリビングへ向かった。
「座ってろ。温かい飲み物持って来るから。」
BFをソファに座らせると、Picoはキッチンへ向かった。
あんなに怒ったPicoを見たのは初めてだ。嫌われてしまったかもしれないと、BFはすっかり冷えた両肩を抱いて震えた。
「お待たせ、ほら飲めよ。」
「その…ごめんなさい………」
「いいよ謝らなくて。俺こそ大声出して悪かったよ。」
マグカップをテーブルに置きながらPicoは優しくBFを抱きしめた。
「どうしてあんな格好していたんだ?」
「その…Picoが喜ぶと思って…」
「どうせまた、Graceの入れ知恵だろ。」
「あ、うぅ、なんでわかったの?」
世間知らずなBFがこんな大胆な行動を思いつくはずがない。以前のハロウィンの時といい、自分の可愛い恋人によからぬ知恵を与えるGFにPicoは内心ものすごく怒っていた。
「ぼ、僕のこと、嫌いにならないで…」
「そんなわけないだろ!嫌いになるもんか。ただあの格好は、あー、刺激が強すぎる。」
「刺激って?」
「その…またハロウィンの時みたいになりそうなんだ…」
ハロウィンの時のPicoの蛮行を思い出したBFは耳まで真っ赤になりながら俯いた。
「俺を喜ばせようって気持ちはすごく嬉しいけど、そのせいでお前が風邪を引いたりしたら本末転倒だろ?夕食の前に服を着ておいで。」
Picoに優しく促されたBFは寝室へ着替えに行った。
「はぁあ………」
BFがリビングを出たと同時に、Picoは長い長いため息を吐いた。
Picoは常に、BFを大事にしたい理性と、めちゃくちゃに抱いて掻き乱してやりたい本能がせめぎ合っている。今回は本当に危なかった。またハロウィンの蛮行を繰り返しそうになった自分を抑え込めた理性に感謝をした。
裸エプロンというやつは、健全な男子には刺激が強すぎる。それが愛しい恋人がするとなるとさらに刺激が増す。脳裏に焼きついた光景に下半身にじわじわと熱が集まるが、それを払拭するようにPicoは頭を振った。
大事な恋人が戻って来る前に夕食を温め直して、すぐ食べられる用意をしておこう。Picoはキッチンへ向かった。
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裸エプロン事件から数日。BFはGFと定期的にする報告会をしていた。
「どうだった?Benji。Picoは喜んでくれた?」
「あー、うん、たぶん?刺激が強すぎるって言われたけど…喜んでいたよ。」
「素直じゃないわね〜!そのままベッドインすれば良かったのに!」
「や、やめてよGrace、まだ昼だよ…」
「ねぇ次はこのセーターなんてどう?ノースリーブでとっても可愛いの!」
「えぇ…でも背中のところすごく寒そうだよ。」
「家の中で着るんだから大丈夫よ。お揃いで買いましょ♡私はピンク色にしようかな〜!」
GFの行動力に振り回されるBFだったが、まぁ彼女が楽しそうだからいいか、と思って受け流した。
さらに数日後。例のセーターを着たBFを見て、Picoはまた理性の綱渡りをするのであった。