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    緑肌トロール

    3Lカプ厨の成れ果てのバケモン

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    緑肌トロール

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    コクヨウさんの話。捏造奥さんとの結構な愛の話がある。クロルリ要素がある。コハクちゃんもいる。

    #dcst

    奇跡をそれでも待っていた 酷く惚れた女がいた。強く美しい人だった。

     その人は生きる役目を負っていた。伝統の継承、百物語を永く未来に繋げる。その為に一生、巫女として居続ける。
     子供の頃私はそれを酷く馬鹿らしいと思った。そんな事をする理由が一つも分からなかった。あの人がどうしてそんなものに縛られなければならないのだろう。どうして他のひとの様に、俺の様に生きているだけで良しとされないのだろう。それが許せなかった。そのひとに何故だと問うた。その重荷を奪いたかった。この女の為なら、このひとの幸せの為なら俺はなんでもするつもりだった。
    「それでも、遥か昔から時を超えて今に繋がって来たこの物語を私が終わらせる事は出来ません。それに、私自身もこの物語を繋げて行きたいのです。いつか必ず、この物語は明確な意味を持つ。それは明日かも数千年後かも分からないけれど、それでもその時まで、私も今まで沢山のご先祖様がここまで繋げて来た様に、未来に繋げたい。確かに私の生きる道の選択肢は無かったかもしれないけれど、それでも巫女である事は私にとって幸福な事です」
    そのひとは何処までも強く美しかった。私にはそんな夢物語が果たされる時が来るのか疑わしかった。いつかわからぬほど昔からあって未だにそんな事一度も起こっていないのに、それでも信じて役目を果たすと言う。だけれどそれでいいと言われてしまっては俺の出来る事は一つで、自分が強い事を証明し、その隣でその人を守る事だけだった。後日、俺は御前試合で優勝し、その人の夫になった。村を背負う村長となれば、同じ様にあの人が大事にするものが何か分かる気がした。

    ***********************
    月日は流れ、その女との間に可愛らしい二人の娘を授かった。あの人に良く似て、二人ともとても愛らしい。大人になれば更に美しい娘になるだろう。この頃からあの人がよく咳をする様になった、それに血が混じる事もある。俺は酷く恐ろしくなった。この病に罹った人間で、助かった者を見た事が無かったからだ。何が守るだ、こうなって出来る事が俺には何も無かった。奇跡は起こらない事を知っていた。

    すぐに娘二人をあの人から離した。まだ小さな二人が母から引き離される事がどんなに辛いか考えると胸が痛かった。コハクなんて、まだ母親に甘えたい盛りだろうに深刻な空気を読み素直に従ってくれた。村の老人達と触れ合う事が多かった為、少しずつコハクの口調は古めいたものになっていった。

     何よりの問題はこの伝統の継承だ。私は村の長としてやるべきことを成さねばいけない。巫女の夫である村長としてあの人の側にいた私は、それが村にとって重要な知識、娯楽の役目を負う重要なものだと理解していた。あの人がそれを守ってきた姿をずっと見てきた。だから、自分の娘を病の妻の近くに置くと言う危険を犯し、この重い使命を課さなければ行けなかった。長女であるルリに。昔から身体が弱い愛おしい娘に。それがあの人の夫となった自分のすべき事だった。

    「分かりました。私が巫女を継ぎ、百物語を継承します」

     愛娘は妻によく似ていて、その小さな身体で確かな強さを持っていた。古くから繋いできた夜が明けても終わらぬ口伝の百物語。それらは一つ一つ妻から娘へ伝わっていった。

    妻の歳を重ねる毎に弱っていく姿を、同じような咳をするようになった娘を、ただ見る事しか私には出来なかった。これがいずれ訪れる未来の為に必要だと言うのか、ならば今すぐ来てくれ。何度思ったか分からない。妻を娘にただ生きていて欲しいと思う事が許されない事がやはり私には許せなかった。だが、それでも妻も娘もこの役目を胸に抱き前を向いて生きている。それを見ているだけの私が私の役目を放棄することなど出来るわけがなかった。

    ルリに心底惚れている少年が時々、祭壇に来る事があった。
    「俺が絶対、どこでも行って何でも試して、ルリの病気治してやるから!!」
    そんな馬鹿げた絵空事をこの子供は愛娘に言っていた。何が出来ると言うのだろう。無知な私達に何が。親として腹立たしかった。かつての無邪気な自分を見ているようで苛ついた。だが同時に羨ましかった。そんな風に一心に信じられたらどんなに良かっただろう。日に日に自身が無力だと打ちのめされる。その中でどうしたらそんな風に前を向けるというのか。少年もいずれ俯く時が来るのだろうか私がそうだったように。そう思うとやるせない。

    それから数年経ち、何より愛した女が亡くなった。

    「いつかを、どうか諦めないで。そうして今まで繋いだものを貴方の目で見る事が叶わなくても、どうか信じて。私の為に本当にありがとう。貴方の妻でいられてほんとうに私は幸せでした。ルリとコハクをよろしくお願いします」
     そう十分だと苦しかったろうに笑って、何よりも幸せにしたかったひとはいなくなった。頬を濡らす涙はもうずっと枯れないのでは無いかと思うほど。だが俯いたままではいられない。出来る限りをこれからも、ずっとしなければ、あの人の隣にいる役目を負った自分として。繋いでいかなければいけない。絶やすわけにはいけない。そこまで繋げてきた祖先達に続いた私にもまた選択肢はなかった。

    「NOだ!断る、巫女になどなるものか!!」
    コハクはそう吐いて役目を追う事を断り家を飛び出た。母と姉がここまでした事を、お前が無為にすると言うのか。あぁなんということだ!よりによって私に似てしまったこの馬鹿娘!!

     毎日、ルリの為に湯を汲みに来るコハクに何度も説得した。
    「お前しかいない、母と姉の意志を継ぐ事は、お前だから出来るのだ。無下にするのか無為にするのか、全てを無駄にお前がするというのかコハク!!」
    「父上は何も分からないのか!役目の為に姉者は今も命を繋いでいる事を!無くなってしまったら・・その時こそ命が尽きてしまう・・!父上はルリ姐に死んで欲しいのか!!」

    気付けば私の手はコハクの頬を打っていた。涙を溜めた目でコハクは私を睨み付け、走り去っていった。手のひらがジンと痛む。
     毎日毎日、コハクは何kmも離れた山へ温泉を汲みに行き、ルリに湯治を行う。どれだけ過酷な事だろう。それでも雨であろうが嵐であろうが欠かす事が無かった。それはルリに1日でも長く生きていて欲しいからだと、痛いほど分かっていた。

     死んで欲しいわけが無い。ルリとコハクに幸せにただ明日を過ごして欲しい想いが、無いわけないだろう。ただ、生きているだけで・・・それだけで良い。
     でも、それでは、命をかけて繋いで来たあの人とルリの献身は一体どうなる。あの人が人生をかけて守り続けて来たものは何処へ行く。役目があるのだ。私にも、それを守る為の村を仕切る長としての役目が。来る確証の無い奇跡など、やはり今日も現れない。だから今までの通りに、確実に明日へ繋げ伝える方法しか無いのだ。それしか無い。

    「だからその為に娘に嫌われようが、傷つけようが、仕方のない事なのか」

     コハクの選んだ道は、コハクにとってもルリにとってもより苦しい道だ。コハクが必死にあるかも分からない最善を掴む為、手を伸ばしている事が分かる。ルリは1日でも長く生きる為に常に気を張っている。それのどれだけ辛く苦しい事か。だからこそ私は恐ろしい。いずれ、ルリが死に百物語の継承が途絶え、母娘の献身が無意味になる時がいずれ来る。姉が死んだ時、一番苦しむのはコハクだ。奇跡など無い限り訪れる未来はそれしか無い。そしてその奇跡は、はるか昔から一度たりとも来た事はない。そんなものに全てを懸ける?どうして、そんなに足掻くのだ。

    「あの!村長!薬を作って来ました。俺自身の身体で試しています。危ない事は起こりません。巫女様に飲ませてください!」

     考え混んでいて、頭にしめ縄をした、少年が側に来ている事を今まで気付かなかった。村の外れで怪しげな妖術を扱っていると言う少年だ。ルリに惚れている。名前はクロムと言ったか。

    「そんな怪しいものを、巫女に飲ませるわけにはいかん。帰れ!今すぐ私の前から立ち去れ!」

     お前を見ているとイライラする。ルリを守る力も何も無い癖に、それでも何かをしようとする姿に、かつての私より惨めな存在を見ているような気分になる。だがそんな私の心などどうでもいいと言うように、声を荒げた私に怖じる事もなく真っ直ぐ見つめてきた。

     少年は怪しげな粉の入った葉の皿の中のものを全て飲み干した。

    「毒ではありません。どうかこれをルリ・・・巫女様に飲ませてください。お願いします」

     そう言って、葉で包まれた─おそらく同じ粉が入っているのだろうものを私に差し出し、頭を下げる。自分の体でと言った。その為に今まで毒であるものも飲んだと言うのか。

    「どうして、お前はそこまでするのだ。クロム」

     そう問うと、少年はすこし驚いたような顔をした。思えば顔を合わすたびに、少年を怒鳴りつけていたので無理もない。私も自分自身に何故、と思った。

    「ただ、ルリに明日も明後日もずっと、ずっと生きて欲しい・・・それだけだ。それだけだな」

     気付けばその薬を手に取っていた。少年は嬉しそうに安心したように笑った。

    「コハク、─さんちにいる!あいつ一生懸命なだけなんだ許してやってくれ!!」

     そう言って逃げるように走り去った。あの少年は御前試合で勝てるほど力が無い。あの細腕ではルリを守る事は叶わない。

     なのに何故だろう。あの少年より私はずっと弱いと思うのは。あんな風に前を向けなくなったのはいつからだったか。それはおそらく後ろのものを、守らなければならない役目が出来たからだ。その為に弱くなったのだ。無謀に命を散らす事が出来ない理由がこの手にあった。だから二人が羨ましく、同時に二人の進む未来を思うと恐ろしかった。あの二人もまた、私の守るべきものだからだ。

     あの少年の献身も、コハクの献身も、先の未来で全て無意味に変わる日が来るのだろうか。あの美しい希望が苦しい絶望に変わる日が来てしまうのだろうか。あの努力はどこに行くのだろう。願いはどうして思うだけで叶ってはくれないのだろう。私もコハクも、明日を生きて欲しい以上の願いなど求めていないのに、またそれにより傷付け合う。そんな不毛な諍いはいつになれば終わるのだろう。どんな苦痛を誰が抱いたとしても、縋った奇跡はやはり今日も訪れない。出来る事を私は明日もする事しか出来ないまま日々は流れていく。

     そんな中、変わらない日常の中。その少年は現れた。赤い眼の生意気な、なによりも待ち侘びた存在が。
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