「……いつまで経っても夕暮れのままですね」
「ああ」
眼下で膝枕に身を委ねた十郎が静かに答えてくださいます。夕暮れの朱に染まったその表情は、無防備でとても穏やかでした。この自分の前だけで見せてくださるものです。
「十郎、これは夢です」
「そうか」
「……おかしいと思わないのですか」
「夢なのだろう」
「ですが」
「君が夢だと言うのなら、きっとそうなのだろう」
それに、と十郎は続けました。
「夢でも現実でもどちらでもいい。君がそばにいてくれるのなら」
つい笑い声を漏らしてしまいます。十郎の少し乱れた前髪をかき上げてさしあげました。
「またそんなことを」
「本心だ」
「ですが、このままずっと朝にならなければお困りになるでしょう」
「僕は困らない」
「まあ」
白く形の良い額に触れるだけの口づけを落とします。十郎は目を細めました。
十郎。
どうかもう少しだけ。
あなたと終わらない黄昏れに身を委ねる夢を見させてください。
このまま時が止まれば良いと願ってしまうことを許してください。
あなたの平穏な日々を誰よりも望んでいるはずなのに。
一日でも、一分でも。
たとえ一秒でも長く。
ずっと、ずっと一緒に。
このまま。
「夜美」
あなたの優しい声に身を委ねていたいのです。
「はい」
お願いします。
あと、もう少しだけ。
終