「……いつまで経っても夕暮れのままですね」
「ああ」
眼下で膝枕に身を委ねた十郎が静かに答えてくださいます。夕暮れの朱に染まったその表情は、無防備でとても穏やかでした。この自分の前だけで見せてくださるものです。
「十郎、これは夢です」
「そうか」
「……おかしいと思わないのですか」
「夢なのだろう」
「ですが」
「君が夢だと言うのなら、きっとそうなのだろう」
それに、と十郎は続けました。
「夢でも現実でもどちらでもいい。君がそばにいてくれるのなら」
つい笑い声を漏らしてしまいます。十郎の少し乱れた前髪をかき上げてさしあげました。
「またそんなことを」
「本心だ」
「ですが、このままずっと朝にならなければお困りになるでしょう」
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