寝言「……さくら」
聴こえてきた名前に酷く驚いた。なにせその名前の人物は、窓際の日当たりが良いぽかぽかの席で机に突っ伏す杉下京太郎とは犬猿の仲と言える人物であるからだ。桐生はソッとスマホをスリープにしてそろりと杉下の席の横にしゃがみ込むと、ジッと耳を傾ける。スウスウと穏やかな寝息が聴こえるだけで桐生はフ、と息をついた。
「(サクレ、だったかもしれない……今日あったかいし……アイス食べたかったのかも……)」
すっくと立ち上がり、桐生は定位置の教室の一番後ろに回れ右をする。その拍子に空気が揺れたのかピクリと杉下の目蓋が震え、むずがる声を上げながらもぞもぞと頭の向きを変えた。
「ン……さくら」
「……何がサクレか、ばっちり『桜』じゃん」
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