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    プ、バレンタイン嫌いそうだよね、という話(ミラプト、孤児院時代捏造有)

    #ミラプト

    for youバレンタインは嫌いだ。ピンク色に染まる街も、世間の浮かれた空気も。
    そう言ったら、モテない男の僻みか?クリーピー、と恋人が嫌味ったらしく笑うものだから、彼が後生大事にしているトゥーマッチウィットをチョコレートの海に沈めてやるところだった。
    「待て待て待て待て、冗談だ!悪かったって!」
    慌ててガナッシュの入ったボウルを退けてクリプトから像を取り上げたミラージュは、甘い香りに包まれている。キッチンに充満してリビングまで漂ってくるそれに集中力を削がれたのは事実だ。作業の手を止められたのだから、これくらいの狼藉は許されてもいいだろう。
    「全くとんだ悪戯小僧だぜ…」
    「チョコレートまみれにすればその悪趣味な像も少しは愛嬌が出ると思ってな。」
    「元から愛嬌たっぷりだって!なあ?」
    ミラージュは像を定位置に戻しながら人差し指で小突いてそれに語りかける。もちろん代わりに返事などしてやるはずもなく、フンと鼻をひとつ鳴らしてクリプトはキッチンの様子を見た。パラダイスラウンジから持ってきた大きなボウル、その中で揺れるチョコレートの海、溺れるゴムベラ、使い切った業務用生クリームのパック、傍で控えている大量のバット。一体何人分作るつもりなのか。クリプトの怪訝な視線に気が付いて、キッチンに戻ってきたミラージュはバツが悪そうに頭を掻いた。
    「お前はいつから菓子屋になったんだ、ウィット。」
    「いやぁ、そんなつもりはなかったんだが…女性陣との話の流れで作ることになっちまってよ。それを聞きつけたパスも欲しいとか言い出すし…いやお前食えねえだろ!って言ったんだが、あのモノアイに見つめられると断りきれなくて…そうこうしてるうちに話がどんどん広がって、」
    「ドロップシップの乗組員全員に作ることになった、と。」
    図星。ミラージュの笑顔が引き攣る。戦場では詐術師の異名を持つくせに、私生活ではすぐ顔に出る。クリプトが恋人を好ましく思うところのひとつだ。期待されると多少無理をしてでも応えようとしてしまうお人好しなところも嫌いじゃない。嫌いじゃないが、それがバレンタインにも発揮されることはいただけない。
    「義理チョコなんてもらっても虚しくなるだけだろうに。」
    そもそも義理チョコはアジア圏の文化だ。その存在を知るとしたら同じアジア系の―、そこまで思い至ってクリプトは確信した。ヴァルキリーが吹き込んだに違いない。
    「そうかぁ?俺はもらえりゃなんでも嬉しいけどな。まあ今回はあげる側なんだが…」
    クリプトがヴァルキリーに怨嗟の念を抱く一方、ミラージュは呑気にガナッシュにブランデーを加えて混ぜはじめる。全体に馴染ませてゴムベラの端についたそれを小指の先に取ってひとくち。長い睫毛を伏せて味を確かめるその姿は黙っていれば様になるのに、んー!んんー?と変な声を出して唸っているからなんとも間抜けだ。そのままお前も舐めてみろよと言わんばかりスプーンを差し出してきたので、渋々受け取って少量のガナッシュを掬って口に含む。チョコレートの濃厚な甘さが舌に広がり、かすかに香るブランデーが鼻へ抜ける。美味しい。美味しいのだが。この味には覚えがある。
    孤児院時代、ミスティックからもらったバレンタインチョコ。いつも年下の子たちの面倒を見てくれてありがとうね、という言葉と共に俺とミラにだけこっそりと渡されたそれは、他の子供たちに配られたものとは異なり、ブランデーの香る少し大人っぽいもので。嬉しかった一方、これは本当は彼女の実の息子がもらうはずのものだったのでは、と思ってしまった。俺が面倒を起こすたびに聞いたアレクサンダーの名前。泣き疲れて眠る彼女が求めていた、たった一人の実の息子。彼女の特別は、今ここにいない彼のはずだ。もちろん、ミスティックが真に俺たちのことを想ってくれていることは理解していたけれど、なんだかやりきれない気持ちでいっぱいになってしまって。いつのまにかバレンタインそのものが苦手になってしまった。
    「どうだ、あまりの美味しさに声も出ないってか?…そ、それとも、微妙?もうちょいブランデー足した方がいい?いや、ほら、俺は料理人だからさ…お菓子作りは勝手が違って正直あまり自信がなくて…」
    スプーンを咥えたまま黙ってしまったクリプトの目に、不安気な顔をした恋人が映り込む。彼を不安にさせたいわけではない。クリプトは慌てて口を動かして取り繕う。
    「いや、美味いよ。義理チョコにしては美味しすぎるくらいだ。」
    ほ、と胸を撫で下ろしたミラージュは出来上がったガナッシュをクッキングシートを敷いたバットに流し入れていく。それらを平らに整えて冷蔵庫に入れたところで、まだボウルにガナッシュが残っていることに気が付いた。
    「さて、義理チョコはここまで!ここからは本命チョコの時間だぜ!」
    気合いを入れるように腕まくりをしたミラージュが、ニヤリと笑ってクリプトを見る。本命チョコ、彼の言葉を反芻してはたと気付く。相手は俺か。
    彼とこういう関係になって初めてのバレンタインであるが、男同士故にチョコをあげるとかもらうとか、考えたことがなかった。故郷では女性から男性にチョコレートを送る習慣であったが、男性から女性にプレゼントをする地域もあると聞く。ミラージュが義理チョコを作りはじめた時点で気付くべきだったのだ。文化の違いとはいえ、何も用意していない自分が申し訳なくなってきて、クリプトの眉尻が下がっていく。
    「その…すまない、俺は何も用意してなくて…」
    「んん?何を畏まってるんだクリプト。俺が好きでやってるんだから気にすんなって!」
    それより早く好きな具材を選んでくれよ、とベリーやナッツ、ドライフルーツ、ミントの葉などを調理スペースに広げられる。傍には事前に焼いていたのかこんがりとしたタルト台。義理チョコはそのまま冷やし固めて生チョコに、本命チョコはタルト台に流し込んで生チョコタルトにするつもりなのだろう。戦場ではさておき、キッチンでは抜け目のない男だ。ベリーも好きだしナッツも捨てがたい。クリプトは迷いながら苺とフランボワーズ、ブルーベリー、ピスタチオを摘んでいく。
    「いいチョイスだ。ベリーもいいけどピスタチオもスイーツに合うよな。」
    クリプトが選んでいる間にタルト台の中にガナッシュを流し込んでいたようで、ミラージュはプレーンな生チョコタルトを早速飾り付けていく。中央に固めるか全体に散らすか、というクリプトの想像に反して左側に寄せてベリーが盛られていき、それがなんともシャレた仕上がりになるものだから思わず感心してしまった。お菓子作りは自信がないと言っていたが、料理で磨いたセンスが十分発揮されているじゃないか。
    「お前も好きなところに飾り付けてみろよ。」
    夢中で見ていたらそんなことを言われて、おずおずとフランボワーズを一粒、ガナッシュの上に置いてみる。そうそう、上手いぞ、と褒められて、今度は苺を手渡される。大振りなそれは置き所が難しい。クリプトは悩んだ末に、ミラージュが置いた苺の横に角度を変えて置くことにした。
    自分の人生でスイーツのデコレーションに悩む日が来るとは思いもしなかった。自分で具材を選んで、載せて、食べることになるであろうそれは、なんだか特別に感じられる。恋人と作る、自分のためだけの、バレンタインチョコ。
    「おいおいクリプちゃん、ちょっと盛りすぎじゃ…?」
    「…どうせお前も食べるんだろ。」
    自分のためだけというのは惜しくて、恋人の分もと自然に手が動いていた。折角シャレた仕上がりだったのに、盛りすぎて少し不恰好になってしまったタルトを見て、やはり自分に料理のセンスはないなと再認識する。それでも隣で嬉しそうに笑う恋人の顔を見れば、たまにはこういうのも悪くないと思えてくるから不思議なもので。ただデコレーションを手伝っただけではあるが、誰かのことを思ってバレンタインチョコを作るとはこういうことなのか。クリプトは目を閉じてチョコレートの香りを胸いっぱいに吸い込んだ。甘くて苦くて、優しくて切ない。ミスティックも、こんな気持ちだったのだろうか。実の息子のことを瞼の裏に思い描きながらも、間違いなく目の前の俺たちの笑顔を願って。
    「…バレンタインも悪くないな。」
    仕上げに砕いたピスタチオと粉砂糖を散らした生チョコタルトは、やはり少し不恰好で、彼女が見たら笑われてしまうだろう。それでも恋人と食べるそれはどんなスイーツより甘く、彼女がくれたチョコレートと同じ、優しい味がして。食べ終わったら久しぶりに、彼女にメッセージを送ろうと思う。
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    x_Bambini_x

    MAIKINGクリプトがミラージュ宅にお世話になる話
    帰るまで終われまてん
    なんとしても書き終わらせたいなぁ

    #ミラプト
    懐かしい気持ちだった。
    熱にうなされて、苦しくて・・・
    もやもやする意識の中で、時折優しく触れる手が好きだった。
    額に触れて、撫でられて冷たくて、優しい手を俺は知ってる。






    抱き上げられるように現実に引き上げられると、そこは知らない天井だった。
    『奴らにつかまったのか?』
    反射ビクッと体を動かせば全身に激痛が走る。
    「っ!!くそっ・・・、ハック?」
    無理に体を起こせば、サイドテーブルに置いてあるハックが目に入る。
    『ハックがあれば逃げられるか?』
    部屋を見渡し、ハックを抱え扉と反対側のベッドに身を隠すように座り込む。
    外装の確認をして起動スイッチを押せば、すんなりと電源が入ることを確認する。
    『休止モードに入っていた・・・?』


    ーカチャリー


    「!!!!」
    「あ・・・。目、覚めたのか?」
    この声は聞き覚えがある・・・
    「ウィット・・・?」
    「・・・全く心配させやがって。動けるならこっちの部屋に来い。服はその・・・着てこいよ。その辺のヤツ、使っていいからな。」
    そういって、またカチャリと音がする。どうやら部屋の扉を閉めていったらしい。
    『逃げるなら逃げろということか』
    2052

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