あの人が沢山の言葉を贈ってくれても、僕はいつまでも自分を信じられないままだった。読んで字の如く、自信なんてこれっぽっちもなかった。どうしたらつくのかもわからない。ただ、あの人のようになりたいと思う気持ちや言葉は本物だったから、ただの虚勢にならないようただひたすらに努力を重ねた。むしろ言葉に出せばそうやすやすと失敗はできない。追い込むようにして逃げ道を作らない。我ながら厳しめの有言実行だった。だけど恐らくここまでやっても、いや、確実にこのままでは届くことはないのだろう。
もしかしたらこのやり方が間違っているかもしれない。
もしかしたらこの振る舞い方が間違っているかもしれない。
もはや、なにもかもが間違っているかもしれない。
ぐるぐると余計なことを考えては鍛錬と討伐を繰り返す。
怪異に勝てて当たり前、市民を助けられて当たり前のはずだ。
勝てて当然、救って当然、勝てて当然、救って当然。
そうでなければ評価されない。だが、賞賛されるのは当然だ。何故なら僕はシデン・リッターなのだから。だけれど、いかに讃えられようと、勲章を与えられようと、感謝の言葉をもらおうと、嫉妬の目で見られようと自分の力を心の底から信じることはできなかった。
いつだってそうだった。
他人は僕の表面ばかりをなぞるだけで、本質をみようとしない。輝かしい功績の裏で一生日の目をみることのないものがごまんとあることを、ひとは知らない。
だからこそ、「お前の頑張りはみている」というあの言葉だけでどれだけ報われたことか。あの人はきっと、他の奴らにも同じ言葉をおくるのだろう。だけどそうではないのだ、あのひとだけがぼくにきづいてくれた!ずっとずっと、先の見えない暗がりを進んでいただけの自分に、そっと灯火を分け与えてくれたのだ。その事実だけが僕の心を突き動かすのだ。ただの憧れだったものが、崇拝にまで昇華されたような感覚をおぼえた。別に誰かに褒められたくて頑張ってきたわけじゃない。だとしても、それでも。
あの人に到底及ばないとしても、また鍛錬をするだけだ。あの人が褒めてくれた努力を、また繰り返し繰り返し積み重ねていくだけだ。そして自分が、誰よりも敬愛する隊長からいただいた信頼に足るだけの力があるのだと、全世界に吠えるようにして知らしめてやる。きっと遠くまで轟音の如く鳴り響かせてやるとも。
たとえ貴方の声が僕の耳に届くことがなくなったとしても、貴方の言葉が意気地なしな僕を突き動かし続ける。