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    にさんかたんそ

    @4_Reichen

    pixiv https://www.pixiv.net/users/1814643


    #コンパス のぬるま湯に浸かってもう5年になる

    スカーレットネクサスの二次創作物については一律以下の文章が適用されます。
    「このコンテンツはファンメイドコンテンツです。ファンメイドコンテンツポリシー(https://snx.bn-ent.net/special/fan.html)のもと制作されています。」

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    にさんかたんそ

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    sknkより
    ネタバレ前提。
    瀬戸誕に合わせてTwitterに投稿したもののリメイクです。紫電襲かもしれない。

     時間が経つたびにあなたのことを忘れていくようで、日々の思い出がかき消されるようで、ただただ寂しいのだ。
     あなたのことを、片時も忘れることなどなかったというのに。こんなにもあっさりと薄れていくだなんて、時間は思ったよりも残酷だった。
     晴天の中、自然に飲み込まれたような道路でひとり佇む青年がいた。何も言わずただ黙考していた。
    「......さながら恋する乙女みたいだな」
      ぼんやり空を見ながらシデンはつぶやく。
     雲一つない穏やかな空だ。日差しは暖かく、 春の陽気を思わせるような青い風が吹いている。
    「突然どうしたのシデン。 変な独り言ね」
    「うわ! 後ろからいきなり声をかけるな! いるならいると言え」
     真後ろ、聞き馴染みのある言葉が聞こえた。
     かつて同じ隊に所属していたカサネ・ランドールであった。
    「声をかけたらそれはそれで嫌がるのに。面倒ね」
     カサネの心底嫌そうな言い方とは裏腹に表情は穏やかだった。これくらいの掛け合いは日常茶飯事だったからだろうか。特に気にとめることもなく隣に並ぶ。
    「うるさい。そもそもなんでお前がクナド高速なんかにいるんだ」
     静かに桜の枝が揺れる。あわせて、カサネの髪も揺れる。
    「そっちこそ。どうせ考えていることはおんなじなんでしょうけど」
     花びらが舞う。
     草木の匂いと静かに吹く風が、彼らを平等に包む。
     カサネはどこか遠くを見るように視線を投げかけながら、抑揚なく呟いた。
    「......最近、なんだか妙にさみしいの。置いていかれる側の気持ちを、何度も味わったからかしら」
     大きな動乱から時間が経ち、喪ったものへの感情が追いついてきた頃、言葉にあらわせない悲しみに打ちひしがれているのは当然であった。
     その瞳は涙で揺れ、翳りを湛えていた。
     強がりのように見えた、そのほんの少しの微笑みから、シデンは目をそらした。代わりに青天を仰ぎ見る。
     似たようなことを考えていたが、自分もこんな顔をしていたんだろうか。
    「置いていかれてなんかない。僕たちは確かに追う側だろうが。......あの人は、あの人たちは、きっと待っていてくれている。それに、僕たち自身がまだ生きている内にちゃんと追い越さなきゃならないんだ。ぶつくさ言ってる暇はない」
     彼の憧憬と彼女の慈愛を思い浮かべながら、はっきりとした口調で応えた。
    「本当なら、今日も訓練に費やすつもりだったんだ。だが、人を悼む日くらいは設けるべきだと、そう思ったからここに居る」
     握った拳に力が入る。
     カサネは彼の眼差しがいつかの隊長と似ていることに気づいた。
     彼もまた悲しみに打ちひしがれる者のはずだった。その悲しみを乗り越え、先へと進もうとしている。その熱い眼差しが、閃光のように眩しくみえた。
     シデンは大きく息を吸った。
    「......はやくセトさんにいい報告ができるようにしたいな」
    「そうね。ほんとうに皆が安心して暮らせる平和を掴みとらなくちゃね」
     そういえば、と思い出したようにカサネは言葉を続ける。
    「シデンも、最近は隊長職が板についてきたんじゃないかしら」
     そうだろう、と踏ん反りかえるかと思いきや、シデンからは淡々とした評価が返ってきた。
    「いいや、まだまだだ。 実際の戦闘では隊員ひとりひとりの長所短所を理解したうえで動き、 フォローをしながら怪異を倒す......そういう動きが求められるが、僕一人だけ臨機応変に動けるようになったところで何にもならない。僕の意図が伝わって、他の奴らもちゃんと動けるように導いてやらなきゃ意味がないんだ......きっとセトさんなら、こんなことでうじうじ悩んでない」
     そうでもない、と困ったように額に手をあてため息をついた。ため息しつつも語り口からみてやりがいはあるのだろう、任されたからにはしっかりやり遂げる男だ。
     努力の人だということをカサネは知っている。
    「お前からみてそういう評価が出るのなら、少しくらいは『らしく』はなっているんだろう」
     セトさんに比べればとてもじゃないが。
     ぼそりと本音が溢れる。
    「いつになれば、あなたのその癖はなくなるのかしら」
    「......多分、あの人を越えられたと思った時だ」
     超えると言いながら、まだ並べてもいない人のことを想い続ける彼の癖はいつしか前向きなものになっていた。
     他ならぬ、誓いの言葉でもあった。
     残された自分たちが後世に残せるものは一体何なのだろう。平和のために何ができるのだろう。与えられた平穏のために、自分達はどれだけあの人のように生きられるのだろう。
     考えることは尽きないが、シデンもカサネも前を向いて歩み始めていた。
    「おい、カサネ。帰ったら特訓の相手をしろ」
    「いいわよ」
     シデンはカサネが珍しく即答で応じたので驚きの表情をみせた。
    「......なんだ、珍しくやる気だな」
    「誰かさんが凄くやる気だから」
    「なんだその言い方。まるで僕がいつもはやる気ないみたいじゃないか」
    「空回りする時はあるわね」
    「貴様〜!!」
    「ほら。早くいくわよ」
     なんでもない会話が崩壊した道に響く。
     風が吹く。
     今日も平等に時は流れる。
     瓦礫が積み上がった道路の片隅、手向けられた花が小さく揺れていた。
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