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    たんそ

    @4_Reichen

    pixiv https://www.pixiv.net/users/1814643


    #コンパス のぬるま湯に浸かってもう7年になる

    スカーレットネクサスの二次創作物については一律以下の文章が適用されます。
    「このコンテンツはファンメイドコンテンツです。ファンメイドコンテンツポリシー(https://snx.bn-ent.net/special/fan.html)のもと制作されています。」

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    たんそ

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    ふぉろわっさんへ。

    ※特殊設定。①現パロ②セトとシデ、カサが親戚関係③セトがだらしなさ過ぎる
    このコンテンツはファンメイドコンテンツです。ファンメイドコンテンツポリシー(https://snx.bn-ent.net/special/fan.html)のもと制作されています。

    夏の誘い夏の誘い

     某所、初夏。照り付ける日差しや湿気が、身体に纏わりつき不快感を覚えるような時節。シャツの襟元をつまんで軽く仰いでも、肌にぬるい風が通うだけでちっとも良くならない。
     シデンはゆるゆると歩いていた足を止めて、目的地の建物を見上げる。
    「相変わらずいつ倒壊してもおかしくなさそうな出で立ちだな」
    「セトさんが住んでいるところなのに、そんなこと言うのね」
     独り言を拾う声が後ろからかかる。同行者でいとこのカサネだ。暑さに対してなんともないような表情をしている。
     セトとはシデンとカサネの伯父にあたる人で、ふたりにとって実の親以外でもっとも身近な大人であった。
    「そもそもセトさんくらいの人なら、もっとランクの高いマンションに住むべきなんだ。僕だって何度も進言してるんだぞ」
     伯父の家はいかにも独身男性が住んでいそうなボロアパートだった。別に、金銭的に余裕がないとか、良い物件がないとか、なんらかの理由があるわけではない。電話で引越しについて話す度に「面倒だから」「俺にはこれくらいが丁度いいんだ」等々、のらりくらり躱されるばかりで、シデンが見繕って送った物件情報には一切触れず「そんなことより最近勉強のほうはどうなんだ」と話を逸らすのだ。
    「シデン、行かないの」
     カサネの問いかけで、飛んでいた思考が現実に戻る。
     錆びた階段をあがり、二階の角部屋へ向かう。玄関扉に直接くっついている郵便受けにはこれでもかと封筒やらチラシやらが突っ込まれている。シデンはやや乱暴に、頭を出しているそれらを掴んで引っこ抜く。何らかの督促状は入っていなさそうだ。この前は水道代が支払できていない旨の知らせを見逃しそうになり、あやうく止められるところだった。
     親から預かった合鍵を取り出す。部屋番号が書かれた金属のタグと簡素なキーがぶつかって、風鈴に似た音が廊下に響いた。

     惨憺たる有様だった。
     扉を開けてすぐ振り返り、カサネに「共用スペースの掃き掃除をしてくれ」と頼む。掃除用具を渡して、部屋の中があまり見えないように、するりと入室した。
     玄関を入ってすぐに広がるワンルームの小さな部屋。ただでさえ狭いのに床には足の踏み場がほとんどない。衣服、雑誌、ペットボトル、段ボール、プラスチック容器、缶、瓶、缶、瓶。服や書物は層状になっているので見た目より量はずっとずっと多い。こんなにとっ散らかってるのはかなり久しぶりだ。多分、カサネはここまでの有様を見たことがないな。シデンはとりあえず、あまりの酷さにカサネが絶句しない程度まで、短時間で片付けをしなければならないのだと察した。
     玄関横のキッチンもひどい様子だ。一瞥するだけで溜息が出る。シンク周りは意外にも綺麗で、ガスコンロに至っては油汚れもない。代わりにコンビニ弁当の空容器であふれかえっており、自炊してないことが伺える。容器はどれも水で軽くゆすいで干されており、すぐごみ袋にまとめても問題なさそうだった。
    (セトさんって、そういうところがあるよな)
     プラ容器を洗って干す、みたいな手間がかかる気遣いはできるのに、やるべきことが多すぎて手が回らず、肝心のごみ出しができていない。ごみをまとめた袋がちらほらあるのがその証拠だろう。
     靴を脱いで床に上がる。部屋の隅で鎮座しているスティック型の掃除機がいまだ健在なのに安堵しながら、シデンは玄関先でそのまま身支度を整え始めた。
     流石の手際でマスクと三角巾と割烹着とゴム手袋を装備したシデンは、手提げからごみ袋を複数枚取り出し手当たり次第分別し袋の中へぶち込んでいく。
     シデンが入室してから、ここまでで約十分と少し。
    「終わったわよ。これ、燃えるものでまとめておいたから」
     ノックもなしに開けられる扉。換気のために開け放っていた窓から扉へ一直線の風が吹く。
    「あら、思ったより散らかってないじゃない」
     カサネは意外そうな顔をしつつ、部屋を見まわす。
    「そ、そうか、もな」
     洗濯機に脱ぎ捨てられた衣服を詰め込み、本棚へ書物書類を混在したまま押し込み、すぐ出せそうなごみは瞬時に分別して袋にまとめて……短い時間のなか、ある程度足の踏み場が見受けられるくらいに片付けられていた。カサネは、これでも作業が進んだ状態とは露ほどにも思っていないようである。カサネの憧れを壊さずに済んだなとホッとしたが、顔に出すとそこからなにがしかを読み取られそうだったので顔を逸らす。マスク越しでも油断はできない。
     ここからの清掃はふたりがかりということもあってかなり早く進んだ。台所付近は仕上げの掃除機をかけたのもあり、だいぶ綺麗になった。そして、片付くにつれて少しずつ違和感が浮き彫りになる。
    「机の上に置きっぱなしだなんて、セトさんらしくないわね」
    「……カップ麺の汁、コンビニ弁当の食いかけ、エナドリ、炭酸飲料の飲みさし」
    「呪文?」
    「僕の目の前にある呪物のことだ」
     異臭を放つ呪いを台所で処理しながらシデンは露骨に嫌そうな顔をした。カサネの言う通り、汚らしく食べかけ飲みかけを机に放置するのはあの人らしくない。ちゃんと生ごみでまとめて水気をきって小さな袋に入れて縛る、までする。というか、そもそもあの人は食事を残さない。
     まだいくつか残る呪物を捨てるために机まで戻る。その時、なんとなしに洗面所をちらりと見やった。
     ひとつのコップに、歯ブラシがふたつ。
     
     そもそも大掃除は、シデンやカサネの親達がセトの生存確認のために行なう節があった。
     単純にこの住処の主は多忙に多忙を重ねた人間で、異常なまでに忙しい大学教員なのである。そして、自分に対しては適度に適当なため、生活は必要最低限の行動で賄われる。
     ここまで考えて、急に合点がいった。今まで部屋が大荒れしていなかったのは、自分たち以外の誰か、第三者が直前までこの部屋を片付けていたからだ。今にして思えば、やたら奇抜な私服だったり、謎にふわふわしたストールがあったり、ひとり暮らしにしてはやたらと種類の多い調味料だったりと、あの人以外の痕跡があったじゃないか。毎回、それらは必ず「もう使わないから捨てておいてくれるか」と言われ、まだ使えそうなものでもシデンたちが捨てていた。
     今回の掃除は珍しく、あの人自らの要請だった。ここから違和感をおぼえるべきだったか。おそらく此度の第三者は家事が壊滅的にできないタイプだったのだ。だから、この有様。
    「ああ~」
     うめき声をあげながら三角巾、マスクをはぎ取りその場にへたり込む。我ながら情けない声だ。聞きたくない。
    「なに」
    「……お前、セトさんに恋人がいるって気づいてたか。しかも、けっこう、とっかえひっかえ、かもしれない」
     シデンはおずおずと顔をあげて、カサネを見やる。
    「恋人かどうかはわからないわよ。だって、この前聞いてみたらセトさんが『ちょっと違うかもな』って言ってたもの」
     あっけらかんとした様子で返され、シデンもあっけらかんとする。
    「は? いつの話だ」
     ちょっと違う、の部分より気になったところをつつく。
    「いつだったかしら。たしか勉強会の日だったから去年の話よ。シデンはいなかったわね」
    「去年!? というか、待て、勉強会だと。なんだそれは、初耳だぞ。まさか僕に抜け駆けでセトさんと」
     カサネは面倒事を察知して話を打ち切るように背を向けた。
     無視するな! とシデンが叫んだのと同時に、部屋のドアが開いた。
    「ふたりとももう来てたのか。しまったなぁ、やっぱり今日は丸一日休みにするべきだったか」
     あわただしく帰ってきた家主が入ってくる。着ていたワイシャツのボタンを緩め、一直線にエアコンのリモコンを手に取る。合わせてカサネは窓を閉めた。
    「せ、セトさん、お邪魔してます」
    「来てくれてありがとうシデン。カサネも。前会ったのは春先だったか……元気そうで何よりだよ」
    「セトさんこそ、体調は崩されていませんか」
     カサネがピンチハンガーに吊るされていたタオルを一枚渡す。薄手のタオルなら乾く程度の時間が過ぎていたのだとシデンは気づいた。
    「んー……まぁまぁかな」
     セトは礼を口にしながら受け取り、煮え切らない表情の顔を拭く。
    「ところで、シデンはその恰好暑くないのか? もうかなり片付いてるし脱いだらどうだ。あと、これ。腹減ったろ。飯にしよう」
     手に下げていたコンビニ弁当と飲料が入った袋を見せて、セトは楽しそうに笑った。
     
     食事中は学業のことばかりが話題になった。最近の授業についてとか、来年は受験だけれど進学先はどうするとか、遠いところに行くなら寮か独り暮らしか実家通いか、どれが自分たちにとって都合良いか、とか。部屋の中はたびたびだらしなくなるが、教員らしく相談に乗ってくれる姿はやはり頼もしかった。
    「なあ、誰か訪ねてこなかったか」
     食事の片付けも終わり、あと少し頑張ろうというところで、急にセトがふたりに問うた。視線の先には扉に刺さっていた封筒の束。シデンは首を振り、カサネは廊下の掃除中も人影はなかったと伝えた。
    「ここ数日変な奴が訪ねてきてるみたいでな。大丈夫だったんならいいんだ」
     セトは慎重に束からいくつかを抜き取る。どれも茶封筒で宛先宛名が書いていなかった。封を破る。
     溜息。一瞬、中身を覗いたセトの目が面倒くさそうにゆがんだ。
     机の上で逆さに振れば、手紙が出てくる。合わせて、金属の何か。
    「……カミソリじゃないですか」
    「シデン、警察を呼びましょう。セトさんの言う変な奴がこれを送り付けた犯人なら行為がエスカレートするかもしれないわ」
     変な奴という言葉に引っ掛かったのもあって、カサネは危険視しているようだった。今にも電話をかけそうなカサネを制しつつ、セトは言う。
    「ああいや、そこまで大事にしたくないんだ。心当たりがないわけじゃないしな……多分、知り合いか、そのまた知り合いあたりだろう。直接ちゃんと言っておかないとな。かわいいお前たちが危険な目に合うのも嫌だし」
     彼の曖昧な言葉と苦笑にふたりは戸惑う。目星がついているならば余計に相談したほうがよかろうに。
     説得のため口を開いた時には遅く、セトは証拠になるはずの手紙と封筒を手で破り始めてしまった。手紙にはびっちりと何かが書き記されていた。恨みつらみでも書いてあったのだろうか。バラバラにされ、意味をなさないただの文字に成り下がったように感じた。ふたりは、セトが小さく「こんなのよくあるから平気さ」と呟きながら破るので余計に何も言えず、細かくなる紙を見つめるしかなかった。ただ、シデンはこのままではセトが刺されかねないので、絶対に引っ越しをしてもらおうと強く決意した。
    「さて。お前たちのおかげでだいぶ綺麗になったよ。悪いんだが、あともうちょっとだけ手伝ってくれるか」 
     不要品も一緒に処分したいらしく、今度は戸棚やクローゼットの中まで開けて片付けることになった。この時にはもう、シデンもカサネもセト自身の不要品ではなくここに通っていた誰かの私物が不要になったから捨てたいのだと理解していた。
     人の痕跡は歯ブラシだけではなかった。洗面台の戸棚には洗顔、化粧品、コンタクトレンズのケース。隣のラックには華美な下着、タオル、部屋着。それにしても持ち込みすぎじゃないか? いや、今までもこんなもんだったかもしれない……意識すると片っ端から見つけてしまうのでシデンは時折目を瞑る。メイクも落とせるタイプの洗顔料を手に取りつつ、洗濯物を畳む彼の背に声をかける。
    「セトさん、これ」
    「洗面のやつか? もう捨てておいてくれ」
     いつものやつだ。ちらりとも見ず言うのが少しだけ怖かったが、なぜだか安心した。
     ラックにあったリネン系の私物を手にしていたカサネと顔を見合わせる。互いの思っていることが同じだったような気がした。
     化粧品の捨て方を調べるため、シデンは区で配られているごみの分別冊子を開きながら、持ち前の分析能力でセトがどうしてこうなるのかを考えていた。
     元来、この人は人たらしが過ぎるのだ。セト・ナルカミは仕事が出来て、優しくて、気立が良くて、かっこよくて、顔も良い人なのだから、ちょっとでもこの人に気にかけられたら勘違いする奴なんてごまんといる。何処ぞの誰かにも好意的に接した結果、入れ込まれ家にまで上がり込まれて、とんとん拍子に事が進んだのではなかろうか。出て行かれるまでもセットで。そこに去るもの追わずの精神が合わされば、なるほど、恋人の途切れない優男の完成である。もはやここまでくると天性の才能かもしれない。こんな良い人に優しくされたら、誰もがセトさんを好きになるに決まっている。僕だってセトさんを尊敬してるし好きだし、と自身の気持ちにまで思考が及んだところで「そうだ! いいことを思いついた!」突如としてセトが大声を出した。しかし、閃いた名案とは、ふたりにとって突飛なものであった。
    「真面目な提案なんだが……お前たち、一緒に住まないか?」
    「え」
    「もちろんここじゃなくて、部屋がいくつかあるところに引っ越すんだ。実家よりここらの方が交通の便も良くなるから通学が楽になる。一応、俺も大人だし独り暮らしよりか安心してもらえると思うんだ」
     屈託なく笑うセトをみて、そういう仕草言動が勘違いのタネなんじゃと疑いつつ、シデンは魅力的な誘いを頭の中で反芻する。シデンは親がまあまあな過保護のため、少しばかり親元を離れて自由がきく環境に身を置きたかった。それになにより、セトの私生活を支えられること、セトによる新たな被害者を未然に防げることも利点である。
     カサネはどうだろうか。カサネにとっても実家は窮屈なはずだ。憧れのセトさんからの提案をふたつ返事で受けるかと隣を見れば、色めき立ちながらもうろたえるカサネが居た。
    「……私は、お姉ちゃんが、いるので」
    「それならナオミも一緒にどうだ? 俺は構わないぞ。もちろん、本人が良ければ、だが」
     重なる提案にカサネの頬が紅潮していくように見えた。
    「まぁ、まだまだ先の話と思うかもしれないが、それとなく家族に話しておいてくれよ。受験なんて案外あっという間に終わるんだから」
     よろしくなーとひらひら手を振って楽しそうなセトと裏腹にドギマギするふたりなのだった。

     終わる頃には夕暮れ。夕飯もどうだと言われたが、明日は学校なので長居するのは引けたため、シデンとカサネは大人しく家路についた。駅までは同じ道を歩いていく。セトから、送っていくとも言われたが、丁重に断った。
    「さっきのセトさんの話、シデンはどう思う」
     ふたりで熟考する時間が欲しかったからだ。
    「一緒に暮らす話か」
    「そう」
    「他ならぬセトさんの提案なんだから最善に決まってるじゃないか。理解ある保護者になってくれるし、家での僕らの様子も理解したうえでああ言ってくれてるんだろ……カサネも家を出たいんじゃないのか」
     珍しくうろたえたままのカサネを捲し立てる。
    「それは、そうだけど」
    「ナオミはひとりにさせられないよな」
    「でもセトさんは一緒でも良いって……」
    「じゃあ答えは出てるじゃないのか」
     シデンは乗り気でも、カサネはいまいち踏ん切りがつかないようだった。
    「セトさんも言ってたが、まずはナオミと相談しろよ」
     まだ未成年のため、親の意思に強く左右されるのが歯痒かった。とはいえ、少しでも望みがあるならば説得してみるべきだ。
    「……そうするわ」
     昼と打って変わって涼しい風が頬を撫でる。来年の今頃はどっぷり勉強漬けの毎日で、こんな風に伯父の元へ行くことは憚られるかもしれない。
    「僕も精一杯やってみる。だから、お前もやれるだけのことはやってみろよ、カサネ」
    「応援してくれるの? いつもは憎まれ口ばかりなのに今は素直なのね」
    「……さっきの言葉取り消させろ」
     陽に照らされたふたりの影は長く伸び、立ち並んだまま歩いていた。
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