五悠になるはずだった話「唐突ですが!タイムカプセルを埋めたいと思いまーす」
ハイ拍手!なんて軽いノリで教室にやって来た先生に俺はもちろん釘崎も伏黒も首を捻るしかない。いや、釘崎も伏黒もあからさまに嫌そうな顔をしていると言った方が正しいか。鼻歌を歌いながら教卓へ向かって歩く先生を三人、暫し視線で追った後で二人は無視を決めたらしく各々が文庫本や雑誌に視線を戻していた。
「あれ、聞こえてなかった⁇タイムカプセルだよーワクワクするでしょ?」
こつこつとチョークが板を叩く音と共に黒板にでかでかとタイムカプセルの字が踊る。ご丁寧に語尾にハートマークが付けられたそれは、いつぞやドラマで見た教師の自己紹介シーンを思い起こすものだ。得意げに振り返った先生にもノーリアクションを決め込む二人。漫画よろしく木枯らしが落ち葉を攫う幻覚が見える。
「あー……先生、急にどうしたん?」
「ちょっと虎杖、何聞いてんのよ!こっちが興味ある素振り見せたら調子乗んでしょうが!」
「野薔薇聞こえてるよー。先生がわざわざ君達の青春の片棒を担いでやろうって言うのに酷くない?」
「余計なお世話です」
「よく言った伏黒!」
ビシッと伏黒を指差した釘崎に指を差すなと嗜める伏黒。結局二人ともが読んでいたものから顔を上げている。何だかそれが嬉しいと思ってしまうのは、先生の言ったタイムカプセルって言葉に少なからず自分の心が踊っていたからだ。視線を前に戻せば、目隠しで分からないが先生と目が合った気がした。にこりと口元に笑みをのせて手を振られる。とりあえず振り返しはするが、いったい何なんだ。
「そもそもタイムカプセルは卒業式に埋めるもんじゃないの?何で今なのよ」
「え……野薔薇知らないの?今時のナウでヤングな若者はそんなものに縛られないで思い出づくりするのが都会の感性なんだよ!」
「そもそも、ナウでヤングが今時じゃねぇのってツッコんだ方がいいんかな?」
「やめとけ、話がややこしくなる」
そっか、って伏黒に頷いて釘崎と先生の言い合いが終わるのを待つ。結局高い飯に釣られた釘崎が折れてタイムカプセルは作られる事と相なった。中に入れるものは各自が考えて用意し、埋めるのは週末ということまで予定を立ててから先生の解散の声と共に散って行く。教室に残ったのは俺と先生だけ。
「で、先生。俺になんか用事でもあった?」
「なんで?特にないけど」
「あれ、そうなん?さっき目が合って手を振られた感じだったから何かあるのかと思ったわ」
「ファンサだよ♡嬉しくなかった?」
「先生たまに訳わからんこと言うよね」
俺の返事がお気に召さなかったのかぶうたれながら隣の席に先生が座る。先生にとっては小さく感じるであろう椅子の背もたれに背を預けて長い足を伸ばして天井を眺める様が妙にはまっていて面白い。学生の頃の先生ってどんな風だったのかなんて所に思いを馳せていると細やかな笑い声がして顔をあげる。