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    seki_shinya2ji

    @seki_shinya2ji

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    seki_shinya2ji

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    ほの薄暗い侑北です。
    以下の表現にご注意ください。
    ・事後表現
    ・中田氏表現

    鰊雲の摺りガラス春の天気は変わりやすい。昨日は晴れていたのに深夜から風が吹き、朝になると雨が降っている時がある。気分屋というよりかは唐突に来る腹痛の波のようだ。

    お腹が痛い。お腹がいたい。
    中に出すことは、北が望んだことで、いつもそうしている。出して、と縋る。どうしてもこの痛みに歯を食いしばりたくて渋る相手のスキンを外してでも強請る。
    北の性別は男だ。数刻前まで一緒にいた人間と同じ性別だ。人間の構造は皮肉で不便にできている。人間と人間が交われば人間ができるわけではない。人間の中でも男と女が交わらないとできない。困ったことに、北が交わりたいと願ったのは男だった。
    別に女でも良かったし、そもそもその男じゃなくてもよかったのかもしれない。しかし北としてはその男が良かった。その男相手だったら何を捧げてもいいと思った。

    お腹が痛い。お腹がいたい。
    この腹痛は、女が生理になると苦しむ痛みと似ているらしい。中に吐き出された白い無駄に含まれるカタカナの成分がそうさせるらしい。他にも、出す器官にモノを入れると体は恐ろしいほどの拒絶を見せる。それもそうだ。自分の体には悪いことをしていると常々思っている。思っていても気持ちは裏腹で喉から手が出る程男のものを欲してしまう。蜜事ができる日が来るとその体の拒絶を見て見ぬふりをして準備をする。
    そこまでしてでも男のことが好きで好きでたまらないのだ。

    おなかがいたい。おなかがいたイ。
    ギリギリと抓られるようで体の内側が剥がれるような痛みに足の指がギュッと委縮する。脂汗がにじんでくる。女の人はこれと同じ痛みを毎月感じているらしい。加えて精神的に不安定になったり過食・拒食になったり、眠たくなったり寝れなくなったり。そういうことも起こるらしい。北の場合はこの痛みだけを2月に一度ほど経験している。自分の母、両親を生んだ祖母2人、仕事で知り合いの女性や高校の同級生女子みなこの痛みを経験しているらしい。人によって痛みがあったり無かったりするそうだ。それも北が見たネット上の情報のため全てを鵜呑みにしているわけではない。それでもその痛みと60歳ごろまで毎月付き合うのかと思うと女性には頭が上がらない北だ。律儀である。

    おなかガいたい。おナカがいたい。
    そうなると、あの男の精液を無駄撃ちしている自分に刺さる後ろ指を想像してしまう。本来なら毎月の痛みを越えて子宮という場所の準備を整えてきた女性に渡すべきものなのだろう。しかし北は男だ。男性である以上子宮は生まれつきない。それこそ父の精液から受精した母の卵子の頃から決まっていたことなのかもしれない。保健体育か家庭科の授業で習ったような気がするが、腹痛に苦しむ北はそんなことを思い出す余裕なんてない。そう思うと本当に生産性のない行為をしていると思ってしまう。その事実を突きつけられて息が詰まる思いだ。それでも男の精子を欲してしまう自分がなんと浅ましいことか。涙がこぼれてしまう前に乾いた笑いが滲む。本当に自分という存在がどれだけ未熟なのか、と体をもって思い知らされる。時々「私は生まれたくて生まれたんじゃない!」とセンチメンタルを叫ぶ子供はいる。全くもってその通りでその子供の意志を否定したいわけじゃない。しかし北は思う。「性別は自分の意志で決定したかった」と。好きな男と性行為をした証が疑似的な生理痛なんて、そんなお笑い種、心が轢かれる気がする。

    お腹がイタイ。おナカが、イタイ。
    少し波が引いてきた。言っていなかったが、腹痛はあるが同時に腰もひどく痛んでいる。喉も枯れていて脹脛に攣ったような痛みもある。生暖かい自分の息すら忌々しくなる。こんな思いをしないといけないのか、なんて思っていない。自分で望んだ行為なのだから。しかしこうは思う。「どうして毎月この思いができないのか」と。もう、自分の足で、立てる。そう思った北はトイレから出た。
    トイレから出てしまえば金髪に会うことになる。この部屋の主がいるホテルなのだから当然なのだが、歩くことすらできなかった自らの脆弱性が疎ましい。しかしここまで抱えて運んでくれたあの男のことを惚れ直しているのだから手に負えない。馬鹿らしくてどこまでも不器用で素直な自分に呆れる。それでもそんなセンチメンタルシンキングも、温い南風に流れる。トイレを出ると窓が開けられていた。傍には流れる金色。秋に見る稲穂のようで一等きれいだ。一糸まとわぬ姿は自分も同じなのに純度と透明度、そして自分の手垢が見えてしまって吐きそうになった。

    「北さん、大丈夫?」

    タバコは吸わない。日の丸を背負う男は健康管理を怠らない。一方で自分はある程度酒は飲むし電子タバコを持っている。立ち尽くしてしまうほどの厚みのガラスがそこにはあった。
    大丈夫か、と言われると、大丈夫だ。これの痛みと怠さは北自身が欲したものだ。欲しかったものが今手に入っている。満身創痍だ、と言われたらそれまでだが、それでもよかった。それが良かった。女と同じようになれているのだ。これが欲しかったのだ。積み重ねていつの日か女になることに耐えられなくなった時のためのホケンにしたいのだ。

    「おん」

    だから今はただただ、こうとしか返事ができなかった。



    【鰊雲】
    鰊漁頃に広がる曇り空。低気圧の影響で強い南風が吹いて海が湿気る。その潮に乗って鰊がやってくるので漁船はそこに向かって船を出す。そして海難に遭っていた。
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