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    seki_shinya2ji

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    花見をする北組の面々です。
    テーマ:花吹雪

    【北組】桜の誘拐犯は、何を攫う 遂に叶った北組での花見。場所の手配をしたのは練だ。いつもの通り、と言えばそうだ。銀から話を聞いた練はすぐに手配を始めた。人気がなくて、それでも桜が咲いているところ。別に普通の格好をしていればただの青年たちに見える北組。そうあれ、と言われているのだから当たり前だ。これを当たり前にできるのがすごいのだが、本人たちに自覚はない。練が選んだ場所は神戸でも山側、それこそ北の別邸の裏にある場所だ。小さな神社があり、桜が人知れず咲いていた。そこの神社は随分前に神様を別の神社に移したため廃神社となっていた。集落の跡はあるが、それも今や空き家の廃屋と化している。治は前の日の晩から北の別邸に泊まり込んでお重に詰めるメニューを作っていた。理石は前日が休みだ、と言って一日かけてそこの清掃をしていた。途中からアランも参加して夕方まで行っていたそうだ。ついでに変なホームレスおらんか確認しました! と言っていたので人気に関してもクリアしただろう。
    「桜――ー!」
     大きく伸びをしたのは侑だ。レジャーシートを買ってきてバトミントンやバレーボールのようなボールまで買っているが何しに来たのやら。それでも侑は侑なりの準備をしていたようだ。スナと銀、路成は昨日まで京都で潜入していた。銀の所有する詰所で詰めるだけ仕事を詰めて今日に合わせてきた。どうやら浮かれているのは侑だけではないらしい。今日のために幹部が一同で楽しみにしていたと思うと、北は提案してよかったなぁと思った。一度は別邸に桜を植えようかとも思ったが、こんなにいい桜が見られるのなら、植えなくてよかったと思える。
     神社の境内は閑散といているにも関わらず、桜が太陽の光に照らされて眩しいほどに輝いている。思わず目を細める程だ。眼前に広がる桜は、神様がいた頃の人間であろうと、北であろうと、変わらず両手を広げて迎えてくれる。人目を憚らないとシートを広げることができない身分の北でも、桜の対応は平等であった。
    「信介、できたで」
     準備を手伝うことなく桜に見惚れていたらしい。北は慌ててレジャーシートに近寄り輪の中に入っていった。
     
     
     ✿
     
    「よっしゃバトミントンしましょ!」
     酒の入っていない侑は北の腕を掴んだ。ゆさゆさと揺すると北の手にあった濁った日本酒が水しぶきを立てた。北は侑の声を耳の癒しとして聞いていただけで立ち上がる素振りは見せない。
    「俺は侑と治のバトミントンが見たいねん。二人でやれ」
     こういう始末だ。するとその言葉に侑はえーとブーイングを始めた。治はエビフライのしっぽを食べようとして口からしっぽをはみ出させている。するとアランが口をはさんできた。
    「侑ゥ、風出とるからできへんのちゃうか?」
    「ヴ」
    「やるんならバレーボールとかにしなや」
     ふふ、と笑ったアランは立ち上がって腕まくりを始めた。どうやらバレーをやりたいらしい。ついでと言いたげに理石の腕もとっている。釣られて立ち上がった理石に戸惑いこそはあるが抵抗はない。その二人の姿に目を輝かせたのは路成だ。「おへおあう~!」とおにぎりをパンパンに頬張りながら靴を履き始めた。すると、次に立ち上がったのはもちろんと言えばそうだが銀だ。「ん、ん!」と何かを言いたげだったが路成の紙皿をまとめて飛ばないように飲み物が入っているカップを重石にして遅れて立ち上がった。それを見た侑はさらに目を輝かせてボールを持ってアランの腕を引いた。
    「北さんたちも! やりたなったらいつでも言うてくださいね!」
     手を振っている侑は満面の笑みだ。ぶんぶんと空を切る音まで聞こえてきそうなそれに、北はゆるりと手を挙げた。
    「行かんのか、あれ」
    「ええ。アランママが面倒見てくれとるからな」
    「聞こえんとで信介~」
     じと、と見られてしまった。それにハハ! と笑った北と練は楽しげだ。
    「治は行かんのか?」
    「おえあ、えひあういあいえう」
    「ほうか」
     どうやらご飯が食べたいらしい。リスのような治の頬にはソースが付いていた。
     レジャーシートから少し離れた場所。五人は輪になっている。準備運動をしている侑とアラン、路成と銀は腕まくりをしている。すると銀の腕に居る宮本武蔵が現れて、路成の右腕にはみ出した龍の鱗が少しだけ見て取れる。それ以外を見ていると侑やアランは腕に刺青を入れていないため普通の青年に見えるし、この面子の中で腕に刺青を入れている人間はこの二人とちょっとはみ出した北だけだ。北からすればその姿も愛らしくて悪い気はしない。五人は既に輪になってボールを上げあっている。思った方向に行かずあっちへふらふら、こっちへフラフラ。後ろへ飛んで行ったり前へ落ちたり。風に流されていることもあり見る方は見ごたえがありかなり楽しい。やっている側も声を上げていて楽しそうだ。
    「スナは行かんでええんか?」
     練の言葉に、お酌をしていた素面のスナが反応した。
    「おれ、ですか? 行くわけ!?」
    「あ、すまーんスナ」
     侑の腑抜けた声が春一番に乗って飛んでくる。頭に直撃したボールはレジャーシートから飛んで行ったが、ノーコンボールに怒ったのはスナである。
    「へったくそ。コテンパンにしてやる」
     転がっているボールを抱えたスナは立ち上がって靴を履き始めた。スナには映っていないのか、ニヤニヤしている侑の顔には「作戦大成功」と書かれているように見える。
     楽しい限りだ。
     場所が場所だからだろう。空き家の多い地区で神様のいない神社。北達も空き家に勝手に住みつくホームレスと似ている。それでもよかった。確かに北たちはホームレスを使役している部分はあるが、本質は社会からはじき出された存在同士だ。行動パターンや行動から見える魂胆が似てくるのかもしれない。
     ザァ、と風が強めに吹いた。桜の吹雪が舞い散った。北は思わず目を閉じた。
    「信介!」「、わ、か!」
    「は?」
     練の怒号のような声が聞こえて右に腕を引かれた。ついでに遠くから悲鳴のような治の声が聞こえる。しかし北はなぜこうも乱暴に名前を呼ばれないといけないのか、心当たりがなく素っ頓狂な疑問符をついた。
    「なんや痛い」
    「え、あ? すまん、えっと、なんでもない」
    「若様! ご無事で」
    「落ち着けって。無事もくそも、風吹いただけやないか」
     理石に至っては輪から外れて走ってきている。よく見たら治は紙皿をひっくり返して固まってしまっている。
    「きたさんが、きえた」
    「は?」
     もはや怒りを露わにした北は眉を顰める。バレーボールをしていた四人も驚きと混乱を顔に表している。
     それよりどういうことだ。北はしっかり実在しているのは掴んでいる練が証明しているのに、ものすごい剣幕で北のことを見ている。すると驚いている治が呆然としたままつぶやいた。
    「きたさん、白いから……きたさん、どっか行ったかと……」
     ほとんど譫言のようなその言葉も春の風に吹かれて飛んでいくかのように薄っぺらい言葉だった。
     北はその言葉に首を傾げた。それをいうなら侑だってそうだし、少なくとも自分だけではないはずだ。でもこの場に居た全員が北の姿を見て”消えた”と思ったらしい。
     その事実を北は最後まで納得することはできなかったが、その場は「今無事ならよし」ということで落ち着いた。その後も続いたバレーのラリーを見て「あいつが下手くそ」だ「あれは上手い」といってワイワイ盛り上がった。どこか懐かしい感じがあるのは、組になる前にはしゃいでいた夜のことを思い出して重ねたからだろう。誰もバレーなんてしたことはないし、学校の部活すら知らない。それでも楽しかったことには変わらず夕日が濃いオレンジ色になり始めた頃にやっと片づけを始めた。
     その日の夜、湯船に浸かる前に髪を洗おうと流したところ、髪の間にいた桜の花びらがはらりと落ちて排水溝へ吸い込まれていった。


     #【花吹雪】
     桜の花びらが風に舞って雪のように見える様から桜吹雪とも言う。
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