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    seki_shinya2ji

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    昨日の続き
    赤木路成生誕祭2021

    【赤北】さようなら、似非桜「なぁ先生~! あれ彼女やろ!?」
     昼休みは平穏であるべきだと思うのは路成だけではない。昼休みくらいしか休む時間は学生はじめ先生がた諸君にもない。というのに、路成は大量の女子に囲まれていた。大量と言っても四人なのだが、年頃の女子から捲し立てられてしまうと圧力で大量だと思ってしまう。
     女子生徒の内訳をご紹介しよう。一人は女子バレー部のウィングスパイカー。溌溂とした性格でボブヘアがトレードマークだと路成が思っている。二人目はこれも女子バレー部。クール系で目ざといブロックが持ち味のブロッカーだ。因みにこの二人は路成くらいの身長がある。三人目は所謂ギャルだ。端的に言うとそうだが、正確に言うと巻き髪と薄いピンクのネイルが欠かせないタイプのギャルだ。先ほどからの発言者は彼女だ。そしてもう一人。バドミントン部の主将だ。ポニーテールが風になびいて(言葉を選ばずいうと)いい匂いのする女子生徒だ。
     この面子に囲まれてしまえば流石の路成も押されてしまう。下手に言えばセクハラだと言って首が飛ぶし、とっつかないと冷たいと言われてしまう。できれば程よい距離感を知ってほしいのだが、自分が高校生の時を思うと、当時の監督との距離はおじさんと親戚の子供状態であった。
     苦笑いの路成は返事を誤魔化していた。具体的には「なんのことやねん」だ。これ一本だと無理があるのは路成自身が自覚している。
    「い~~やあれは絶対彼女やん!! あんな顔でオカンと話しとったらキショ過ぎるねん!」
     そういうギャル(以下女子③はギャルと表記する)はもはや煮え切らない路成に怒っている。すると考え込んでいたミドル(以下女子②はミドルと表記する)が何かをひらめいたらしい。
    「てか、普通に友達とかやったら誤魔化す必要ないやん」
     しまった。路成は単純にそう思って、他の先生から呼び出しという名のヘルプが来い! と他力本願に走ってしまった。
    「そうやで!?」
    「友達以上の関係の人間てこと!? そんなん恋人やん!」
     そういったのはWS(以下女子①はWSと表記する)の彼女。すると目の前にいたバド部主将(以下女子④はバド部主将と表記する)は明らかに表情を変えた。
     流石の路成も彼女のことは少しばかり理解している。普段は彼女だって優等生だ。よくコミュニケーションも取れて、路成の頼み事は必ず答えてくれる。だから彼女のことを路成は信頼していた。しかし優等生が恋愛をしないという定説はどの世界に行ってもない。つまりはそういうことだ。
     路成は大きくため息をついた。食べ盛りの学生を優先させて行った学食(因みに北の弁当は朝練後に食べてしまった)でかろうじて変えた昆布おにぎりと塩おにぎり二つがいつまでたっても食べられない。昨日とは違って今日は五限目に一年生の体力テストがあり路成はデモンストレーションを行う予定だ。本当はプライベートなことは言いたくないし相手が相手であるから他言にもしてほしくない。考えれば考えるほど頭が痛んでしまう。短く切りそろえた髪を掻いて、かいつまんで白状することにした。
    「……内緒、やで」
     するとキャー! とやっぱりー! の三重奏が響いた。思わず「シーッ!」と言ったため声は多少収まったが期待値はどんどん上がっているのが肌でも分かる。
    「先生学校の職務中に彼女さんに電話してんの?」
    「なぁどないな人なん? 可愛い系やろ! おっぱい大き目な!」
    「いや先生デカいから、スラァとした綺麗目な人かも知らんね」
     どれもこれもハードルがエベレスト級に高い。耳が痛くなってきた路成は苦笑いを浮かべた。
    「まぁどれもちょっとずつしか当たってへんな」
    「な~~んそれ! じれったぁ!」
    「吐いちまいなよ先生!」
    「刑事かい」
     そのまま妄想で終わってくれ、と願うしかない。妄想が突っ走れば適当に相槌をしてそのまま解散してくれ。路成はそう願うしかない。北との関係値もそうだが、本当に何を言われてしまうか分からない人生だ。せっかく苦労して勉強して北に何度も叱責されて励まされて掴んだ教員免許をこんなところで潰したくない。本当に今は簡単にこういう努力が潰されてしまう。
    「あ、の」
     口を開いたのはバド部主将だ。終始ほとんど口を開いていなかったが、その大きくてシャトルを追う目が路成のことをまっすぐ見ていた。
    「ほんなら、今日の先生の誕生日も、祝ってもらったんですか?」
    「……」
     教員と生徒の恋は別に悪いことじゃないが、先生の方が怒られる。それこそ懲戒免職処分は避けられない。しかし恋自体を否定するのは違う、というのが路成の考えだ。体育の先生というのは、必ず先生が男女になるように配置される。それは保健体育を教えることがあるからだ。男子生徒の保健体育では男性教員から「どうやったら子供ができるのか」「誰の了承を得てセックスをしないといけないのか」「本当のセーフティーセックスとは何か」を教えなくてはいけない。女子生徒の保健体育では女性教員が「どうやったら子供ができてしまうのか」「本当のセーフティーセックスとはなにか」「体を思いやるとはどういうことか」を教えなくてはいけない。これは別に逆でも問題はないのだが如何せん性的なことで、思春期の生徒たちでは拒絶反応がある生徒もある。なるべく生徒たちと同性の教員が教えた方がいい、というのは納得できる。
     しかし路成が学校で教えることと実体験は「本当のセーフティーセックスとはなにか」という点しか共通点がない。それを選んだのは学生の頃だが、そのことを考えるようになったのは成人してからだった。彼女たちもそうして大人になっていく。しかしそれらは恋愛感情や愛情、労り、正しい知識という根底があってこそ成り立つものだ。その根底の一つを打ち砕いてまで自らの保身に走るのは、どうしてもフェアだと思えなかった。
    「……あぁ、今日、日付変わった時に」
     事実だ。路成はフェアであろうとしてこの言葉を選んだ。自分はバイである。もしかしたら彼女と結ばれる別の未来もあっただろう。しかし、この今は間違いなく北信介という男のことが大切でたまらなかったのだ。
     彼女の表情は特に変わらなかった。しかしその大きな瞳は路成の奥の奥まで見るように奥行きのある瞳だった。路成は何一つ嘘はついていない。紳士ではないが真摯に対応した。これ以上彼女の恋愛や愛情の妨げにならないように自ら退いたつもりだ。彼女がどう思っているのかは路成には分からない。しかしその瞳は間違いなく路成のことを見ていた。
    「……素敵な彼女ですね!」
     そういった彼女は笑った。関西訛りでも、丁寧な言葉使いだった。
     
     
    「あ、先生」
     彼女とは部活が終了になる七時前に顔を合わせた。昼休みのような眼はしていなかった。彼女の動きはシャトルのように軽くよく動いていた。そしてしっかりいつものように居残り練習をしていた。どうやら路成の思った以上に彼女は大人だったらしい。「お。お疲れさん」「お疲れ様です」という会話も特に違和感はなかった。
    「あの、一生のお願いがあります」
     会話を持ちかけた彼女は、存外真剣な顔をしていた。
    「彼女さん、ってどんな人なんですか」
    「……」
     路成は悩んでしまった。そして大きく息をついて意を決したように言葉を吐いた。
    「……お前を信用して、見したる」
     そういった。彼女はゴクリと唾をのんだ。薄暗い廊下に伸びる影は大きい。スワイプする液晶画面はボタン一つでついた。
     真っ白な田打桜の下で青い作業着を着た白髪の男。路成の隠し撮りした写真である。遠目でも分かるたっぱの良さ、身長の高さ。彼女とは正反対の短髪。ふくらみのない胸。まあ足はそこそこに長いが、足元は厳つい安全靴。写真でも分かる、どう見ても男の写真を、路成は彼女だと紹介した。
     液晶のブルーライトに反射した彼女の顔は明らかに驚いた顔をしていた。どういわれてもよかった。ここから告白をする流れでも、しっかり断ることができる自信が路成にはあった。
     しかし沈黙が長い。いつの間にか液晶は真っ暗になっていた。路成はその薄い板をポケットにしまって「みんなには内緒、な」と言った。
    「……わかり、ました」
     しかし彼女の顔はよく笑っていた。上げられた口角は思った以上に上がっていた。
    「素敵な、恋人さん、ですね!」
    「……あぁ。世界でいっちゃん大切な奴や」
     二人の顔は夕日に照らされてよく笑っていた。
     
     
     
     #【田打桜】
     春に純白の花を咲かせるコブシの別称。コブシのが咲く頃に農作業を始める地方が多かったことからそう呼ばれるようになった。
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