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    seki_shinya2ji

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    seki_shinya2ji

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    元フォトグラファー現マネ侑×俳優兼配信者シンスケのギリ芸能人パロ
    ・侑北未満でも侑北っぽい表現があるようなないような、ないかも知らんけどエッセンスはあると信じてる。けど100日後に侑北になるような侑北
    ・もはや侑北になる序章って感じ?
    ・でも(ビジネスのために)同棲はしてる
    ・性癖詰め詰め

    #54【i to zコラボ】優勝したら寝れる【シンスケ/アラン】「シンスケさん入りま~す!」

    ダルいとは思ったことはない。これしかできないと思ったことを突き詰めた結果である。やるからには本気でやろうと決めた結果だ。どれだけ毎日目が回りそうに忙しくて、いつ寝ていつ家に帰ったのかも分からなくなったとしても、これを望んだのだから何の文句もない。

    「今日はエナドリのCMです」

    ただ、コイツはチャラついているとは思う。シンスケの地毛は白だ。後天的ではあるが染めてはいない。この髪も、シンスケのチャームポイントに還元できるのがこの仕事の強みである。しかしその白より派手に照明を反射しているのが、シンスケの隣に立っている金髪だ。
    目がチカチカする。誘導された先にあったグリーンバックの前に立ってみたらよくわかるのだが、照明に当たっていないのに眩しい。女性の音響さんやスタイリストにすり寄っているのもよく見える。いや、それをしているから目につくのか。
    シンスケは頭を振った。集中力が途切れてしまうのは不快だ。いつも通り、自分ができることをするだけ。緊張しないのは自分の力と見せ方を分かっているから。自分を理解しているのは自分だ。これだけがあれば、シンスケはいつまでも自分らしく輝くことができる。

    「よ~~~~い、……アクション!」

    シンスケはきっかり3秒後に目を開いた。




    〈―――シンスケお疲れさん~〉
    繋いだボイスチャットの向こうの声は比較的明るいものであった。確か向こうも今日は一日中打ち合わせのはずだ。
    「お疲れさんアラン」
    〈―――準備出来とるか?〉
    「できとる」

    仕事は順調に終わるものだ。なぜなら緊張をしないからだ。シンスケのことはシンスケが一番よく分かっている。周囲からそう言われて感心されてもシンスケは首を傾げるだけだ。自分のことを自分が分かっていない限り現状に満足する事も不満に思うこともできない、とシンスケが思っているからだ。
    画面は真っ暗。そこにポツポツと灯りが灯っては消えている。灯される度に浮かんでいる赤は鳥居である。蛍のような光は言霊のようでどこか人魂のような形を留めないものであった。

    〈―――ほな始めよ〉
    「おん。蓋開けるで」

    夜10:00、きっかりに蓋が開いた。



    「こんばんは皆さん。今日1日ちゃんと過ごしたか?今日はアランと一緒に昨日発売になったゲームしていくで」
    〈―――Hello シンスケChat~~~〉

    夥しい色数のチャットが投げられる。蓋を開けて見ればそこには白い髪にヘッドセットを付けた人間が窓から覗いていた。

    最近流行りなのが、「芸能人が配信をすること」なのか「配信者が芸能人みたいなことをすること」なのか。人類が出した結論が「どちらにも重きを置いた人間が一番すごい」という意見が出てくるまでになった今日。
    シンスケと呼ばれたキタシンスケ(本名)もその曖昧な人間であった。毎日必ず1時間は配信をするマメさは視聴者を安心させるオカン、というか視聴者を唯一マトモに叱ってくれる存在として人気がある。
    自前の白髪と大きな瞳、肌の調子は毎日三食バランスよく食べて決まった時間に寝ている努力の結果。見た目は完全に業界の人、といった感じだ。画面映えもよく、どの角度から見ても綺麗な顔、という前評価は伊達ではない。

    「あ、右」
    〈―――あ……?い!?イタ!?どこ!?〉
    「右やて」

    途端にバァンと破裂音。音と共にアランのアバターが無残にも散っていく。シンスケはその死体越しにアランの無念を晴らす。これを「人を盾にする」という。アランの肌と同じ色のキャラクターはシンスケのことを背後霊のようにして浮遊しているが、シンスケは見ることは叶わない。しかしVチャットは繋がっているため〈あ~~~〉という断末魔と後悔が聞こえた。

    「あれ、さっき処理したチームやないんか」
    〈―――マジでそれやわ。殺し損ねとったんや〉
    「残党処理せなな」
    〈―――すまん〉
    「ええよ。ちゃんとやるだけや。けど今日は優勝するまで終わらん企画やかた、アラン退いてしもとったらはよ抜けたい」
    〈―――消極的やな〉
    「省エネで効率的やねん」

    シンスケは息を吐き直してゲーミングコントローラーを叩いた。3時の方角から真正面に来ていた敵は一応シンスケが仕留めている。しかしサークル範囲はどんどん縮んでいく。比例して視野が狭くなってしまう。毎日のように実践という名の練習はしているが、それでも視野が狭くなる感覚を覚えてしまうのは不快だ。息苦しい。それだけは避けなければ自滅も時間の問題である。アランが死亡時に落とした荷物を取りこぼすことなく周囲を確認して素早く身に着けるモーションに入る。若干ながらできた隙間も敵の位置をサーチするアンテナが音を立てている。
    ゲームをする上で、集中力が切れてしまったら負けてしまう。負けん気が人よりある訳ではない。負けから学ぶこともあるため負けが100%悪いことはない。しかし集中できていない事実は何にも代えがたい嫉妬と後悔を生む。北がそういう性格の男であることをアランは知っている。「省エネで効率的」は集中して最高のパフォーマンスを発揮するためにシンスケに必要な事である。そういう点では負けず嫌いではあるのかもしれない。しかし本人が頑なに否定するので口には出すことはない。

    〈―――……お?〉

    爆発音が遠くからした。北のヘッドセット、右後方から。きっとサークルが縮小している方角からだと判断したシンスケは無心になって中心部に隠されたフラッグを探す。
    このゲームはオンライン上で100人が同時に野に放たれたのち、複数箇所に発生するサークル内でパーティ2人と力を合わせて時には他パーティーを殲滅したり手を組んだりするゲームだ。最終目標は、複数箇所発生した縮小するサークルから1つだけのフラッグを勝ち取ること。例えば、5つサークルが発生していても、4つのサークルは外れサークル。ここは運ゲー要素だが、使用キャラクターや身につけることができるスキル、ワールド内に落ちている道具を使えば正解サークルに辿り着くことは可能だ。
    現在北はアランを失って単騎となっているが、その分身軽に行動することができると言い換えられる。アランが死亡した時に落とした武器の中でも射程と火力がバランス良く設定されているランチャーに持ち変える。サブマシンガンはマウスのこのボタンで持ち替えられるように、と一瞬の目配せで判断する。次に地雷とサーチを設置するためにキーボードを操作する。カタカタ、という小耳のいい音が、ガタガタ、と聞こえそうな程に北のタイプ音が大きくなる。

    〈―――焦んな〜〉

    と声をかけてはみたが、北の返事は「おん」と生返事であった。聞いているのか、心でアランの言葉の何倍もの量の「焦るな」を呟いているのか。北の表情は真っ直ぐにモニターを見つめている。部屋自体は明るい電気が付いているが、モニター付近は暗くて、ブルーライトが北の頬に反射する。チカチカと色の点滅があってその度に北の瞳が煌めく。瞬きをすれば睫毛が光る。呼応するように、配信画面のコメント欄はざわざわとし始める。

    【あと何人?】【ここがフラッグエリアなのは確定か】【クルゾォイ】【いや流石に6チームは無理やろ】【待ってランチャーに花火入れてんだけどwww】【地雷どこに置いてるの?】【これワンチャン自爆エンドでは?】【サーチ光ってる】【右にマグナムマシン】【今北なんだけどもしかして配信10分で終わるパターンか】【勝ったな。茶入れてくる】【あと4】【サブマシーン雑魚いけど大丈夫そ?】【シンスケがんばれ〜〜〜】【うお〜〜〜】【花火マジでやばすぎwww】

    無数のコメントが右から左へと流れて止まらない。所々北を案じているようで見下すようなコメントも来ているが、無言になってしまった北が見ているはずもなく。アランは北の配信のコメント欄を時間差で追いかけている。北はゲーム中のコメントには流されないタイプだ。所詮顔の見えない向こう側の人間なんて気にする必要のないこと、と割り切っているからだ。というか今の現状では北がコメントを見る余裕がない。

    〈―――シンスケ、それどこで見つけてん〉

    シンスケが動かすプレイアブルキャラクターが大きな筒を抱えて付属するスコープを覗いた。いつの間にかサークルの境界線が背後に迫ってきている。サークルのやや中心部にいたはずのシンスケはいつの間にか戦線から下がっていた。

    「……一番最初」

    直後。モニターが白む程の閃光が、シンスケの肌を更に白くさせた。そしてキィ__ン……と周囲の音が消えた。そして数秒遅れて。コメントに【クルゾ】【衝撃】届いた時には爆音が様々な所から聞こえている。

    〈―――ヒュ〜!タ~マヤ~!〉

    アランの高らかな掛け声がヘッドフォンを震わせる。小窓の向こうに映っているシンスケは満足げに笑っている。画面ではシンスケが手に握っていた地雷が花火の衝撃で暴発している。ついでに花火が地面で開花している。そのためアランの配信枠内では【いや地面で直やんwww】【これ玉屋なんか?www】【草】とコメントが転げまわっている。
    ゲーム画面の右上には方角とマップが表示されており、その下にはこのフィールドに残っている自分を含んだプレイヤー人数だ。花火前は「9(5team)」と表示されていた人数が「2(2team)」と表示されている。つまり、シンスケと、あと1人だけになっている。
    土煙が上がっているフィールドの中に、シンスケが最下位ランクのボロゴーグルを着けて特攻した。土煙の中を特攻するとゴーグルに小さな石の破片が当たる音とエフェクトが発生する。同時にゴーグルにヒビが入ってしまい一定のダメージがあるとゴーグルが完全破損してしまう。シンスケのボロゴーグルは突っ込んだ瞬間に破損してしまい、画面下のHPがどんどん減っていく。

    〈―――前前まえ!〉

    シンスケの配信画面でもアランの配信画面でも、視界がグルリと反転する。土埃で前も後ろも分からない状態でも、僅かな視界の変化と足音の雰囲気でシンスケの眼光が光った。シンスケは左手でキーボードをものすごい勢いで叩いて手持ち武器を入れ替える。がたがたと叩かれる少し乱暴なタイプ音は茶軸にしては大きな音だった。そして途端にマシンガン二丁が二重で弾が飛んでいく。360°回転しながら、がむしゃらに乱射されているその弾の先にダメージエフェクトの赤い閃光が見えた。その瞬間北は前進しながら更に突貫した。徐々に土埃が晴れてくる。

    〈―――、お〉

    アランの言葉端が切れた時、丁度画面に青空戻り【YOU ARE NO1】という字幕が表示された。

    「フーっ……」

    大きく息を吐いた時、肩に力が入っていたことに気が付いて少しだけシンスケは落胆した。大きく黒い背もたれのゲーミングチェアに身を沈めてヘッドセットのマイクを上にしてミュートした。
    今日は「優勝するまで配信が終わらない」と言ったのはシンスケ自身だったがまさかの一戦目で配信が終了してしまう事態になってしまった。その事実にまだ気が付いていない。今は凝った肩を伸ばしたついでに腕を伸ばす。そして思い出したのは今日撮影をしたエナジードリンクのCMだった。目を開いた後に腕を伸ばした。グリーンバックで撮影したのち、その場で3CG背景に合成された自分を見てOKが出るまで丁寧に仕事をした。そのあと雑誌の撮影のために訪れたスタジオでもピンショットを撮影するために手を伸ばした瞬間があった。空虚の方向に手を伸ばす感覚はその場では分かりにくいもので、CMや雑誌などの完成形になって手を伸ばした自分に意味が生まれる。その感覚には撮影者や加工を行った人間に頭が上がらないというものだ。

    〈―――お疲れ~!ほんで企画終了~!〉

    パチパチ、とよく響くアランの拍手がヘッドフォンから聞こえて、伸ばした腕を降ろした。ついでに首を回す。コキ、コと音がしてその弾みでようやく笑うことができた。

    「……雑談に付き合うてくれるか?」
    〈―――ええよ~〉

    気軽に何でも誘うことができるのはアランの良い所だとシンスケは思っている。配信を15分で切ってしまってもよいのだが、それはつまり直接的に収入が減るということだ。それは避けたい。収入のために配信をしているのか!と言われてしまえば「いいえ」と言うが、それは建前というものだ。芸能人に確固たる地位なんてものは存在しない。自由業と言われるゆえんはこれだ。だからこそ、配信だけでも1時間はするのだ。

    「ほんなら、画面切り替えます」

    そういってまた蓋を閉じて画面を切り替える。次に映ったのは黒い背景に白い狐が二匹座った赤い鳥居の下だった。鳥居の上には赤い球体が妙な異物感とともに馴染みながら浮かんでいる。鳥居の下に配信のコメントが流れていく。下から上に流れていくコメントの中には色の付いたコメントも流れている。ホログラム調の文字も流れていく。
    アランはシンスケの斜め上にクリッピングされて設置された。そんな2人の周りを時々ほわほわと浮いているのは蛍か人魂か。シンスケもこのアセットに関してはデザイナーに任せているためこれが何なのか、よく分かっていない。

    「はい。早速ホロコメありがとうございます。いつも通り、最後にちゃんと読みます」
    〈―――ほなシンスケ、言わなアカンことあるんやない?〉
    「企画倒れになってすみませんでした」
    〈―――アッハハハ!ホンマに上手になったよな!〉

    大笑いしているアランだが、配信だから大きく笑っているだけだ。普段は物静かで、意外と人見知りだったりする。きっかけさえ本人が掴むことができたらきちんと食いついてくれるし親身になる。しかし掴むことができなかったり、掴みたくないと思った場合はその信頼を回復するには時間がかかる。アランはそういう人間だ。そんな男はどこからともなく出てきた缶のプルタブを開けている。

    〈―――なんなん?今日の収録イライラしたん?〉
    「イライラするんは体力無駄にするからせん。どっちか言うとエンジン温まっとったねん」
    〈―――なんの収録やったん?まだ言えん感じ?〉
    「そうやな。またマネから告知あるまでは待ってや」

    【マネ】という言葉は、文字通り【マネージャー】の略語である。
    前述したが、シンスケには、シンスケの髪色に負けない派手髪のマネージャーがいる。元はカメラマンだった男だ。自由人ではあるが忠実で要領はいい。おまけに顔もいいため現場受けが良く、このマネージャーになってからというもの、案件や仕事がたくさん増えたのはシンスケが一番感じているところだ。

    そもそもの話をしないとならない。シンスケは「i to z」というアイドルグループで活動するアイドル兼配信サイトにて配信活動をしている活動者である。アランもこのグループの1人だ。
    i to zには他にもメンバーが存在してそして各々が本業の傍ら兼業として配信を行っている。
    まずリーダーはシンスケその人だ。頭脳明晰で冷静沈着、トーク力は有無を言わせない正直な正論が一長一短とあってそこそこだが、群抜に面が良いため人受けがいい。元は売れないシンガー兼俳優をしていたが見た目が特異であったことから声がかかることは少なかった。そんな仕事のない時期にカンパニーの俳優からゲームの誘いを受けてからというもの没頭。「ちゃんとや(殺)る」が遺憾なく発揮されてしまい、腕はそこそこでもゲーマーとして密かに人気だ。しかし裏でまとめることの方が得意だ、というのが本人談だ。
    続いて先程から名前が挙がっているアランだ。明るい性格故かバラエティに呼ばれがちな男だが、その実とんでもなく頭が回る。頭が回らない人間は話を回せるはずがなく、シンスケとは違った頭の良さが売りだ。そして何をしても突っ込んでくれる。面白い人間は頭が良い。そのため毎週決まった時間に深夜ラジオを地上波で1本持っていて、もうすぐ3年目になる。
    続いて2人と同じ歳の人間を2人。
    1人目はレンという男だ。大男でよくワイプから頭が見切れている。しかしその頭はシンスケ以上で日本一頭のいい大学を卒業している。その頭脳を買われて以前は関西ローカルのニュースキャスターをしていた。しかし今は毎週決まった日に時事ニュースを解説する配信をしている。誰の肩を持つことないモノ言いに定評がある。
    2人目はミチナリと言う。頭はそこまで良くないが、それでも直感と察知能力、そして反射神経がグループイチである。そのためダンスの腕はグループの中で一番キレがあり、美しいと言われている。元はダンサーでその踊っている様子を良く動画サイトに投稿したり練習の様子を配信していた。その運動神経を活かして当たり番組となったのが毎年決まった時期に行われるパルクール番組だ。出場したのはグループを組む前であったが、今となってもグループの中で唯一ファイナルまで勝ち進んだ身体能力者である。優勝こそ逃してしまったため当分の目標は体脂肪の維持と優勝である。
    次にこの4人から年齢を1つ減らした人間を1人紹介する。
    名前はリンという。中華系の美人タイプの男で、元々はモデル出身の男だ。その上に歌も歌えることが発覚して引き抜かれた才能マンである。また配信環境他、PC関係のアクシデントにグループイチ強いのも人気の元だったりする。アクシデントがあると一番に報告が行くのがこの男だ。記憶力も良く、先ほど上がったカラーコメントの主を良く覚えており、固定ファンが多いことでも有名だ。
    そして最後に、リセキという男だ。舞台俳優として活躍していた売れない俳優だったが、売れないからと始めたゲーム実況が大いに当たって事務所所属までこぎつけることができた奇跡と努力の人間だ。グループの中では最年少となる。何事にも一生懸命で緊張しいなところが大いに視聴者に刺さっており、時々大声でスラングを発すると飛ぶように金が舞う。これがフックとなってなかなか応援をやめることができない、という。
    この個性がぶつかり合い過ぎる6人には凹凸がハマったかのようにお互い過干渉も不干渉もなく、ビジネスパートナーとして順調に活動を続けている。
    そんな6人を3人のマネージャーが本業と兼業の両方を支えている。

    【MA1 🔒 来週頃に告知します〜】

    ふと流れた1つだけ特別な錠前のアイコンがついたコメント。そのコメントの発信先はシンスケの配信部屋のすぐ隣だ。一番に見つけたのはシンスケだった。

    「みんな、俺のマネ来たで。挨拶しぃ」

    挨拶は人としての基本だ。ゆえに配信冒頭には必ず時報の挨拶を入れるのがシンスケの信条の一つだ。推しとファン、というものは一方的な心酔でできている。特に一部のファンの「この人が言っていることが正しい」と信じ込むような心酔は最も代表的だ。全ての人がそう、とはもちろん言えなくても、一部そう思うだけで実のところ、互いの心の持ちようが変わってくる。
    その中でも、「推しはファンの鑑であり、ファンは推しの鑑である」というのは妙に信憑性のある言葉となってくる。
    その最たる例が「推しが〇〇と言えばファンが△△と動く」だ。最初は2割心酔、8割好奇心といったところか。そうだとしても、機会を作っては言っていく、そして「この時はこうしろ」とルールを確実に定める。特に配信という生身の人間対顔の見えない人間とのやりとりで重要なものはルールだ。先に互いの線引きをしないとどこまでもズルズルと生活に入り込んでしまい、終いにはフィールドに4トントラックに載った状態で踏み込んでくる勘違い人間が現れてしまう。
    そこでシンスケが設けたルールは以下の通りだった。

    ・他人の配信でシンスケの名前を勝手に出さない(迷惑だから)(向こうが出してきたらOK)。
    ・挨拶はきちんとする。遅れて来ても挨拶するし、されたら返す(人としての基本だから)。
    ・他人を傷つける言葉や荒し行為は、誰に対しても言わないししない。コメントする前は一度考えてから投稿する。
    ・俺は配信者であり俳優、視聴者は視聴者。その線は超えられないし超えてはいけない。
    ・スパコメは計画的に。少額でも高額でも対応は統一する。未成年はスパコメをしない。

    以上5点だ。ここでは上から2番目のルールが適用される。お陰でコメント欄は【こんばんは~!】【マネさんお疲れ様です!】【マネさんこんばんは】【おつ~】という仕事を労わるコメントと時報の挨拶が入り混じっている。マネージャーはこのコメントに【MA1 🔒 みなさんこんばんは〜】と返している。そのコメントが容易に脳内再生されてしまうシンスケ。少しだけ頬が緩む気がしたので心持ち険しい顔をした。

    〈―――流石やなー、統率が取れとる。マネお疲れ~〉

    アランもこのマネージャーが就いている。アランはこのマネージャーと知り合いだったらしい。何でもラジオの番組を持つよりも前、関西で売れないコメディアンのようなことをしていた時に宣材写真を撮ったのが、このマネージャーだったということだ。アランはマネージャーに軽い挨拶だけを、コメント欄に倣うようにして流した。

    「当たり前や。挨拶は人として当たり前やからな」

    シンスケはモニター横にあったタンブラーを開けて煽った。銀色に光るボトルには「Shinsuke」というゴムテープが張られており、チラリと見えたボトルの底には狐のステッカーが貼られている。この一瞬の隙間からでもアイドルとしてステージに立っているのだと感じられる、とファンの中で話題に上がる瞬間だ。
    キュ、と丁寧に蓋を閉めたからパッキンが少しだけ鳴いた。その音を密かにマイクが拾う。それだけで、推しが生きている、と実感するのだ。

    〈―――は~やっぱり登録者50万人は伊達やないな〉
    「嫌味か。お前もこの前行ったやないか。おめでとう」
    〈―――何回言われてもええな~!酒が美味い〉
    「酒飲んどんか」
    〈―――おん〉
    「せやからあんなにエイムがばがばやったんか」
    〈―――せやねん。アル中やから手が、って震えてへんわ!喧しいねん〉
    「ンハハ。冗談や。さっきプルタブ開けとったやん」
    〈―――……、待って?今日俺エイムそんなにアカンかったか?〉
    「いや?いつも通りやな」
    〈―――それはそれで腹立つわ〉

    またシンスケの笑いに花が咲く。アルコールの匂いはまだ薄い。マネージャーは2人の会話をヘッドフォンで聞きながら別の仕事を始めた。メールを開いて今日撮影を行ったエナジードリンクの会社の広報担当者へ、また撮影協力してくれたスタジオや撮影班の人間にも。そして自分が所属している事務所の上司への今日の活動の報告。メールの返信を待っている間にアイデア出しのための資料集めや、次回撮影に使えそうな資料を探す。やらなくてはいけないことは山のように、怒涛の勢いである。しかしどこか、心には余裕があった。それは耳元で繰り広げられる会話、いや。声の影響だろう。マネージャーは1つだけ息をついて気合を入れるとシンスケと同じキーボードでメールの作成を始めた。




    全ては愛だ。

    初めて舞台写真を撮ってくるように、と頼まれて心躍らせながら入った古い舞台小屋。ステージは思った以上に小さく、観客もそんなに入るようなスペースはない。身内でやるのか?と勘違いするほど省スペースで、舞台というよりワークショップに近い、と思わざるを得なかった。当たり前だが心底がっかりした。写真家やフォトグラファーと呼ばれるには確かに経験は浅かったが、良い賞を獲ったこともあったし写真の学校では主席だった。それでも現実は甘くない、と思い知らされること自体がどこか抑圧的で不自由だった。その息苦しさを抱えたまま、始まった舞台をレンズの向こうの景色として見ていた。
    始まっても始まっても出てくるのは大根役者。悪くはないが、「この規模のカンパニーで十分だ」と上に行く事へ消極的な演技に見える。それだけで撮影した写真は小さなモニターで確認しただけでもその瞬間から色褪せていく。昔話を来場している子供たちにも分かるように現代版に解釈したのだろうが、ストーリーも解し過ぎて少し昔話から離れているように感じだ。カメラのファインダーを覗くのも億劫に感じ始めた。一応仕事であるため、調整を弄っているように見せかけてあまりにも映えない写真を削除していく。
    ステージのスポットライトがあまりにも眩しくて演者が白飛びし始めた。絞りを、と調整をまた始めた時だった。

    全ては愛だ。

    歌声は間違いなく中の上だった。しかしレンズに映ったその姿は、他の演者とは比べられない程に美しい存在だった。白飛びしない白い髪は艶があり、肌に凹凸はない。歌声が中の上でも声そのものが伝わるかのような表情筋の動き。指先まできちんと意識が行き届いているのが分かる。息をするのも忘れるかのような、愛のある動きにひたすら圧倒されていた。写真には到底収まりきらないかのような、魅力と魅惑、そして圧倒的な他との違いを、カメラマンでありながら「表現者」という大きな部類の中の同類として感じた。

    全ては、愛。

    少しだけ拙い、でも必死に自作したフォトグラファーとしての名刺を見た綺麗な男は「綺麗に撮ってもろてありがとうございました」と言った。
    名前をシンスケと名乗った。その時の声には少しの息切れの隙間から軽やかな雰囲気があった。


    すぐに知っている大手プロダクションの人間に、シンスケという存在を伝えた。とにかく演技は段違いで、声も良い。良く通り、芯のある透明なものだった。力説をしたのは覚えているのだが、自分の言葉と静止画である写真では何か物足りないとまで感じた。
    「被写体が良えと写真が良く見えるなァ」と、とある芸能人が所属する事務所の偉い人に笑われたことがあった。その男と以前から知り合いだった。しかし親しき中にも礼儀あり、というか、単純にムカついた若気の至りでもあって、その男をシンスケが出ている演劇の回に連れて行った。以前撮影に来ていたカメラマンと事務所の関係者ということもあり、2人は舞台を俯瞰できる席を用意してもらって観劇をした。
    やはりシャッターを切る速度が落ちないし、ファインダーを覗きたいと思える俳優だった。この限られた小さな四角いっぱいにこの魅力と躍動感、そして感動を1画素数余す所なく詰め込みたいと思った。1度目は興奮してアドレナリンのせいで視界がフラッシュしたのかと思っていたが、2度目でその魅力が本物であったと確信した。

    「この男、ちゃんとしとるな」

    だからこそ、この言葉に何か引っ掛かりを感じた。

    「指先に意識を集中させるんは、実のところ誰にでもできるねん。大事なんは、【集中させている】ってことを観客に伝わせんことや。これが稽古無しに自然にできる人間は砂場の砂を握って払ってもなお残っとる目に見える粒の数くらいや。この男は多分、稽古で手に入れた【自然な集中】や。つまり毎日の発声練習からウォーキング、登場人物の挙動の意味や言葉選びの真意を考えることが習慣になっとる。ええ。ええ男や」

    全ては、愛だ。

    その後写真家である事を辞めて、この時の偉い人の下に就いて引き抜かれたシンスケのマネージャーになった。それでもレンズの手入れは怠らないし、シャッターを切ることは忘れない。いつまでも、どこまで行っても、追い続けたい姿はこの男の姿だけだ。確信がある。

    これが、「全ては、愛」のシンスケの元に就いた「全ては、愛」のマネジメントをしている元フォトグラファーの宮侑という男の遍歴だ。







    「これでスパコメは最後やな。皆今日もありがとう。楽しかったわ。でももう遅いからな、はよ寝ぇよ」
    〈―――ほんまよ、もう日付変わるで〉
    そういうとアランは1つだけ欠伸を噛み殺した。シンスケは喋り続けた喉を潤すためにタンブラーを傾けている。のんびりとした夜の雰囲気にあうチルな時間が流れた。コトン、と物音がするとシンスケは身を乗り出してキーボードを叩き始めた。
    「ほな、宣伝しとくか」
    〈―――そうやな。俺は明後日の深夜にいつものラジオあるでな。音声コンテンツと動画コンテンツの両方で生配信やしちゃんとアーカイブもあるから、都合ええ時に聞くか見てな〉
    「おん。今回こそ俺のレター読んでな」
    〈―――いっつも思うねんけど、お前何て言うラジオネームなん?というかお前がそういうからめっちゃ【シンスケ】とか【シンチャン】っていうラジオネームばっかりやねんけど?〉
    「なんで分からへんの?俺からのレターやん」
    〈―――いや無理やろ〉
    「なんで?俺のこと嫌いなん?言わんでも分かるやろ?」
    〈―――メンヘラムーブやめぇて、めんどい〉
    「んはは!」
    実はシンスケの性格自体は堅物ではない。揶揄うことは好きだし、嵌めは外さないが、常識の範囲内ではしゃいでいい時ははしゃぐ。顕著に出るのは歌っている時やライブの時なのだが、こういう身内と話している時も垣間見れる。揶揄う対象は大体アランか、年下の理石だ。
    〈―――お前は?〉
    「ん。俺はまた来週告知のある今日の撮影のやつと、配信はもうtmitterに挙げとるから見てな」
    〈―――あ~今週はミチとなんかゲーム配信すんねやろ〉
    「おん。ミチをボコボコにする配信」
    〈―――物騒やな〉

    すると間髪入れずに【ミチ@体脂肪に勝つ 🍀 お前絶対に中州】という、少しだけ色の違うコメントが流れてきた。シンスケはそのコメントが下から昇ってきて上へ昇天していくのをじっくりと眺めたあと、ふんぞり返って鼻で笑った。

    「誤字っとるし。これは不戦勝や」
    〈―――オメデトサン〉

    途端にコメントが沸き立つ。こういう雰囲気がネット上で面白がられて時に傷つく原因になる場面だ。そろそろ、と思った侑はとあるものを準備しようと思って隣の部屋から出た。
    その扉が閉まる音はシンスケの肌で何となく伝わり少しだけ視線を動かした。動かしても何も見えないような動かし方だったが、それでも何となく扉の向こうで暖かい湯気があるような感じがして、ふ、と息をついた。

    「あとは、今週はレンの時事配信もあるし、明後日は年下っこがコラボするやろ。皆見たってや」

    何となく伝わる今日の配信の終わり。コメント欄からポツポツと「はーい!」「シンスケさんも休んで~」「楽しみ」というコメントが出てくる。そうなるとお開きの合図だ。

    「ほな、アランも長時間ありがとう」
    〈―――シンスケもありがとう~お疲れさん〉
    「ありがとう。お疲れさん。ほなね、みんな。また明日」
    〈―――バイバ~イ〉

    自分を映しているカメラのレンズに目線を送って手を振る。そうするとコメント欄も手を振ってくれる。この事実を噛み締めることができた喜びを胸に抱いて、シンスケは配信の蓋を閉じた。
    今日のシンスケの配信は、お開きとなった。時刻は23:51と表示されていた。




    「お疲れ様です」
    「侑、お疲れさん」

    白と黄色のマグカップは、ほわほわと湯気が立つ蜂蜜レモンを入れて配信部屋に入ってきた。

    「どやった」
    「特にはなんにも。企画倒れでコメ欄は荒れんかったし、うっかりみたいなことも無かったですよ」
    「そうか」

    そういって何度も息を吹きかけて飲み物を冷まそうとするシンスケが好きなことを、侑は黙っている。本人に話すつもりはない。

    「あ、でもちょっとBOTみたいなんは湧いてましたね」
    「どないなの」
    「全文読んでもええですか?」
    「辞めとくわ」
    「明日は、午前中はオフなんでゆっくりしてください。俺も10で本社に3時間くらい出ます」
    「ほんなら飯作っとくわ」
    「え、嬉しい……」

    滅多にないシンスケの手料理に侑は純粋に感激した。この感情に嘘偽りもない。しかしシンスケは両手を口に充てがって感激する侑の姿に少しだけ顔を歪めた。しかしあいにく今日は会話が弾み過ぎた反動で喉が引き攣っている。これ以上は声を出したくなかった。

    「ほな、風呂入ってきてもええか」
    「はーい。俺は先に入ってますんでお気になさらず」
    「ん」

    短い返事だったことで侑はシンスケの疲労度を測った。今日すべき仕事は一旦置いても明日の3時間で間に合う。侑は扉の向こうに消えていく背中を追うようにして部屋を出た。
    風呂上りには彼は必ず柔軟体操を行う。そのためのマットの準備を始めた。

    明日も2人はこの部屋で同じような事をする。
    それでも重ねる愛と信頼に変化は来ない。毎日同じことの繰り返しではなく、毎日同じ愛の積み重ね。侑はその事実を噛み締めてシャワーの音を聞いていた。
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