オフホワイトの彼女「ふぅ……」
分厚く、薄暗い雲が重なる昼下がり。
綺麗に髪を束ねたアナウンサーが、強い雨に注意してくださいと二度、三度と繰り返す。
まだ乾いてない洗濯物を取り込みながら、思考は四歳年下のあの子の元へと流れて行く。
傘は持って行ったのだろうか。
あの子と知り合ってもう三度目の梅雨。
襟足だけ伸ばされた髪型は変わらず、しかしうんと綺麗になった志歩は、大学に通う傍ら、相変わらずバンド活動に勤しんでいた。
最近はイベントで演奏して欲しいと声がかかるようになり、着々とファンを増やしているらしい。メジャーデビューこそしていないものの、その人気はデビューしたてのStandoutと大差ない____いや、彼女達の方が上だろうか。
ここ数年で、私の世界はすっかり変わった。嬉しいことにStandoutの知名度、人気ともに右肩上がり。メンバー、特にボーカルの私は世間に広く知られる顔となった。
その代償として、私は今日も彼女が濡れて帰ってくるのを待つしかない。
せめてすぐに体を温められるよう、風呂を沸かしておこう。
ぽつ、ぽつりとベランダに黒い点が増えていく。
今日の夕飯は、明日の予定はと思考をめぐらせるが、どうしても志歩が気になってしまう。
今日の講義は15時までと言っていた。あと2時間もしたら外はすっかり土砂降りになってしまう。スカートを穿いてはいないだろうか。強風に煽られて眉を下げる志歩は正直なところ見たい。
薄手のブラウスは昨日着ていたから、服が彼女の肌に張り付いたり、透けてしまったりはしないだろう。
なんで顔出しでメディアにでてしまったんだ!とどうにもならないことを胸中で叫びながら、夕飯のメニューをナスの味噌炒めに決める。
すると突然、インターホンの音が鳴った。
玄関に向かいながら、チェストの上に置いてある度のついてないメガネをかける。
「はーい……って、え、どうしたの」
よそ行きのハイトーンボイスは、目の前の彼女を確認すると忽ち低くなった。
「ただいま……なんか、休講になって」
そう言ってキョトンとした顔をする志歩。
ふくらはぎにスリットが入ったオフホワイトのスラックスを穿いているのに密かに安心した私は、おかえり、といって彼女を迎え入れた。