じょれ✕山河令クロスオーバー①「魏先輩〜!含光君〜!た、たいへんです!町中で乱闘騒ぎです!」
「ひとまず様子を見たらどうだ?」
「うん、私もそう思う」
「お二人にそう言われると思ってしばらく見守っていたんですが、様子がへんなんですよ。多勢に無勢、というか。変な集団がいい男を囲んで攻撃していまして」
「ふうん、いい男ねえ。藍湛、見に行ってみるか」
「うん」
思追と景儀が大慌てで駆けつけてきたのを見るに、騒ぎは思っていたより大きいと二人は予測した。思追の背中に隠れていて見えなかったが、見覚えのない男子が一人。思追が「大丈夫ですよ」と声を掛けているのを見るに、その乱闘騒ぎに巻き込まれた者の関係者か。歳は思追たちと同じくらい。身体の線は細めだが、身なりも顔つきもしっかりしているから、良いところの育ちだろうと、魏嬰と藍忘機は推察した。
景儀が名を尋ねると、彼は張成嶺と名乗った。師匠たちと買い出しに来たところ襲撃されたという。ふむ、もしや彼の師匠はどこかの手練れなのだろうか。興味が湧いた魏嬰は、口の端を上げて笑みを浮かべた。早く来てください〜と腕を掴む思追の後をついて行った。
「ふむ、阿絮、どうする?」
「数は多いが…強くなさそうだ。俺が先に回って隙を作るから、老温はそこを狙って一気に攻撃してほしい」
「了解した。だが、あまり無茶をするな」
「誰がいつ無茶をしたって?」
「いつもだろう」
「俺が無茶をしたら、老温が助けてくれるだろう?」
「その通り」
「ごちゃごちゃうるせえぞっ!かかれ!」
件の料理屋に向かうと、二人の男が賊に囲まれていた。ふむ、二人とも見目麗しい。確かにこれは多勢に無勢だが……。
「あまり心配しなくてもよさそうだ」
「えぇ!?」
「魏嬰の言う通りだ。二人の動きをよく見てみると良い」
「動きと言われても……」
阿絮と呼ばれていた男が、片足を踏み出して前に出た。踏み出したと同時に加速し、その姿を目で捉えるのは困難だった。賊たちは何が起こったのかと騒ぎ出す。加速しながら繰り出される手刀、足蹴り、そして浮力を使った跳躍。かなりの使い手であることは明らかだった。
賊の体勢が崩れたところで、青緑色の着物を着た男が扇を飛ばした。その扇はまるで意志を持つかのように飛び、賊の首筋を正確に狙っていく。無駄のない動き。
「あとは役人に任せよう」
「そうだな。阿絮、また無茶をしただろう」
「していない。こら、腰に手を回すな」
「気にするな」
「俺が気にするっ」
「師匠~!師叔~!」
成嶺が駆け出し、二人に抱き着いた。その様子は、まるで家族のようにも見える。師匠と呼ばれた男は、安堵したように成嶺の肩に手を添えた。
「ほらな、言った通りになっただろう」
「あのお二人、とても強いのですねえ」
思追が感嘆の声を上げた。一方の景儀は、扇子を投げる真似をしていた。あの扇子の術は確かに凄い。一般人が投げればただの扇子に過ぎないが、いとも簡単に操る様は、凄腕の証だろう。
「あまり見かけたことがないけど、どこの人たちだろう?」
「ん?含光君、何か気になることでも?」
「あの足の動き、どこかで見たことがある……」
魏嬰と藍忘機、そして弟子たちが話し合っているところに、成嶺が二人を連れてきた。
「この度はありがとうございました!」
「弟子を助けていただき、感謝する」
「困った時はお互い様だ。なあ、お兄さんたち、場所を変えて飲み直さないか?旨い酒を出す店を知っているんだ」
「賛成だ」
「阿絮、酒は控えるように言ったばかりだろう?」
「最近は控えている」
「全く、ああ言えばこう言う……。分かった。飲み直そう。我々を案内してもらえるだろうか?」
「魏先輩、含光君。僕たちは成嶺の買い物に付き合ってきます。昼食も別の店で済ませますね」
「分かった。あまり遅くならないようにしろよ」
②へ続く