13回目『暁』「ジーナちゃん、来れたら良かったのにね」
「仕方がない。彼女も警察だ」
待ち遠しさを隠さないアイリスは踵を地面から離し、戻したかと思うとまたすぐに踵を上げて身体を揺らす。爪先のみで立つたびにひょこりと近づく背はバロックよりも低いが、初めて出会った頃よりは遥かに差が縮まった。義姉に似た容姿は年月を重ねる毎にますます面影を色濃くし、まだ東の水平線が白み始めたばかりの薄暗闇の中で白磁の輪郭を浮かび上がらせていた。
夜明け前の静かな寒さから身を守るように組んだ腕の下で懐にしまった手紙の角を撫でる。数週間前に届いたそれには今日この日に船が到着すること、時間は早朝になる予定だから迎えはいらないと極めて事務的な内容が記されていた。従う道理もないだろうと昨夜の内に深夜列車に乗り、暗闇に包まれた船着場に降りるとそこにはホームズとアイリスが既におりバロックを見つけると手招きをしてこっちへ来いと誘う。手紙の事は話していないのに何故、などと問うのはこの親子には今更だった。
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