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    せいへき

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    せいへき

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    簓零 Dom/Subユニバース

    ##簓零

    溶ける瞳、解く手勝手に入った家の中。入り口から家主を探し奥へと進んでいくと徐々に威圧感が強くなっていった。
    「酷くカリカリしてんなぁ簓くんは」
    その威圧感の発生源は飲む気がなさそうなマグカップを片手にソファーに座っていた。
    小刻みに揺れる足。時折体を掻きむしる指先。
    何故昨日普通の顔をして生放送に出ることができたのか分からない程酷い有様だ。
    「分かってんねやったら早く帰れ」
    普段とは違い随分と乱暴な口調に思わずため息が漏れる。ここまで自分を取り繕えなくなっているというのにまだ一人でどうにかできると思っているのか。
    「薬は」
    「あんなん効かんわ。副作用だけ出てゲロと一緒に吐き出して終わり」
    思い出したのか喉の辺りを気持ち悪そうに触りもともと酷かった眉間の皺を更に濃くした。
    ——簓はdomだった。しかもかなり特性の強いdom。出会った時にすぐに分かった。常時チクチクと肌を刺されている様な感覚がする程垂れ流されるグレア。幸い相性の問題なのか自分以外は気づいていない様だった。
    最初は随分と強いdomなんだなとしか思っていなかったが日に日に強くなっていくグレアと上手く隠している苛立ちと体調不良に余程タチが悪い強さを持っているのだと気付いた。
    「パートナーか……いないならプレイ専門の店もあるだろ」
    ダンッ、と大きな音を立て簓が持っていたマグカップを机に叩きつけた。二口しか飲まれなかった珈琲が無惨に机に溢れる。簓の手にもかかっているが火傷はしなかっただろうか。
    「全部試しとるわ試してこれやもうほんまいい加減にせぇよ零そろそろ我慢も効かんくなってきた」
    「まぁそうだろうな」
    今日ほど自分の性——switchである事に感謝した事は無い。
    subを満足させられるのはdomだけ。
    domを満足させられるのはsubだけ。
    subの苦しみを理解できるのはsubだけ。
    domの苦しみを理解できるのはdomだけ。
    俺は簓を満足させる事ができて、まぁ完璧にとはいかないが苦しみも理解できる。
    「お前はどんなプレイがしたいんだ?」
    ダイナミクスをdomからsubに切り替え簓に一歩近付いた。
    実際どの様にしてダイナミクスが切り替わるのかはまだ科学で解明されてはいない。変えようと思って変えられるタイプと変えられないタイプ。変えようと思った瞬間に変えられるタイプと時間がかかるタイプ。周期によって変わるタイプ。
    俺は幸い自分で変えようと思った時に変えられるタイプだった。どの様な原理で変わっているのかは俺自身も上手く言葉で説明できない。何かの回線の繋ぎ方を変えるというかそれそのものを入れ替えるというか、まぁそんな感じだ。
    「……は?」
    俺がsubに変わった事に気付いていない簓は極端に強いグレアを発して俺を見た。
    容赦なく浴びせられるグレアにゾクゾクと言いようのない感覚が背筋を這い膝から力が抜けそうになる。
    「お前はどんなプレイがしたいんだ。命令がしたいのか甘やかしたいのか世話をしたいのか、それ以外も色々あるな。言えよ」
    どうか表情に出ていません様に、なんて柄にもなく祈りながらもう一歩簓に近付く。
    「言って何になんねん」
    「俺が叶えてやるよ。まぁ全部とはいかねぇだろうが」
    「ハッ……何? 零が俺のパートナーになってくれるん? 自分domやろ出来もせん事言うなよ」
    「普段はな」
    「普段って……零Switchなん?」
    やっと気付いたのか簓は驚いた顔でこちらを見上げた。
    強いグレアが弱まり知らない間に緊張していた体から力が抜けまた膝から力が抜けそうになってしまう。
    「あぁ。普段は何かと都合が良いからdomのフリしてるがれっきとしたSwitchだぜ。ちゃんとsubの欲求もある」
    「ぇ、あ、すまん俺さっきめっちゃグレア出してもうてたよな」
    驚きからか少しでも俺にグレアの影響を与えない様にか簓は俺から遠ざかる様にソファーの端に座り直した。
    「でも俺のグレアって強すぎるらしいねんけど零なんで普通に立ってられるん?あ、今もdomのままなん?」
    「いやsubだ。subだがお前のグレアに耐えられた。そんな俺ならお前のやりたい事叶えられると思わねぇか?」
    「……、いやあかん」
    「我慢しても良い事無いぜ?」
    また一歩簓に近付く。簓の体が跳ねた。
    「このまま我慢し続けるのはもう無理だろ」
    また簓に近付く。今度は一歩だけではなく簓に触れられる距離まで。
    「簓、お前が辛そうなのは俺も辛い」
    俯く顔に触れ目を合わせる。頬に触れた手に重ねられた簓の手は可哀想なほど震えていた。
    「……セーフワード決めて。十分だけ。十分試してあかんかったらもう俺にこの話せんとって」
    「十分?短すぎねぇか?」
    「今までプレイやった子一つ目のコマンドであかんかったんや。だから長くて十分。短くてコマンド一つ」
    簓の額から汗が一筋流れた。
    自分が想像していたより何倍も苦しんできたんだろう。たった十分のプレイをすると決めるだけでこんなにも 消耗してしまうなんて。
    「……セーフワードはそうだな、月でどうだ」
    「なんで月?」
    「盧笙が守ってくれそうだろ」
    「これであかんかったらもう終わりやな」
    「そんな事にはならねぇよ」
    コマンドも出されていないのに簓の膝の間に割り込んで地べたに座り込む。途端に強くなったグレアにぐらりと視界が揺れた。
    地面についた手に力を入れなんとか倒れ込む事は避けられたが気を抜けばすぐに倒れてしまいそうだ。
    「……俺まだコマンド出してへんねんけど」
    「ハハッ……そう、だな、ぁッ、は、ぁ……」
    簓の太ももに頭を預けて見上げるとまだ少し不安そうな顔をしながらも瞳はdom特有のギラギラとした瞳に変わっており胸を撫で下ろした。
    無理矢理頷かせた様なものだから簓の方がドロップしてしまう危険もあったが大丈夫そうだ。
    「勝手に動いた俺にお仕置きしたいか?それとも褒めたいか?」
    お前の好きにしろよ。そう言って笑えば少し怯えたようにしながらも簓の手が動いた。
    「零……『good boy』良い子やな、ありがとうな」
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