凶器の行方この度はイベント会場にて新刊をお手に取っていただきありがとうございました。
下記おまけSSは新刊本編より少し後のお話になります。
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【凶器の行方】
「捨てるか、売るか。なんでもいい、とにかく早急に処分してくれ」
ネクタイを締め、出勤準備を済ませたオレの手に稀咲が握りこませたのは、大粒のダイヤモンドが光る指輪だった。
「ああ、これ。抜き取ってたんだ?」
「オレに繋がるものを残しておく訳にもいかないしな、それに……」
言い澱むと、稀咲はそっと目を伏せた。近頃よく稀咲が見せる表情だ。外界を遮断し、眩しい光を浴びた時のように目を細め、何かこの世のものではないものを見つめている。
「……とにかく、早急に処分してくれ。お前にしか頼めない」
「殺し文句だァ♡承知いたしました~」
稀咲が部屋を出たのを見届けると、おもむろに自分の左手に指輪をはめてみた。
薬指。勿論入らない。小指。これも根元までは入らない。窓の近くに移動し、小指の先に引っかかっただけの指輪を陽の光に晒してみる。指輪は光を跳ね返しギラギラと凶暴に光っている。
「ばはっ。ウケる」
指輪を抜き取り、三百六十度ぐるりと舐めるように眺めた。稀咲が拭ったのか、たまたまうまく汚れなかっただけなのか、指輪には血の一滴もついていなかった。汚れや損傷がないとはいえ、売れば足がつく可能性もある。やはり捨てるのが良いか。
「どいつもこいつも、見る目がねえなァ」
指輪を握り締めたまま、スラックスのポケットに雑に手を突っ込む。浮かれた気持ちが隠しきれずに、声が跳ねた。ポケットの中でころころと指輪を弄ぶと、死体のように冷えた指輪が火照った肌に心地良く、オレの機嫌はさらに上向くのだった。
二〇二二年八月二十八日
ホルモンガーディアン ビコツ(ほね)