イェラグ温泉ヴィクトリア留学時にバスタブを知るも、滞在していた部屋の風呂が狭かったため良い印象のなかったノーシス。一方のエンシオディスは共同浴場や所謂風呂文化も広く見聞し、なるほど裸の付き合いか悪くはないがイェラグでは到底無理であろうな…など思っていた。
ある時ふとした話題の流れで「イェラグって温泉ないの?」と極東出身のオペレーターに訊かれたノーシスは「ない。そもそも人前で肌を晒すなど言語道断…」と一蹴するも「あの雪山掘ったら温泉出そうな感じしない?温泉、あったら観光で流行るよ絶景雪山温泉〜」とまったく悪気なく明るく言われ(国内ではない外部の需要)に目を向けるようになる。
単身イェラグへ赴き水脈を探すノーシス。
火山を有していなければ温泉は出ない、ということはなく非火山性のものも多くある。いくつか出そうな土地の目星がついた辺りで、ロドスを訪れたエンシオディスに調査書の束を渡す。
「これをお前から貰う日が来るとは…」己の顎に手をあて、にやりとするエンシオディス。
「なんだ、満更でもなさそうな顔をして」
「私も観光事業の一環として開発を考えていた時期があった。だが誰も賛成はしないだろうと、ついぞ提案することはなかった」
「賛同は得られないだろうな」
例えば仮に、もともと温泉が湧いていたのならば(これを使って観光客を呼ぼう)といえる。何もない白く清らかな山地に深く深く穴を穿ち、眠る熱を引きずり出す掘削行為は、何らかの禁忌に触れそうな「罰当たり」な忌避感を持たれるだろう。それで豊かな富が得られるとしても。
「神域や居住地を避けた候補地はある、取り敢えずそこを」
「掘りに行くぞ、ノーシス」
「――は??」
「何を呆けている。言ったであろう、誰の賛同も得られぬと」
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「ところで、何故急に温泉などと私に持ちかけたのだ。お前は風呂は嫌いだろう?」
「私が嫌いでも、外に需要がある話を耳にした」
「どこで」
「……ロドスの食堂だ」
何だかんだで親友がロドスに馴染めていること、遠い故郷も傍らに置かれていることにエンシオディスは頬を緩めた。
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・二人でこっそり温泉掘り
・見つからなくても、この宝探しがわくわく楽しい
・ちょろっと掘り当ててきらきら湯飛沫バックに大声で笑いあって抱き合うよ
(イェラグの歴史書にはエンヤの神託とされエンシオディス、ノーシスの名は載っていない)