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    ちゅーりっぷ

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    ちゅーりっぷ

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    人魚として生まれた小芭内と小国の姫として生まれたプリンセス・ミツリとの恋の物語。
    本編執筆中ですが、「ふたりはいつまでも2」のイベントに間に合いませんので、前半をダイジェスト版としてお届けします。
    お話はまだまだ続きます。また、本編をかき上げた際は改めてpixivにてご案内いたします。

    注意:最後に処刑の表現があります。

    #おばみつ
    #伊黒小芭内
    izuThrush
    #甘露寺蜜璃
    ganryujiMiluri

    人魚のしずく 時は今よりはるかもっと昔、人間と人魚が共に暮らしていた頃の話。数百年ぶりに生まれた人魚の男の子、そして大国に挟まれた小国の見目麗しい姫との恋の物語。人間と人魚たちとの間の争いを消すさだめの二人、しかし生まれの違う二人は大国の狭間で運命にもまれていく。

    ***

     今より遥か昔、ずっとずっと前の話。今よりも自然も美しく海は透き通って輝いていた頃。海に住むは体の上は人の見た目をして、体の下は魚の形をした者達。その名は人魚。この世は人魚が先に生まれたのか、人が先に生まれたのか、それは誰も知らない。そして人間たちは人魚がいる事をおぼろげに知りながら、詳しい事は分からない。ただ分かるのは危険だという事だけ。

     そして、ある所に美しい海に浮かぶ小国があった。煌めく青緑の海に囲まれ、日がさんさんと降り、豊かな水にも恵まれた国、その名もレイン国。一日一度、時間も定まらないまま気まぐれのように優しい雨が降り、雨が止めば日に照らされた虹がその国の上にかかる。まるで祝福されたような美しい国。レイン、雨の国。レイン、虹(レインボー)からも名前を取った虹の国。

     そしてその国の東の沖を更にはるかに行った先にある海の中、深くも無いそこは日の光が入り込む美しいサンゴ礁の世界。人魚たちが住む国。人魚が住む国は多々あれど、そこは不思議な事に女の人魚ばかりが住む国。

     レイン国は海を挟み北と南にある大きな大国に挟まれていた。北は蛮国、その名の通り常に周辺の国と争う血に濡れた国。そして南は煌国。争いのない自由に溢れた豊かな国。二つの国の間の海は二つの国が争うのを止める役割をしている。そしてレイン国も。レイン国の周りは穏やかな海も少し外海に出れば荒れ狂い、蛮国も煌国も容易には互いの国に行けない。ただ、潮の流れでレイン国までは行ける。レイン国は二つの国の貿易の仲介もし、資源にも恵まれ、小国ながら豊かな国だった。

     レイン国の北と南の外海は常に渦を巻いていて、どんなに努力しても決して船を進める事が出来なかった。だから潮の流れを利用して一度東か西のどちらかに船を進めてから北か南に船を進める。それがいつもの事だった。
     そして人々は言う。レイン国の東は行かないほうがいい。人魚がいる。どうして?東の方が海が穏やかだよ。西は常に荒れ狂う海。とてもそこに船を進めはしない。ただ、一日に一度穏やかになるわずかな時間だけ船を進められる。
     そう、だからどちらを選ぶかは自由。だけど、東に行くならば人魚の歌を聞いてはいけない。人魚の歌を聞いたら船と共に海の底だよ。

     大国に囲まれ、荒れ狂う海、不思議な人魚の伝説、そんな中でもレイン国の周りは常に穏やかで、そこで生まれた一人の姫はまさにこの国の祝福を受けたように輝いた姫だった。

     そして同じ頃、少し前に人魚の国で生まれたその赤ん坊。それも人魚達にとって輝くような赤ん坊だった。


     この子は大切に育てないといけないよ。海蛇の魔女様にお伺いを立てたのだ。この子を大切に育てろと。海蛇の魔女様が許す物しか食べさせてはいけない。そして月に一度、あの人の所へこの子をお見せしに行くのだよ。

     人魚の国も人間の国と同じ、数々あれどもこの人魚の国は男はいない。そして数百年ぶりに生まれる男の子。生まれた人魚は必ず海蛇の魔女様の所にお見せする。喜んだのは海蛇の魔女。いつからかこの人魚の国の傍に住み、大きな魔力を持つその魔女に人魚達は従う。

     成長するにつれ、その子供は頻繁に魔女の所へ伺いをたてに行くよう命じられる。

    「本当に18になったら海の上の世界に出れるのだろうか?」
    「そう、18になる前の満月の夜、お前の体は月の光を浴びて変わる。海の上の世界でも呼吸できるようになる。」
    「姉たちが言っていた。海の上の世界は美しいと。」
    「そうだ。だが美しさに虜となる者がいる。だから気を付けなければいけない。」
    「どんなふうに?」

     その子、名前は「小芭内」。海蛇の魔女が名前を授けた遠くの国の言葉。一度子どもを産むと気まぐれに国を出て暫く戻らない人魚達。小芭内は今は海蛇の魔女の元で暮らす事が多かった。

    ***

     18になって小芭内は知る。海の上の日の光の眩しさを。夜の月と空の美しさを。夕暮れと朝日の泣きそうな輝きを。全て海の中から見ていたのとは比べ物にならないほどだった。そして、見た。美しい海の向こうに浮かぶ島。行きすぎてはいけないという魔女の言葉に逆らってその島へ行く。緑にあふれ、家々が連なるその島。そしてたくさんの船。船は海の中から見た事がある。人間が乗るもの。海の上から見るそれは色とりどりの旗をひらめかせ、リボンをなびかせ、今島から出るところだった。

     興味本位に小芭内はその船を追う。沢山の人が島に向かって手を振る、が、やがて船が沖に出ると、今度は皆船の先に進み進行方向を見つめる。その瞳は皆希望に満ちていた。
    「南へ行くんだ。」
     小芭内は思う。南に大きな国があると海蛇の魔女は言っていた。でも、小芭内は思った。南にまっすぐ進めないのは分かる。人魚でさえそこは大きな渦で飲み込まれる場所。だが何故?東ではなく西へ向かうのか?西は海が荒れている。それは小芭内でも知っていた。
     でも、小芭内は知らなかった。東に入ってはいけない、東には人魚がいる。人魚の歌を聞けば引きずり込まれてしまう。誰も逃げられない。そんな話が人間の世界にある事を。

     小芭内はそのまま船の後を追う。何故か惹き付けられて。いや、とっくに分かっていたのだ。手を振る人達の中に、そして先端に行く人達の中にひときわ目を引く美しい人がいる事を。
    (人間の世界に魅かれるとはこういう事なのだろうか。)
     美しい人。決して話す事も無い、違う世界の生き物。なのに。これほどまでに惹かれるとは。船の行く先をまっすぐ見つめるその人、何をみているのだろうか。

    ***

     思わず追う小芭内の目の前でその船は遭難する。投げ出される人々、散らばる船の破片、あちこちに浮かぶ救命ボート。そして聞こえる「姫を!姫を!」という声。
     小芭内は知っていた、その姫と呼ばれる人が小さな子供を助け救命ボートに乗せた事を、そしてそのまま海の中に沈んでいったことを。小芭内はその姫を追う。海の底へ吸い込まれそうなその人を追って。月の光が海の中まで刺し、その光に照らされて浮くその人を小芭内は抱き寄せ海の上に上がった。海の上は、もう遭難での騒動は静まり返っていた。

    (きっと海蛇の魔女がしたのだ。)

     小芭内はそう思う。そして姫を抱いて島の岸まで行く。
    こほっっ!
    と、音がして腕に抱く姫を見れば口から海水を履いて大きく息をし始めていた。

    (良かった。)

     きっと、海に沈む一瞬、全てが仮死状態になったのだろう。あの荒れた海の中でも子どもを助けるだけでも大変な事だ。姫の生命力が姫の命を取り留めた。

     岸まで着いて小芭内は姫を何とか砂浜に上げた。人魚の体では砂の上を進むことは出来ない。波打ち際で姫が息をしているのを確認し、小芭内は月あかりに照らされる姫をもう一度見つめた。

    (……人間……。)

     そう、人間なのだ。人魚の自分とは違う世界の者なのだ。一緒に暮らす事も出来るはずもない。

     それでも、その人間が愛おしく、小芭内はそっとその髪に触れたくなった。

    「誰か?誰かいるのですか?」

     ランプの灯りと共に人の声がする。小芭内は急いで岩かげに隠れた。

    「姫!姫様!」

     一人の娘が姫の傍に駆け寄った。

    「生きていらっしゃったのですね。誰か!姫様が生きていらっしゃいました。これで皆助かりました!」

     その声を聴いて小芭内は深く海の底へ潜って行った。

    ***

    「いいのかい?」
     海蛇の魔女は小芭内に尋ねる。
    「人になるという事はもう人魚に戻れないのだよ。そして人魚だとばれて人として生きられなくなったらお前は泡となって消える。」
     海蛇の魔女は泣きそうな怒ったような声で小芭内に言った。
    「別の理由だが、愛を叶えられず泡となって消えた娘がいた。お前がそうならない保証などない。」
    「でも、この狭い海だけで生きていきたくない。そして例え駄目だとしても、広い世界を知りたい。」
    「小芭内、よく考えなさい。なぜあの船に姫が乗っていたのかを。分かるかい?」
     首を振る小芭内に海蛇の魔女は言う。
    「人間の世界は人魚の世界のように自由ではない。お前が望んでもあの姫はお前の物にはならない。」
    「だが貴方は人間の世界の複雑さを俺に教えた。何故だ?」
    「……。」
     しかし、海蛇の魔女は答えなかった。

    「行っておいで、お前は私が止めても聞かないだろう。」

     人間の国へと向かう小芭内に海蛇の魔女は呟いた。

    「分かっていた事だ。お前がこうなる事を。そして私も待っていたのだ。……それが叶うかどうか、後は運命に掛けるだけだ……。」

    ***

     人の国の物だ。そう言って海蛇の魔女から受け取ったローブを羽織り、腰のあたりを紐で留められた。人となっても腰の両方に人魚の証となる鱗が残る。それは決して人に見せてはいけない。人魚とばれたら殺されるだろうと。
     そして向かう人の国。あの姫を助けた場所に来るにつれて小芭内の体は人の体となる。それと同時に泳ぎがおぼつかなくなる。そして溺れそうになった最後、体が地に着き、小芭内は人となっていた。だが、歩いた事も無い脚は歩けず、人魚の時と同じように砂浜を進めないまま、小芭内は倒れた。人となった体は焼け付くように痛む。

     そうして気を失った小芭内に朝日が差し込む。
    「まあ、大変、大丈夫ですか?」
     その声に目を覚まし瞳を向けた先にいたのはあの人。そう恋焦がれたあの姫。

     宮殿の医務室に運ばれ、そしてどこから来たか分からない小芭内は立てるようになるまで介抱を受け、そのまま宮殿の片隅で住む事を許された。そして姫の教育係としても。海蛇の魔女から教えられた知識は深く、姫に教えるに十分だった。

     それでも、それは学んだ知識だったと知る。小芭内は人間の世界の想像以上の複雑さを知った。いずれ、姫が結婚する事も。

     大国に挟まれた小国。蛮国は技術が発達し、荒れたこの海でも遭難する事無く航海ができる船を多く作れるようになった。いずれ、このレイン国も狙ってくることは分かっていた。既にいくつかの島国が蛮国の物となった。

    プリンセス・ミツリ

     レイン国の姫。

    「ミツリ姫は煌国の王子様と婚約を交わす予定でした。」

     そのためにあの日、ミツリ姫は船に乗ったのだ。煌国の王子と会うために。そして遭難した。

    「姫様はまだ王子様とお会いしておりません。そしてあの日から姫様の心が時折沈みがちになられました。一生懸命笑っていらっしゃるようにも感じる。これからもう一度煌国に向かわれます。姫様がまた以前のように笑顔に溢れるとよいのですが。」

     小芭内の面倒を最初に見た医務室の者が言った。姫の、笑顔、そればかり見ていた。沈んだ笑顔には気付かなかった。ああ、そんな自分が姫の事を思う事など許されようか。何もわかっていなかった。知らなかった。

    ***

     自由気ままに生きている人魚達と違って人間の世界は複雑だった。蛮国の力は大きい。それに蛮国との取引で利益を上げている者はこの国が煌国と同盟を結ぶ事を望まなかった。そして、煌国との同盟を進める姫は誰かにたぶらかされたのだろうと騒ぎ立てた。そして教育係の小芭内に批判の矢が向けられる。

    「どこから来たか分からない者。」
    「そんな者を姫の傍に置くなど。」

     そして、ミツリ姫はその後煌国の王子に一度は会ったものの、婚約は断ったのだった。
    「何故だ?」
    「あの教育係がたぶらかしているに違いない。」
    「煌国を怒らせてしまうなら、もう蛮国にすがるしかない。」
     煌国との同盟を望んでいたで者さえ、小芭内を批判するようになった。

     そんな時、小芭内が人魚である証が見つかった。決して人には見せなかった左右の腰に残る人魚の鱗。人になっても消えない人魚の証。

     プリンセス・ミツリが地方巡行の為に城を離れたすきに小芭内は捉えられた。

     国を傾ける反逆者として、そして、人ならざる者、人魚として。

     ミツリ姫が城に戻る前に、小芭内は処刑されることになった。

    (これでいいのだ。)

     姫は蛮国との同盟など望んでいない。気の迷いで一度婚約を断ったのだ。それは俺には密かに嬉しい事だったがだからと言ってどうなるものでもない、単なる俺の自分勝手な願い。元から生まれの違う人だったのだ。結婚などはもとより望むべくも無い。人魚の世界の様に単純ではないのだ。
     傍にいてお世話ができただけでどんなに喜びだっただろう。これで命を失うとしてももう悔いはない。姫は今度こそ煌国の王子と婚約し、同盟も結ぶだろう。姫とこの国の幸せを願う俺にもう思い残す事は無い。

    (お前がきっかけになるだろうか?)

     海蛇の魔女の言葉を思い出した。あれはどういう意味だったのだろう。ただ分かる事は、あの言葉の意味が分からないままに自分は何もきっかけとはならなかった、それだけだ。

     何もできなかったのかもしれない。そして最後に姫にもう一度会いたかった。

     人々の罵りの声の中、小芭内は一人処刑台に向かった。

     処刑は船の上からの身投げ。泡となって消えるのならば、最後は生まれた海で死にたい。死ねる。それだけが救いと小芭内の胸は熱かった。

    前編終わり
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