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    kinonite

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    なきさんの素晴らしい月菅漫画(https://twitter.com/hnkc_a3/status/1467122670651441154)を僭越ながら小説にさせていただきました……。私の文章など蛇足に過ぎないのですが良ければどうぞ……

    #月菅

    Reeling まあ多分、欲目を抜きにしてもだ。ドレスアップした菅原はさまになってる。色素の薄い瞳、柔らかな笑顔、整った横顔。でも襟元が少し乱れてて、どこか完璧じゃない。着崩しても自分が赦されてしまうって、この人は無意識で分かってるのだ。せっかくの衣装を台無しにしてしまう、そういう少しの傲慢さ。
     月島はそんな恋人を見つめる。どうせならちゃんと前髪をあげて、もっと仕立てのいいスーツを着せたいなとか思ってしまうけど。でもそんなことしたら本人すら気づいてない、だらしない色香を楽しめない。だから別に、このままでいいかなって思う。

     結婚式の後のパーティーは3次会まで続き、もうすっかり外は暗い。バーの窓から夜景を見て、月島はため息をつく。それですっかり酔った菅原の手を引き、2人でホテルのエレベーターに乗る。
    「あれ、抜けるの?」
    「……はい」
    「なに、疲れた?」
    「別に。ただ飲み過ぎたなって思っただけ」
     そう? と、菅原は笑う。飲み過ぎなのはあなたもですよ、と、月島は苦笑する。
    「嬉しいね、こういう日に泊まれるの」
     酔ったままタクシー捕まえなくて済みますしね、と思って、月島は頷く。菅原はその目を見て、笑ってない唇で言う。
    「……2人で一緒に」
     月島はちょっと驚く。そして、そうか、僕らは2人で居るんだ、って改めて思う。
     菅原とずっと一緒にいることが、いまでもどこかで信じられない。一緒の部屋で暮らしてるし、付き合ってそれなりに長いのだけど。この人は掴めそうで掴めなくて、どこか非現実的な感じがあるから、手に入るって思ってなかった。
     でも、付き合ってからの日々で積み重なったものは確実にあって、月島に影響を及ぼしてる。たとえば昔からの知り合いに久しぶりに会うたびに、「優しくなったよね」って言われる。認めるのは気恥ずかしいけど、多分菅原のおかげだ。それはつまり昔の未熟さを指摘されてるわけで、複雑な気持ちにもなるけど。ちなみに日向はこういうとき絶対「成長したよな……」ってしみじみ言われてる。で、言われる度つっこんだり全力で喜んだりしてる。呆れながらも、日向のそういうところは嫌いじゃないなって月島は思う。
     最近気づいた。きっといま、自分は満ち足りてる。自分が前とは変わってしまったせいかもしれないけど。
     それで隣にいるこの人を、永遠にしあわせにしたいなって思ってる。でも永遠なんて無邪気に信じられるほど子どもじゃないし、永遠を目指せるって思えるほど強くもなれてない。大人になるって難しい。そもそもしあわせってよく分からない。このまま2人で生きていく限り、叶わないことも手に入らないものもあるだろうし。そんな葛藤。
     でも菅原にあえて伝える気はない。そういうの全部自分だけしか知らなくていい。菅原の手はあたたかい。多分酔ってるせいだ。

     月島がホテルのドアを開けると、菅原は早速ベッドに寝転ぶ。高級そうなベッドがその体重分沈む。
    「ちょっと、飲みすぎですよ……」
    「めでたい席だもん、しょうがないだろ。ほんと良い式だったな〜」
     ネクタイを緩めつつ、月島は忠告する。
    「シワになっちゃいますよ、せっかくおめかししてるのに」
     えー? とか言ってからかうように笑う、菅原のいたずらな笑顔が見える。
    「そんな心配なら、脱がして」
     月島は息を吐く。それで、ベッドに膝をついて菅原のそばに体重を乗せる。ギッ、と、スプリングの軋む音。白い頸と、白いネクタイに身体が近づく。邪魔なもの全部むしりとるようにして抱きしめた夜もあるけど、今日は丁寧にそれを扱う。
     月島はネクタイに触れ、結び目を緩めるために持ち上げる。その手つきは少し、花嫁のベールを上げる仕草と似てしまう。誓いの言葉と誓いのキス。神さまなんていないのにバカげてる。でもあの瞬間をなぜか、月島は美しいと思ってた。参列者の歓声、すべてからの祝福。自分といる限り、おそらく菅原の手には入らないもの。
    「ああいうのが、」
    『しあわせ』なんですよね、って、月島は続ける。菅原は全然躊躇わず、それに答える。
    「『しあわせ』に正解とか無いよ」
     菅原は笑って、まっすぐに手を伸ばす。次の瞬間、月島はバランスを崩す。身体を引き寄せる白い腕のせいだ。
    「な?」
     胸のあたりに頭を抱かれる。その鼓動が聞こえる。菅原の声は、しあわせだよな? って感じの響きだ。その強引さに躊躇いつつも、なんだか気分が落ち着いていくのが分かる。
    ──あったかい……、
     月島は眠くなってしまう。あたたかさに微睡む子どもみたいに。菅原の声がしたような気がするけど、もうよく聞こえない。いつだってこの胸に抱きしめられてると、難しいことは考えられなくなる。きっと安心してるんだと思う。ただそれだけのことで。なぜなのか分からない。でも、なんか愛って感じだ。
     成人して何年も経ってるのに、こんな感情に振り回されてる。それはきっとみっともないだろう、とても滑稽。って、自分でもしっかり分かってる。でもこの腕にこうやって絡め取られてると、そんなことどうでもよくなってしまう。愛ってすごい厄介だ。厄介でしょうがない。厄介なんだけど。
     菅原の体温に埋もれながら思う。儀式めいた何かなんてしなくても、別にいまここであなたに誓いますよ。死んだ後のことは分からないけど、生きてる間くらいはずっと。
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