手と手「季節柄ってのもあるんだろうけど、最近ビニールが捲れなくなってきた」
スーパーのサッカー台で、一向に広げることができない薄手のビニール袋を前にぶつくさ言う。隣から伸びてきた長く、骨ばった指がスルリと口をあけた。
パック入りのキムチを中に入れると「お前はまだ若いからな……カルビもまだ食えるし」と言い訳のようにつぶやいた。
脂っこいものがそろそろきつくなる年齢だな、というのが近年の同級生たちとのもっぱらの話題だった。しかしまさか指先の乾燥までも実感することになろうとは。
子どもの頃、買い物について行ってビニール袋をあけるのは俺の役目だった。手伝いたい盛りの息子に何かやらせてやろうという親心もあったのだろうが、家事・育児に専念していた母親の手は少しかたく、少々かさついていた。あの頃の母親の年齢に、そろそろ近づいてきている。
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