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    スドウ

    @mkmk_poipoi

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    スドウ

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    【主明】3学期、公の場で明智の顔にぺごのソーセージの肉汁がかかる話。下ネタと匂わせすけべ。文舵7-追加問題。視点違いが2本入ってる。

    我慢できなかったね※文舵7-追加問題。事件や事故の物語を、遠隔型の作者(壁に止まったハエ視点)と一人称で2回書く。

    【遠隔型の作者】

     それは不幸な事故だった。
     現場は、純喫茶ルブランにある一番奥のソファ席だ。机の上には、マスターの惣治郎特製のナポリタンがふたつ。ちょうど同じタイミングで皿に顔を寄せた蓮と明智は、互いに違う表情を浮かべている。  
     蓮は太さ三センチ程のジャンボソーセージを咥えたまま、目を見開いていた。そのこめかみには汗が滲んでいる。暖房と飲食のせいで浮かんだものらしい。それがたらりと頬へ滴り落ちた。
     それに対し、向かいに座る明智は無表情だった。口を大きく開こうとするのを止め、ナポリタン付きのフォークを皿に下ろす。皿上のパスタの横には、蓮が咥えているものと同じソーセージが一本。
     ルブランで普段提供されるナポリタンとは違う形のもの。それが閉店間近の喫茶店に小さな事件を呼び込んだ。
    「明智、ごめん!」
     口からソーセージを離しながら、蓮が叫んだ。上擦った声だった。それを聞いて、カウンターで食事をしていた双葉が振り向いた。その隣の席に座っていた惣治郎とモルガナも、同じように蓮を見た。ついで明智へと視線を移す。その頬と口元はてらてらと光っていた。汗ではない。正体は、ソーセージから噴き出した肉汁と油だ。蓮が齧りついた時に噴き出し、机上に顔を寄せた明智の顔にふりかかったものだ。
     二人の顔を見比べた惣治郎が、溜め息を吐きながらカウンターの反対側へ移動した。保温器から出した新しいおしぼりの袋を双葉に渡し、双葉が蓮に繋ぐ。蓮はそのまま明智に渡すことはせず、ビニール袋の端を破った。袋の外におしぼりの先端を少し出す。それを正面の明智に差し出そうとして、蓮は一度止まった。
     ちょうど、明智が口元へ垂れた肉汁に舌を伸ばした所だった。蓮を睨みながら、舌なめずりをし、顎でおしぼりを示す。蓮はごめんと呟き、やっとおしぼりを差し出した。明智は手袋に包まれた指で先端を摘み、おしぼりを抜き取る。蓮の手の中には、薄いビニール袋だけが残された。蓮はそれを汗ばんだ手のひらに握り込んだ。
    「肉汁やばいとは思ってたけど、そこまでとは……。飛距離えぐいな」
     蓮と明智までの距離を目で測り、双葉が呟く。モルガナもうんうんと頷いた。
    「さっき食べた時、ワガハイもちょっと自分の顔に跳ねた。まだちょっとベタベタするぜ……」
    「だ〜から念入りに顔洗ってたのか〜! そうじろー、おしぼりもう一つちょうだい!」
    「なんだ、お前も何か汚したのか?」
     惣治郎の言葉に、双葉は自分でなくモナだと首を振り、蓮は喉仏を上下させた。蓮の目の前では、明智がおしぼりを広げて顔の下半分を拭いている。
    「……ごめん」
    「しつこい」
     平坦な声で明智が返す。蓮は続けて、服は大丈夫かと尋ねた。問題ないと、明智は答える。
     顔の汚れを拭き取った明智は、おしぼりを置いて、食事を再開させた。蓮もフォークにナポリタンをくるくる絡ませ出す。
     双葉がソーセージに齧り付き、本当に飛んだと叫んだ。服にも飛んだと聞いた惣治郎は、何度目かの溜め息の後、またおしぼりを用意する。
     明智がソーセージに手を付けたのは、ナポリタンが残り僅かになった所だ。フォークで刺し、一度抜こうとする。簡単に抜けない事に気付いたのか、そのままソーセージの先端を口に含んだ。
    「さっきの明智さ……」
     蓮の声に、明智は目だけを動かした。少し赤らんだ顔で蓮がひっそり呟く。
    「……おしぼりで顔拭いて、なんかおっさんみたいだったな」
     デリカシーのない言葉からか、明智は眉を顰めた。前歯と犬歯でソーセージの皮と肉をぶちりと断つ。
    「それを言うなら、君の方だろう」
     明智はそう言って、断面から溢れ落ちる肉汁を吸った。蓮は鼻息を漏らして、ひどいと言い漏らした。そして、ソーセージを咀嚼していく明智に対し、蓮は喉の奥でごめんともう一度だけ呟いた。


    2022.09.17



    【雨宮蓮の視点】

     あ、と思った時には遅かった。口の中にじわりと甘じょっぱい肉汁が広がる。肉も分厚くて食べ応えがあるし、旨みが詰まってる。「美味しい。マスターありがとう」と素直に感想を言いたかったけれど、それどころじゃなかった。その瞬間はスローモーションに見えたけれど、どうにもならなかった。その悲劇を目の当たりにしてしまった今、もう事実は覆らない。――俺のソーセージから飛んだ肉汁が、明智の顔にワンショットキルをかましてしまった。
    「明智、ごめん!」
     理解すると同時に、謝らずにいられなかった。食べ途中のソーセージを皿の上に戻す。太さ三センチの極太ジャンボソーセージが、ナポリタンの山を崩した。
     事件は、偶然が積み重なった上で発生した。メメントスの帰り、明智を夕食に誘ったこと。双葉がマスターから帰宅要請されたと告げたこと。双葉ご所望のジャンボソーセージ添えナポリタンを、マスターが作ってくれたこと。そのソーセージの皮が思ったよりも分厚かった事。肉汁が飛び散る程にジューシーすぎたこと。齧り付いた時の角度が悪かったこと。正面の明智が、ちょうど皿へ顔を寄せていたこと。
     不可抗力だと弁解したくなった。いや、そんな事を考えるより先に、新しいおしぼりを持ってこなくちゃだろ。俺が腰を上げるより前に、マスターがカウンター席から立ち上がった。その両隣の双葉とモルガナが、あちゃーという顔で明智を見ている。
     その明智はというと、顔が汚れた瞬間に目を顰めただけで、あとはいつもの表情に戻っていた。いつものというのは、瞳をやや伏せ、冷たさを帯びた顔のこと。年明けから見せるようになった素の方だ。以前の明智なら「大丈夫だよ、心配しないで」と穏やかな苦笑を見せていただろう。……あの時もそうだったな、と頭に浮かびかけた光景を、像が結ぶすんでの所で打ち払った。
    「ほいっ蓮」
    「助かる」
     マスターから双葉、双葉から俺へと回されたおしぼりの袋の端を破る。先端をちょっと出して相手に渡すという気遣いは、バー・にゅぅカマーで覚えたものだ。
     それを明智に差し出そうとして、また見てしまった。直視してしまった。頬から口元に垂れてきた汁へ、明智が舌を伸ばす瞬間を。視線が絡まる。俺を見つめたまま、明智は舌で汚れを舐め取る。冷たく鋭利な瞳が、俺の不埒な記憶と思考を見透かすのを感じた。かっと、頭の奥が熱くなる。
    「ごめん……」
     顎で指されたおしぼりを、明智に差し出す。謝罪は、二つの意味を込めて呟いた。おしぼりと、邪な感情を抱いたことに対して。
     手袋に包まれた明智の指が、おしぼりの先端を摘まんだ。手の中で、温もりがするりと抜け出ていく。手に残されたビニール袋が、事後に残されるシリコンを彷彿とさせた。おい俺、何考えてるんだ。謝ったばかりだぞ。袋と一緒に、考えを手の平に握り込んでしわくちゃにする。
     でも、ダメだと思う程、余計考えてしまうのは人間の性で、更に俺は十七歳の高校生で。カウンターの方からも「飛距離」だとか「まだちょっとベタベタする」だとか「汚した」とか聞こえて、思わず生唾を呑んだ。消そうとした筈の光景が、とうとう頭に浮かんでしまう。おしぼりで顔を拭く明智を見るのは二度目だった。記憶の明智とは反対に、現実の明智がじとりと睨んでくる。
    「……ごめん」
    「しつこい」
    「服の方は? 汚れなかったか?」
    「問題ないよ」
     怒ってはいないという事を、声のトーンで察する。でも、俺の考えを咎めるようなものはあった。ごもっとも。食事中に何を考えてるんだ。でも食事ってセックスのメタファーって聞いたことがある、と十七歳の部分が呟いた。やめろやめろ。双葉におしぼりで拭かれるモルガナでも見て、心を落ち着けよう。顔が汚れるのも気にせず、ソーセージに齧り付くモルガナの姿もかわいかったな。うん。
     顔を拭き終わると、明智は再びフォークを手に取った。巻いたまま放置されていたナポリタンをようやく口に運び、静かに咀嚼し始める。俺も倣って、ソーセージを齧った。また肉汁が飛ばないように、顔を伏せ気味にして慎重に噛む。
    「わっ本当に飛んだ! あ〜っ服にも! やべぇ!!」
    「ったく、何やってんだよ」
     カウンター席で悲鳴が上がる。その割に、双葉もマスターも楽しげだった。小さな不幸を忘れ、穏やかな食事の時間が戻ってくる。明智も何もなかったかのように、黙々と食べ進めている。俺も甘いケチャップとピーマンの苦味に舌鼓を打つ。心中だけは、まったく穏やかでなかったけれど。
     そして、危惧していた瞬間が訪れた。明智がソーセージの先端を口に含んだ。真ん中ではなく、五分の一の所にフォークを刺している。本当は、フォークで切り取り線を作ってから、一口サイズにしたかったんだろうな。太すぎて、フォークが抜けないんだよな。残念なことに。
     瞳を伏せた明智の口から、じゅっと吸うような音がした。気がした。幻聴かもしれない。それくらい限界だった。
    「さっきの明智さ……」
     明智は視線だけ動かして、俺を見た。少しだけ上目遣いで、太い肉を咥えた唇が窄まっている。それが記憶の中の顔と重なって、腰の奥が重くなるのを感じた。勘弁してくれ。明智に対して怒りを抱きそうになる。お門違いな俺を怒ってほしい。劣情を募らせる俺を叱咤して欲しい。明智なら察してくれる。そう願いながら、縋るように言葉を続けた。
    「……おしぼりで顔拭いて、なんかおっさんみたいだったな」
     小さな声はカウンター席に聞こえなかったらしい。明智だけがそれを聞いた。途端、眉を顰める。それが答えだった。
     明智はソーセージに前歯と犬歯を立て、噛み千切る。ぶちゅぶちゅと、肉汁が口の中で溢れ泡立つ音が聞こえた。喉を鳴らして飲み込み、明智は口を開く。俺の認知が歪んでるせいで、油に濡れた唇さえも艶めかしく見えた。
    「それを言うなら、君の方だろう」
     馬鹿野郎と叫びたくなった。俺にしかわからない邪な色が、鼓膜を通じて全身にじんわり広がる。しかも、明智はソーセージの断面から滴る汁を唇で吸い取った。懇切丁寧にトドメを刺してくるな。
    「ひどい……」
     お前のせいで、我慢が出来ない所まで来てしまった。そんな台詞を明智にも言われたなと思い出して、また熱が身体に溜まる。ソーセージを腹に収めていく明智を見ながら、俺は喉の奥でごめんともう一度だけ呟いた。今日は家に帰してやれない。


    2022.09.17
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