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    スドウ

    @mkmk_poipoi

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    【主→明】地図にないカフェを探しに行く約束をするぺごと明智。プレビュー版。
    元ネタはそのまま「地図にないカフェ」
    文舵練習問題8-2。むっずかし〜〜〜……

    黒い星を求め(プレビュー版)※文舵練習8-2。600~2000字で、明確な目印をせずに、視点を数回切り替える。第三者限定視点が、潜入型の作者にならないようにする。



     「ある店を探している」と探偵に語られ、蓮は自分がドラマの登場人物になったかのように思えた。
     テレビに映る顔が、自分の目の前で喋っている。そうだとしっかり意識するようになったのは、明智と知り合ってひと月半経った頃だ。
     彼は別に、俳優やアイドルというわけではない。ただ、コーヒーカップから沸き立つ湯気の向こう、両手を組んで蓮を見上げる明智の姿は、意味深なシーンとしてドラマの次回予告の最後に流れていそうだった。そんな彼と対峙するのが、喫茶店の居候兼バイト、はたしてその正体は世間を騒がす怪盗なのだから、余計にドラマチックだ。
     木曜夜十時かな。山折りになった新聞の内側、細かい字とわずかな色彩が彩る番組表に、タイトルと二人の名前が連なる妄想をしてみる。明智の次に名前が並ぶとなると、自分もレギュラーキャラになるのか。相棒か親友ポジション? いやここは最重要人物として、キャスト欄の五番目くらいに表示される方が良い。
     そんな愉快な思考をおくびにも出さぬよう、蓮は相槌を打つ。ふぅん。へぇ。間延びした声調は先程からずっと変わらないが、その身体が僅かに左へ傾いたのを、明智は見逃さなかった。今、足のスタンスを直した。膝を遊ばせず、腰で立たず、両の足で床をしっかり踏みしめている。蓮はこの話に興味を持っている。
     コーヒーをふた口含んで、一旦舌を休ませた。舌の上で転がり、鼻へと抜けていく深い苦味と芳しい香りを堪能しながら、事のあらましを頭で組み立てて整理し直す。何を考えているのかよくわからない彼が、自分の言葉によって、なにがしか感情を揺らす様は気分が良かった。
     「地図にないカフェ」――その釣り餌に食いついた魚を、どう引き寄せようか。
     明智がその存在を知ったのは一週間前。SNSという果てのない情報の海を回遊する中、一つのブログ記事に目を留めなければ、永遠に知らないままだった。
     所在地は新宿区。メニューはブラックコーヒーの一種のみ。一杯一二三〇円。平均価格の約二倍。手を伸ばそうと思えば届く、絶妙な金額設定だ。一瞬の躊躇を厭わず、求めた人間だけが味わえる一杯。店主はきっと、コーヒーの品質にも客層にもこだわりを持っている。職人気質で無愛想な顔をしていそうだと、勝手に想像する。そして肝心の商品はといえば――投稿者曰く、こんなコーヒーは飲んだ事がない。どの品種にも当てはまらない。絶品という事しかわからないまま飲み終わり、夢見心地で店を出た。それから味が忘れられない。もう一度味わいたい。それなのに、その店への道筋はまったく思い出せない。白昼夢でも見たのかと思えば、確かに現実での出来事で、記事には店のコースターの写真が添えられていた。
     心惹かれないわけがなかった。明智はそうだが、彼はどうだろう。両者は正反対なように思えて、似ている所があったりするから。今回はどっちだろう。
     組んだ指の上、顎を乗せて、黒縁眼鏡の中を見定める。喫茶店の間接照明は、分厚いレンズに橙色の陰りを与えている。その奥の瞳で、相手は何を思い巡らせているのか。
     一杯のコーヒーとカウンターを挟んだ対岸。僅かに生まれる空白の時間。その刹那、明智は微笑む。慣れたというより、こびりついた筋肉の動きで。柔く、慈しみすら覚えるその三日月の裏では、相手が誘い込まれるのを待っている。その好戦さは蓮が一等好きなものであったが、今はそれどころじゃなかった。自分はこんな事を言う男ではなかったはずだけど、という戸惑いはちょっと前に捨てたばかりだった。
    「浮気か?」
    「は?」
     自分といるのに他の男の名前を出すなと、胸がささくれ立った。どちらにせよ、人の店で、お前。前々から思ってたけど、ちょっとデリカシーに欠けるぞお前。本当にそういう所だぞ、お前。
     明智の今の言葉には、店主である惣治郎も同じ反応を示すだろう。といっても冗談交じりか、相手が女性客の時にしか言わないかもしれない。
     それを蓮は本気で言ってしまったものだから、相手は目を見開いて呆然としている。いつだか、怪盗団の仲間たちと共に探りを入れられ「怪しいのはお前の方」と打ち返してやった時と同じ表情だった。
     鼻を明かしてやれたのに、蓮の心は晴れない。ポケットからスマートフォンを取り出す。ホーム画面をスライドし、カレンダーウィジェットを表示する。放課後も休みの日も、予定なぞはその日その日で決めるから空白ばかりが並んでいる。
    「いつ?」
    「え?」
    「次、いつ空いてる?」
    「……三日後。放課後にどうかな」
    「わかった」
     液晶画面に指を滑らせる中、対岸の明智もスマートフォンと手帳のそれぞれに予定を書き付ける。二つの媒体に刻まれる自分の名が、なんとも言えない優越感を煽った。架空の番組表ではなく、こちらの方が断然心が躍る。
    「存外乗り気だね」
     明智がくすりと笑う。スケジュール入力のついでに彼が共有してきた、件のブログ記事から目を離して、蓮も口角を上げた。
    「優秀な助手が欲しかったんだろう?」
    「君はいつも話が早くて助かるよ」
    「いや、俺としても浮気現場はちゃんと押さえておきたいし」
    「だから、何なのそれ」


    2022.10.04
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