内緒だけど another※追加問題1「同じ話を口語調・視点を近くしての短文で書き直してみる」


　大きな水槽の中をじっと眺める。色んな魚が、水の中をあっちへこっちへと泳ぎ回っていた。水槽の中を照らす光が、魚の鱗に反射してきらきらした。綺麗だけども、館内が薄暗いのもあって何だか眩しい。眼鏡のレンズに反射する追撃付きだし。目を休めたくて床を見た。床もうっすら明るい。これは水槽越しの明かりだな。水の影が足元でゆらゆら揺れている。魚だけじゃなくて、俺も海の中にいるみたいだ。素直に思ったことを言ってみる。隣から明智が笑う声が聞こえた。「来栖君って意外とロマンチストだね」――恥ずかしくなって、自分の髪を指で弄った。明智だって、きざったらしいじゃないか。俺がそうなら、お前だってお互い様だろう。
　すると、明智が俺を見た。思った事がばれたのか！？　そんなわけないけど、タイミング的にドキッとした。「やっぱりこういう所が好きでしょう？」と明智が聞いてくる。さっきと同じ質問だな。ふと、視線を水槽の方に移す。あ、明智から逃げたみたいになった。こうなったら正直に話すしかないか。仕方ない。うん、と小さく頷いた。自分の事を知られるってちょっと恥ずかしい。俺の声を聞いた明智はにっこり笑った。そのまま水槽へと向き直る。はいはい、探偵王子は今日も絶好調だな。その横顔を、目だけでこっそり盗み見る。……気付くなよ、気付くなよ。明智の顔には、水の影が映っている。……すごい綺麗だ。ずっと覚えていたいくらいだ。俺はこっそり明智を見つめ続けた。まばたきした時、目蓋の裏に残るくらい。明智がこっちを見なかったから。

22.08.16



※追加問題2「同じ話を1文で書く」


　暁が眼前に広がる巨大な水槽内の、色とりどり大小さまざまな魚があっちへこっちへ、思い思いに行く様を視線で追っていると、その鱗が照明の光を反射してキラキラチカチカするのに眩さを覚え、暗さを求めて床へ視線を落とせば、そちらも水槽越しの光が落ちてうっすらと明るく、水の揺らぎを影として映して、足元にゆらりゆらりと悠然な波間を作り出しているものだから、まるで自分も魚たちと同じく海の中にいるのかのようだとぼやいてみせれば、隣に並び立った明智の秘めやかに鼻と喉を鳴らす音と、巷で王子と称される彼にあまり言われたくはない言葉――「来栖君って意外とロマンチストだね」――が耳に届いたのだが、暁はうんざりするどころか、１つ年上の男にそう思われてしまったことが何だか気恥ずかしく、自身の髪のひと房を指で摘まんでくるくる回し、明智が今までしてきた数々のきざったらしい言動を思い返しては、お前だってそうだ、お互い様だろう、と相手を道連れにすることを考えていると、まるで心中悟ったりと言わんばかりのタイミングで、明智が暁へと振り返り――どきりと跳ねた心臓は、邪な考えを咎められたと感じたせいか、それともその微笑みを直視したせいか――「やっぱりこういう所が好きでしょう？」と、つい先程、暁へ訊ねた質問を再度投げかけてきて、無意識に、答えを得たがる彼の穏やかかかつ凛々しい目元から、何を考えているのかわからない魚たちの瞳へと視線を移せば――ああまずい、これではあからさまに動揺して逃げたような状況ではないかと若干後悔し、短い逡巡の後、頬の温度を上げながら、ごくごく小さく頷いてみせれば、探偵王子は人の秘めやかな所を暴いて満足そうに笑い、また水槽の中を眺め出す――まったくこちらは恥ずかしい思いをしたのだけどと、暁は隣の男を視線だけで盗み見、そして水の影が映る端正な横顔に対し、素直に綺麗だと思ったから、これまた素直に忘れまいと見つめ続け、瞬きしてもその姿を失わない程度に焼き付かせることに成功したのは――残念ながら――明智が一度もこちらへ振り向かなかったおかげだった。

22.08.16