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    ume8814

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    ume8814

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    Dom/Subユニバースの仁竜。
    DomらしいDom仁と、自己のアイデンティティとSub性が相容れずにプレイに対して思うように行かない事が多いSub竜三の話。
    竜三はこれまでそういったプレイを避けて生きてきている前提。

    2人は同棲しており、なんやかんやあった末にパートナーとなっています。

    溺れる コマンドを受けることに不慣れな俺の為に、仁は会話の端々に”お願い”を混ぜてくる。コマンドほどは強制力が無い。俺が応えようが応えまいが構わないという程度のお願いだ。きっと仁から与えられるお願いは些細な事も多く、俺が気付いていないこともあるだろう。もしかしたら仁が突然伝えてくる夕飯のリクエストすらそういうつもりなのかもしれない。いやどうだろうか、それは考えすぎかもしれない。それは置いておくとしても、恐らく仁はお願いが叶えられた時に、俺に感謝を示し、なんらかの報酬を与えてくれているのだろう。実際に仁と共に生活を始めてからというもの、それ以前とは比べようがない程に俺のSub性は落ち着いていた。しかしどうやっても散らせない欲はあるらしい。そうなった時に仁が決まってする”お願い”があった。
    「竜三、こっちに来てくれ」
     傍若無人な仁にしては珍しい、普段とは違う物言い。恐らく仁は俺が不調を抱えていることに気付いているのだろう。なんとも不甲斐ないことだったが、どれだけ隠そうとしても仁にはバレてしまう。忌々しい第二性は抗い難い本能で俺を縛り付けている。
     2人で暮らし始める時に選んだソファに座った仁が、勿体ぶったように俺を呼ぶ。それが暗黙のうちに決まった合図だ。特に拒否する理由もない俺は、素直に仁の傍による。大人しく自分の元に来た俺に、仁は綺麗に破顔する。そうして、決まって少し真面目な顔に戻った仁が俺に聞くんだ。
    「セーフワードは」
    「境井」
     その答えを聞き届けた仁は、仁の前に棒立ちのままの俺の手を取る。甲をするすると撫でながら、やっと初めてコマンドらしいコマンドを出す。
    「竜三、kneel」
     仁が与えるコマンドは、俺を傷つけるようなものでは無い。そう分かっていても僅かに身体が強ばってしまう。俺が自ら避けてきたばっかりに、Subのくせにペタリと割座で床に座ることが難しい。一般的なSubはDomから与えられたコマンドに応えるだけで充足感を得られると聞く。俺はと言えばコマンドを出されたことに対する陶酔感もなければ割座も満足に出来ていない。恐らく比較するまでも無いほどに中途半端なkneelだろう。それでも、仁の脚の間、仁の座るソファの前に敷かれた毛足の長いラグ。その柔らかなラグの敷かれた箇所に埋もれるようにして不格好に蹲る俺に、仁は嬉しそうな笑顔を向けてくる。
    「good boy. よく出来たな竜三」
     そして俺は仁のその言葉を聞く事が出来て初めて、ぼんやりとしたモヤが頭に広がるのを感じる。自分が腑抜けになっていくような感覚は、何度やっても慣れないだろう。理性を保てと喚く自分と、本能に素直になれと喚く自分。これから先、今日の自分がどちらに振れるかはまだ分からない。
    「竜三」
     頭の中に広がるボヤに身を任せていると、名前を呼ばれ、トントンと目の前の太腿を叩いてみせられる。促されるまま、僅かに上半身を倒して大人しく頭を乗せた。
    「いい子だ」
     頬をペタリと仁の太腿に着けると、ゆったりとした手付きで頭を撫でられる。
    「大丈夫そうか」
    「わからん。多分な」
     ふむ。そう納得したのかしていないのか分からない声を漏らした仁は、俺の頭を撫で続けている。時折、首元にあるcollar代わりのシンプルなシルバーネックレスに触れてきた。頭まで湯につかった時のようにぼんやりとした意識の中で、ネックレスの立てるチャリチャリとした音が微かに響いている。その度に、自分が仁のパートナーであること、自分がSubであることを思い出す。
    「look」
     温かな湯に包まれたような意識の中でも仁の声は良く響いた。随分と重く感じられる頭を持ち上げて仁の瞳を見る。仁もこちらを見つめている。視線が合うと、切れ長でひんやりとした仁の眦が僅かに下がった。
    「そのまま。stripだ。出来るか」
     告げられるまま、緩慢な動作で着ていたシャツに手をかける。仁の目をじっと見つめてプチプチとボタンを外していく。ボタンを外していく度に、意識はグラグラと揺れて地に足のつかない心地がする。気持ちいいとはこういうものだったろうか。そうかもしれない。時折仁が俺の頬を撫でている。
    「無理はするなよ」
     しかし満たされるということは、こんなにも心許ない気持ちになるものだったろうか。こうしてぬるま湯に浸かっている事は許されるのだろうか。腑抜けになった自分に何か期待されるようなことは残っていただろうか。思考はグルグルと回り始める。もうこうなってしまっては、きょうはだめかもしれない。自分を包みこむ心地よいぬるま湯だと思っていたものが、容赦なく肺の奥に染み込んでくる。溺れる恐怖に息が詰まる。快楽とは違うとはっきり分かる視界の点滅。何かにつかまりたいと握りしめた手の中からはブツリと千切れる音がした。

    「竜三!」
     仁に名前を呼ばれていることに気づいた瞬間、肺が開いて空気が入ってくるのが分かった。いつから視線を外していたのか。名前を呼ばれてやっと、脳内で仁の像が結ばれる。ああ、俺はふたつもコマンドを無視しちまった。結ばれた像は曖昧でぼんやりとしていて、仁の表情ははっきり見えない。しかし別に仁は怒って居ないだろう。それどころか申し訳なさそうに眉が下がっている気がする。
     視線すらろくに合わせていられなかったくらいだ。もちろん服も脱げてない。シャツを脱ぐために手をかけていたボタンは千切っちまったし、それ以外にもまだ半分以上残ってる。俺は脱ぎたいと思ったのに、俺はコマンドに抗いたいと思った。今日はダメな日だった。今からでもどうにか脱げないかと思ったが、手が震えてボタンが滑っていってしまう。
    「竜三」
     仁が申し訳なさそうな声を出すのが心苦しい。俺がまだボタンから手を離していないから仁は行為を止めずにいてくれる。仁としては不本意だろうが、この関係になる時に2人で決めたのだ。俺が本当にヤバくなったらきちんとセーフワードを告げる代わりに、もし俺がコマンドに応えられなくても、少しだけ無理をさせて欲しいと。
    「さかい」
     でももうこれ以上は無理だった。鉛でできたかのように重い手をボタンから離す。脱力した俺の脇下にすかさず手を差し入れた仁は、膝の上へと俺を引き上げた。
    「good boy. よく頑張ったな」
     ぎゅうぎゅうとキツく抱きしめられて、それからゆったりと背を擦られる。仁の落ち着いた呼吸と同じペースで行ったり来たりする手に合わせて、俺は浅くなっていた息を整える。
    「駄目だったじゃねぇか」
    「今回はな。前回は出来ただろう。たまにはそういう日もある」
     こうやってまるで幼子のような姿を晒すころになってやっと、仁のコマンドを聞き届けたかったと強く思うんだ。このDomに応えたい、仁ならば大丈夫だと。何度もそう思っては、何度もそれを忘れてしまう。仁にもDomとしての欲があるだろう。このままではいつか愛想をつかされてしまうのか。
    「大丈夫だ竜三。次がある。その次も。その次だってある」
     まるでこちらの考えが全て見透かされているようなタイミングで仁は言う。
    「そうだな」
     仁が言うならきっとそのようになるだろう。そうなればいいと思った俺は、仁の首筋に甘えるように頭を埋める。次までに仁に甘えた自分と、それを受け入れた仁を覚えていられたら、次こそは上手くいく気がした。
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    ume8814

    DOODLEグリクリグリ
    読書 サイドテーブルを挟み緩く向かい合うように置かれた1人がけのソファで、クリーデンスとグリンデルバルドはそれぞれ本を読んでいた。日が落ちてから随分経ち分厚いカーテンの下ろされた部屋では照明も本を読むのに最低限の明かるさに絞られていた。その部屋には2人のページを捲る音だけが静かに響いている。


     クリーデンスが本を読むようになったのはつい最近、グリンデルバルドについてきてからのことだった。最低限の読み書きは義母に教えられていたが、本を読む時間の余裕も、精神的な余裕も、少し前のクリーデンスには与えられていなかった。
     義母の元でクリーデンスが読んだ文字と言えば自分が配る救世軍のチラシ、路地に貼られた広告や落書き、次々と立つ店の看板くらいのもので、文章と呼べるようなものとは縁がなかった。お陰でクリーデンスにはまだ子供向けの童話ですら読むのはなかなかに骨が折れる。時には辞書にあたり、進んだかと思えばまた後に戻ることも少なくないせいでページはなかなか減らない。しかしクリーデンスはそれを煩わしいとは思わなかった。今までの生活とも今の生活とも異なる世界、新しい知識に触れる事はなかなかに心が惹かれる。クリーデンスにとっては未だにはっきりとしない感覚だがこれが楽しいということなのかもしれないと、ぼんやりとだが思えた。それに今日のように隣で本を読むグリンデルバルドのページを捲るスピードは、自分のものとは異なり一定で、その微かに聞こえてくる紙のすれる音が刻むリズムがクリーデンスには酷く好ましかった。
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