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    ume8814

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    燭歌

    無題夕餉の片付けが終わったら二人で一杯どうだい?そう言って悪戯っぽく笑った本人はまだ来ない。


    春はたけなわ、桜は盛を少し過ぎ薄紅の花弁にいくらか緑が混じっている
    昨日までの晴天が嘘のようで、今日は残りの花弁を散らさんとするかのように雨が降っている。
    幾ら桜が散り始めるほどに麗らかな気候になろうとも雨の降る夜など肌寒い。
    それでも縁側で煙管片手に眺める庭は趣がある。
    自分に与えられた部屋の前の庭など普段から見飽きているだろうと言う者もいる。
    だか歌仙に言わせてみれば小さいながらも絶えず変化する景色を飽きる訳が無いようで何時でも見ていたいと思うものであった。
    そうは思えど、明日の朝餉の準備も任されている歌仙は何時までも起きているわけには行かない。
    なのに人を誘っておきながら一向に来ない隻眼の伊達男など待たずに先に寝たところで文句を言われる筋もないだろうう。
    歌仙は今吸っている煙管が終わったら部屋に戻り寝ようと決めた。
    深く吸い込んだ煙を細く吐き出しながら、やむ気配もない雨に散らされる庭の桜を見ている。
    明かりなど何もないはずなのに闇にぼんやりと浮いて見える桜はぞっとする美しい。
    まるでこの世のものでは無いようで、昼間にちょうど桜の下で遊んでいた短刀達が話していた、桜の下には人の死体が埋まっているらしいという話もあながち嘘ではなと思える姿だ。


    最初からその会話に加わっていた訳ではない歌仙だが、洗い終わった洗濯物を抱え物干しまで運ぶ途中に短刀たちに呼び止められ話について教えてもらった。
    ただの植物であるはずなのに異様なまでに人を惹き付けるその姿に人が恐れを抱きそのような話が出来るのも仕方のない話だろう。
    それに話の元をたどれば西行の歌を踏まえたものであるようで、なかなか風流じゃないかとその時洗濯物を抱えたまま歌仙は桜に近づいていった。
    すると、花を見上げて歩いていた歌仙の姿に、近くにいた短刀が声を上げた。

    「あ、歌仙さん!そこらへんは死体を探すって掘られた穴があるから上ばかり見てたら危ないです!!」

    しかし、その忠告も一足遅かったようで
    短刀が全て言い終わらないうちに歌仙は綺麗に穴に落ちていった。
    穴はそこまで深くなく幸い怪我をしていないようだったが、巻き込まれた洗濯物は無事ではなく穴の中や外に散らばりさっきまでの洗いたての白さなど見る影もなく砂や泥にまみれていた。
    短刀たちがわらわらと集まってきて散らばった洗濯物を纏めたり歌仙に手を差し伸べたり主を呼びに行ったりと慌ただしい様子の中、1人俯きだんまりとしていた歌仙がクワっと顔を上げ本丸中に怒声を響かせた。
    その後穴を掘った犯人たちに洗濯物の洗い直しをさせようとすれば、タイミングよく怒声と入れ違いに出陣されてしまい結局は歌仙と何人かの短刀たちで洗う羽目になり運悪く夕餉の準備も任されていた歌仙の1日は慌ただしいものになった。
    後に夕餉の席で穴を掘った主犯格である鶴丸が、今日のハイライトは歌仙のあの怒鳴り声だな!門の外まで聞こえてきたぞ!と懲りずに言ったおかげで歌仙は拳付きでハイライトを再現することになる。


    歌仙が余計なことまで思い出して興が削がれた腹立たしさに任せて、まだいくらか残っている煙草を灰落としに捨てようとしたところで、やっと待ち人から声がかかった。

    「ごめんね、夕餉の後に始まった飲み会の後片付けまでしてたら遅くなっちゃって。もう寝てるかと思ったよ」

    「ああ、後ほんの少しでも遅ければ寝ていたな。君がさっき声をかけなかったら煙管を片して大人しく部屋に戻る所だったんだ。」

    「それは間に合ってよかった。でも、
    一応飲む準備もしたけど、流石にこの時間から飲み始めたんじゃ明日に響くよね。
    また別の日にしようか。」

    その光忠の言葉に、自分で誘っておいて遅れて来た上にまた別の日にとは何事か、と小言を零し始めた歌仙に手を合わせて謝りながらも、じとっとした視線を向けられた燭台切は困ったように頬をかく。
    これは相当怒らせてしまったかな。どうすれば御機嫌をとることが出来るだろうかと悩んでいる間も歌仙の小言は止まることなくつらつらと流れていく。

    しかし、伊達男とはとてもじゃないが言えないな。

    そう揶揄るように呟かれた言葉に流石の燭台切も反論しようと口を開けば、

    「君と酒の一つも飲めないまま一人寝なんかするよりもこっちの方がよっぽど気分なんだ。」

    唐突に、歌仙はそう言うと燭台切の着ていた浴衣の合わせを引き寄せた。開きかけた口もそのままに燭台切が驚いているうちに、鼻が付きそうな距離でそれは艶やかに笑んでみせた歌仙は、ふと顔を離すと未だ燻っていた煙管に口付け燭台切に紫煙を吹きかける。ほんの一瞬の出来事に普段の格好を気にしている様子など嘘のように面食らってきょとりとした顔をする燭台切に対して、歌仙は流石に意味が分からないとは言わせないからな、と先程とは打って変わってさも楽しそうに笑っている。暫く固まっていた燭台切は苦りきった顔になる。

    「ねぇ......、今の僕すごい間抜けじゃない?全然かっこよくない」
    「ああ、確かに全く格好よくない」

    人にそうもはっきり格好よくないと言われると自覚はしていても流石にへこむんだけど、そう項垂れていた燭台切だったが、バッと顔を上げ歌仙の肩を掴む。

    「でもそれより、そんなことしといて添い寝だけとか言わないよね。」
    「それは君の解釈に任せるよ。」

    燭台切はこれでは呑んでも呑まなくても変わらない。どちらかといえば酒を呑むよりひどいと溜息をつけば、溜息の原因である当の本人は悪戯が成功した幼子のようにまだからから笑っている。

    「ここで溜息をつかれると流石に傷つくな。仕事とは言え、約束を反故にした君にも非はあるだろう。しかしそれよりも、はやく君のした解釈の答え合わせと行こうじゃないか」
    「まったく...、でもここまでされて誘いに乗らないのは伊達男どころか男であるかも疑わしいからね」

    流石に間違える気はしないんだけど、そう言って
    燭台切はそのまま歌仙を抱え上げて襖の向こうに消えていく後には桜と、煙管が細く煙を燻らせながら残されていた。
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    ume8814

    DOODLEグリクリグリ
    読書 サイドテーブルを挟み緩く向かい合うように置かれた1人がけのソファで、クリーデンスとグリンデルバルドはそれぞれ本を読んでいた。日が落ちてから随分経ち分厚いカーテンの下ろされた部屋では照明も本を読むのに最低限の明かるさに絞られていた。その部屋には2人のページを捲る音だけが静かに響いている。


     クリーデンスが本を読むようになったのはつい最近、グリンデルバルドについてきてからのことだった。最低限の読み書きは義母に教えられていたが、本を読む時間の余裕も、精神的な余裕も、少し前のクリーデンスには与えられていなかった。
     義母の元でクリーデンスが読んだ文字と言えば自分が配る救世軍のチラシ、路地に貼られた広告や落書き、次々と立つ店の看板くらいのもので、文章と呼べるようなものとは縁がなかった。お陰でクリーデンスにはまだ子供向けの童話ですら読むのはなかなかに骨が折れる。時には辞書にあたり、進んだかと思えばまた後に戻ることも少なくないせいでページはなかなか減らない。しかしクリーデンスはそれを煩わしいとは思わなかった。今までの生活とも今の生活とも異なる世界、新しい知識に触れる事はなかなかに心が惹かれる。クリーデンスにとっては未だにはっきりとしない感覚だがこれが楽しいということなのかもしれないと、ぼんやりとだが思えた。それに今日のように隣で本を読むグリンデルバルドのページを捲るスピードは、自分のものとは異なり一定で、その微かに聞こえてくる紙のすれる音が刻むリズムがクリーデンスには酷く好ましかった。
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    ume8814

    DOODLE転生した記憶ありピタジョがギャングの下で掃除屋をしながら暮らしていくAUがみたいというツイッターでのどうにもならない妄想から生まれたものとなっています。
    ・モブの死とそれに伴う流血描写
    ・ジョージが色覚異常/ネットで得た知識をもとにしているためおかしな点が多々見受けられるかと思います
    ・マスターキー(斧)
    その他諸々なんでも許せる方向けとなっております。
    赤の記憶 ジョージ・ミルズは生まれてこの方、現実世界において、世間一般の言う赤という色を認識出来ないでいた。赤と呼ばれる色に割り振られた色は、一応ジョージの中にも存在する。しかしその色が多くの人が言う赤と同じかと言われると、答えは否だった。
     気がついた時にはセピア色のフィルターが幾重にも掛かっているような現実をみていたが、不思議な事にジョージの見る夢は昔から鮮やかだった。幼い頃は目が覚めると広がるセピア色の世界と鮮やかな夢とのギャップに驚き、母を質問攻めにしていた。どうして起きている時と寝ている時で世界の色が違うのか。どうして与えられたクレヨンに書かれた色の名前が自分の知るものと違うのか。
     幼いジョージの質問はどれも不明瞭で、母を困惑させるには充分過ぎるものだった。先天的に知る由もないだろう色の相違を拙い言葉でつたえられるのは薄気味悪くもあったのだろう。いつしかジョージと母との距離は離れていき、仕事を見つけたからと強引に家を出れば知らぬ間に縁が切れていた。それが16歳の冬の出来事。普段から家を空けがちな父には、最後の挨拶すらしないままだった。
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