伴侶「……というわけで、私達、結婚したから♡」
プライドに指を絡められた手を挙げさせられる。酒場が阿鼻叫喚に包まれる三秒前の出来事だった。
「ど、どどどどういうわけですかマスター!!プライドさん!!」
「落ち着きなさいよラビット、こういう時は落ち着いてプライドを殴るのよ」
「貴方も落ち着きなさいエンヴィー。貴方様、詳しい説明をお願いしてもよろしくて……?」
ラストの圧が怖い。ロザリーさん始め、その他酒場にいるハンター達もこちらを気にしてちらちらと見ているので説明を試みることにした。しかし、どうしてこうなったのかと問われると答えるのは存外難しい。助けを求めるようにちらとプライドの顔を見ると、にっこりといつも通り……否、いつもよりも機嫌が良さそうな目と視線が合わさった。
「それは当然、愛し合っているからだよ。それ以外の理由は必要かい?」
するり、プライドの指が指の間をゆっくりと撫でながら解かれていく。頬を寄せられる。皆からは見えない耳が、僅かに朱色に染っていた。同調するように頷き、好奇と(主にプライドに向けての)疑心の目から逃れるように俯いた。暫しの沈黙。「冗談ではないのか」「本気か」という言葉がさざめきのように広がっていく。彼がこちらにやってきたことを考えれば当然の反応だ。だから、それを黙らせようと思ってしまった。プライドの袖を引けば、彼はこちらと顔を合わせてくれる。どうしたんだい、と言われる前に、キスをしてやった。
「は、ぇ?」
再度訪れた沈黙の中、みるみるうちにプライドの顔が赤くなっていく。そんな空気感なんて知らないフリをして、プライドの手を引き酒場を出た。きっと今の自分はしてやったりという顔をしていただろう。
夜の風が頬を撫でる。冷めた頭が訴えるのは遅れてやってきた羞恥心だ。
「……キミ、いつあんなこと覚えたんだい?」
さぁね、と返す。少なくともプライドと付き合っている間に覚えた事だ、とも。
「……明日から、面倒なことになりそうだ」
全くだ。頷いて、気付く。プライド自身は、その面倒すら嬉しくて愛おしくて仕方ないという声色であったことに。
「ねぇ、」
向き直り、目を合わせる。月のない夜空の下、星の光を受けて煌めく銀色の髪はとても綺麗だった。
「私に、キミを愛させてくれてありがとう。神に代わってキミに誓うよきっと、キミを幸せにする」
跪いたプライドが、こちらの手を取り微笑む。それは、知恵の樹首領としてではなく、ただ一人の男性としての言葉だった。