勝負はその時点で最初から決まって居たも同然だった。「おれの気が済む迄、チェスの相手をしてくれ、おれが勝ったらおまえの恋人にしてほしい。」たったひとりの鯖が、同じくたったひとりの狩相手に放ったその言葉は鯖も狩も複数名居る場で告げられた、特に潜められても無ければ、大袈裟に響く声でも無く、ごく自然な会話だった、内容以外は。その場に居た狩達は、そこ迄の全ての条件下と対象の狩の性格から考えて、この投げかけにひとたび応えてしまえば、この勝敗が決まってしまうことを悟った。しかし同時に、対象の狩ならば、その性格故のプライドのせいで。「良いでしょう。」言ってしまうと思って居た。当事者で有る狩以外の全ての狩がその場で頭を抱えた。鯖が発した台詞、それは言わば巧妙な罠だった。その言葉が発せられた時点で勝負が始まり、勝敗が決まって居た。チェスの勝負?そんなものには勝たなくても良いのだ。