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    itoujohan

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    itoujohan

    DOODLE本三/賀来夢
    鳴かぬ蛍が身を焦がす食事に行こうと度々誘っていたのに、散々断られていた彼から行きたいところがあるとの誘いがあった。いつも身勝手だなと思いつつ、好いた弱みで結局は喜んで待ち合わせ場所に向かってしまう。夜、繁華街のいつもの待ち合わせ場所に着くと、下ろし髪に着流しを着た賀来が提灯を持って待っていた。

    久しぶりに会える喜びもそこそこに、どこか飲みに行くのかと思えば、繁華街を通り過ぎて人気の無い方に歩いて行くので私は怪訝な顔を隠さずにいた。「もうちょっとやから」提灯の心許ない明かりと私の表情も気にも留めず、明るい声と柔らかい表情で賀来が言う。提灯の明かりと月明かりを頼りに、私は黙って彼を追いかけて河川敷を歩く。

    「わぁ、」
    綺麗、と口から溢れた。提灯のロウソクをふっと吹き消している賀来を見ると、視線が合って眼鏡の奥で目を細めて目尻にシワを作る。「ちょうど今の時期が最盛期なんやって」小川の上を小さな黄緑色の光がひっきりなしに飛び交ってはまたたいている。蛍なんて見たのは子供のころ以来だろうか。繁華街からそう離れていないところに、こんな場所があるなんて知らなかった。穴場らしく、まばらに人が黒いシルエットで見えるくらいだ。静かな川のせせらぎに合わせて、無数の光は浮かび上がるように闇の中を漂う。
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