「遠征中の短刀が謎の失踪ですか…」
長谷部は復唱した。
ある一室にてへし切長谷部とここの本丸である主…審神者の2人が話していた。
2週間前から遠征中に刀剣男士の謎の消息不明が起きているらしく決められた時間になっても強制的に帰ってこないという。
各本丸で起きているらしくまだここの本丸では幸い起きていない。
そしてこの事件の共通としては短刀が居なくなっているという、それは様々で粘度が未熟な短刀から極の短刀まで様々であった。
何故短刀が狙われているか原因不明であったがある本丸で短刀と行動していた刀剣男士の情報によると謎の黒いものに吸い込まれるように消えていった…という情報があった。
しかしこの事件はまだ数件しかない為政府は得に各本丸に情報を流していないらしい。
「それでは、何故主はこの事をご存知なのですか…?」
「以前、演習をさせて頂いた本丸でその事件に遭われたようで…。先程その情報を頂いたのです。」
「そういう事でしたか…」
ここの本丸の主は演習後に他の本丸の審神者との交流を深めるのが好きなのかわざわざメールなどを送っていてそのお陰なのか政府よりも先に情報を知っている時がある。
「貴方には先に知らせておこうと思って…」
審神者は少し不安そうな表情をしていた。それを察した長谷部は安心させようと微笑む
「大丈夫ですよ、主。明後日の遠征必ず全員無事に帰還させます。この長谷部、強く誓いましょう」
「長谷部……必ずですよ…」
「はい…」
長谷部はゆっくりと立ち上がり一礼をするそして襖を開け再度一礼を静かに閉じた
審神者の部屋は刀剣男士達の部屋から少し遠く長谷部は長い廊下を歩いていく
(謎の黒いもの…果たしてそれは時間遡行軍のものなのかそれとも検非違使…後は違うも…)
その時誰かにぶつかってしまった。
「っ、す、すまない。」
考え事をしていて誰かが前にいるとは気づかなかった長谷部、幸い短刀ではなく自分より体格のいい人物だったのでお互い倒れずに済んだ。
「いや、僕は大丈夫。寧ろ長谷部君、人の気配に気づかないで考え事なんて珍しいね」
ぶつかった相手は数日前に修行から帰ってきた燭台切光忠だった。内番の仕事があったのかいつものジャージを着ていた
「主の所に行っていた」
「…何かあったのかい?」
「まぁな。…そう言えば明後日の遠征は燭台切、お前も入っていたな」
「うん、修行から帰ってきて初の出陣かな。とは言っても遠征だけど」
「遠征でも気を緩めるなよ、主の命だ、しっかり任務は成功させ無事に帰還するぞ」
「それは分かってるよ、手加減はしたくないしそんな事したら格好悪いからね。」
長谷部は鼻で笑い光忠の横を通り過ぎ振り返る、光忠は何かと思い少し首を傾げた。
「…お前の修行の成果楽しみにしてる」
「っ!」
長谷部は光忠の前から去って行った、立ち止まっていた光忠は頬を少し赤くし口元を押えた
「その笑みは反則だよ…長谷部君…」
今では沢山の刀剣男士が暮らし時間遡行軍から歴史を護っている本丸。長い月日が経っており今では冷静に判断している審神者であるが最初は違った
そんな本丸の最初は特殊な事例だった。
本来なら初期刀として政府から加州、蜂須賀、山姥切、陸奥守、歌仙の誰か1人を決めそして顕現する
審神者は5人の中から加州に決めて顕現の儀式を行ったのだがその時不具合が発生したのか審神者の前に現れたのは加州ではなく
「へし切長谷部と言います。主命とあらば何でもこなしますよ」
桜が舞って現れたのは長谷部であった。
「あ、れ…???」
「貴方が俺の主ですね!…ん?どうかなされたのですか?」
「違う」
「??」
「ち、ちょっとそこで待っててね!?」
「はい…主命とあらば」
驚きのあまり審神者は敬語を忘れてしまうがそんな所ではない、長谷部をその場に残しまだ見慣れていない自分の部屋に向かった。
そして今起きた事を政府に送った。
数分後に返信が来たので見てみると何か不具合が発生したと考えられるとの事…一旦刀解させ再度顕現して貰う形か異例の事なので初期刀をそのまま長谷部にするか。という選択だった。
審神者は加州を初期刀にしようと決めていた、なので今回長谷部には申し訳ないが刀解という形にすると政府に返信をした
審神者は長谷部が待っている部屋に行き長谷部に伝えようと開けようとした時隙間から見えた長谷部の横顔。
その横顔はとても美しかった、美しすぎて審神者は息をするのを忘れてしまう程であった。
審神者の気配に気づいたのか長谷部はゆっくりと審神者がいる方向に顔を向けた
「あるじ…?」
その声にビクッとさせ審神者はゆっくりと開ける
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です…」
「大丈夫そうには見えないのですが …きっとこれは俺ではなく他のやつが顕現される予定だったんですよね?」
「…」
長谷部に言われ審神者は黙ってしまい静寂に包まれる、長谷部には申し訳ないがそう言う事だと伝えなければいけないのに口が思うように開かない。
再度長谷部は審神者に言った。
「こんな事が起きるのですね …でも俺は大丈夫ですから主はお気にならさず俺を刀解して、もう一度顕現を行ってください」
両手には大事そうに自分の刀を持ち審神者に向けて微笑む長谷部。
だが審神者の目に写った長谷部は少し悲しげそうで僅かに手が震えていた