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    ringobako3

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    ringobako3

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    宗教団体に連れてこられたエ×星デュ(人外)のエスデュ。
    デュが消える。短くて暗い。
    最後に設定あります。

    #エスデュ
    Ace Trappola/Deuce Spade

    逃避行長い長い暗闇の先に光が見える。
    やっと、やっとだ、逃げられたんだ!
    握ったデュースの手を更に強く握りしめ、喜びのままに声をあげる。
    「デュース!出口だ!」
    「……」
    「デュース?」
    歩みを止め、何かあったのかとデュースの方を振り返る。
    だが、そこに、交ちあうはずの緑の目はなかった。目どころか、髪飾りが揺らめく頭も、力の割に細い肩も、薄い腹も、しなやかな脚も、何もない。あるのは、握りしめた手だけ。それも手首の先から徐々に光の粒に解けて、今まさに消えようとしていた。
    「は……?」
    よく回るはずの頭が停止する。それでも、身体は勝手に動き、これ以上デュースを失うまいと、消えゆく手を両手に握り込んだ。そんな抵抗を嘲笑うように、光は指先の方へ侵食していく。
    手首が消え、手のひらの中ほどまで消えた。その度、デュースの感触も熱も解けて霧散していく。
    片手に収まるほどになり、零れる光を空いたもう片方の手でかき集める。そうしたところでどうしようもないことは分かっているが、せずにはいられなかった。
    指の付け根へ光が到達し、バラバラになった5本の指が、手の中で絡み合い、球状に纏まっている。普通ならおぞましく思うだろうそれも、全く気にならなかった。必死だった。
    両手で一分の隙もないように包み込む。逃げられはしないはずなのに、手の中の体積も体温もどんどん減っていき、終に消え失せた。
    現実を直視するのが恐ろしくて、手を開くこともできず、呆然と立ち尽くす。追っ手がいつ来るかも分からないのに、一歩も動けず、最早動く気もない。どうなろうと知ったことか。いっそ捕まって死んだ方が楽だ、とさえ思った。
    その場に頽れる。すると、不意に、手の中に違和感を感じた。手のひらで触れてみれば、何か柔らかい感触がして、恐る恐る手を開く。
    そこには、一部が赤く染まった布切れがあった。
    「……これ」
    見覚えがある。逃げる時にデュースが左手を怪我して、満足に手当てできる状態ではなかったから、せめて止血しようと巻いてやったもの。

    『左手の薬指って、結婚指輪みたいだな』
    『こんなザックリ切れてんのに言うことがそれ?』
    『……でも、僕は人間じゃないからこれ位は平気だ』
    『全く痛くないわけじゃないでしょ。それに、ダラダラ流血したままだと居場所がバレるかもしれないじゃん』
    『……それはそうだな。すまない』
    『それにさぁ、指輪がこれはナイでしょ。……ここ出たら、ちゃんとしたの贈るから、だからその……ちゃんと治せよな』
    『……エース、顔赤いぞ』
    『うるせー。お前も人のこと言えないじゃん』
    『しょうがないだろ……』
    暫しの沈黙の後、デュースが口を開く。手当てをしていてその時のデュースの表情は見えなかったけれど、その声は、心なしかいつもより寂しげに響いたように聞こえた。
    『──指輪、楽しみにしてるな』

    デュースは、こうなることを分かっていたのか。
    どうして教えてくれなかったのか。自分が連れ出さなければ、デュースは消えずに済んだのか。
    身を焼くような悔恨と、やり場のない怒り、心身を千々に裂く喪失感。それらの奔流に圧倒されて、デュースが存在した唯一の証を握りしめ、何かに謝罪するように額づき、全てを拒絶するように小さく身を縮めて蹲る。喉が引き攣って無様な嗚咽が漏れ、目の前が歪む。
    ああ、泣いてるのか、と、どこか他人事のように思った。



    足音が地面を伝って、頭蓋と鼓膜を揺らす。恐らく追っ手だろうが、もう何をする気もない。目を閉じ、手足を投げ出して、来る死を待つ。
    近付く足音が間近で立ち止まる。
    「君、大丈夫か!」
    早く担架持ってこい、と頭上で指示が飛ぶ。瞼をほんの少し持ち上げれば、この国の人間なら誰でも知っている治安維持機関の紋章が目に入ってきて、脱出決行の時のリークが届いていたことを知る。
    複数人の機動隊員が、事切れたようにだらりと弛緩した身体を持ち上げて、担架に乗せ、施設から連れ出していく。出口へ近付くほどに光が増していき、身体を包み込む。腫れぼったい瞼に遮られていてさえ強い外光が、網膜を焼く。けれど、それすらどうでもいい。
    デュースと同じように、光になって消えないだろうか。
    そんなことだけを思っていた。





    ───────────
    読まなくていい設定

    デュは自分が施設を出られないことを脱出の道中で知ります。
    今更やめても、自分はもっと厳重に“保護”されて、エに至っては“処分”されかねないし、エを施設から逃がしたかったので、エには黙っておきます。
    施設内を動き回るうちに何か方法が見つかるかもしれない、という期待もありました。そんな都合の良い話はありませんでしたが。

    エは、「デュースを殺したのは自分だ」と自責の念に苛まれながら、死んだように余生を過ごします。
    最初のうちは、デュの血がついた布切れを左手薬指に巻いて、絶対に肌身離さずにいます。ライナスの毛布になっています。
    洗おうとして取ると情緒不安定になってしまうので、病院の職員も手を焼いています。
    星デュは人外なので血液汚染とか感染症とかの心配はありません。人間の検査では血液と判定されないため、病院では「赤い布切れ」と思われています。
    デュは骨も残らなかったし、戸籍もないので、「エース・トラッポラの言う“デュース”とは、過度のストレスによるイマジナリーフレンド、または幻覚と思われる」とか診断されます。

    デュは元々人間の形ですらありませんでした。遠い昔、施設の人間が“喚べてしまった”人外で、人間が言うところの神様ではありませんが、施設の人間からは神様扱いされています。
    何十年も人間に世話を焼かれているうちに、言葉を覚え、ガワを調え、中身も人間を倣って、今の星デュが出来上がりました。外見は全て「施設の人間が喜んだもの」で構成されていて、デュの本来の姿とは違いますが、デュ本人は姿形に執着もないので特に思うところもありません。
    なんで人間の中身を知っているのかと言えば、生け贄やら見せしめやらで、勝手に人間が人間を儀式的なやり方で殺して捧げてくるからです。切ったら赤い液体が流れたり、白くて硬い部分があったり、赤くて柔らかい部分が皮の内側に詰まっていたりすること位は知っています。
    実のところ、人間を捧げられても一切意味はないのですが、デュは死に恐怖を感じたこともないし、死んだら悲しむ人間がいるということも分からなかったので(生け贄を喜ぶ狂信者しか周りにいなかったため)、エに出会うまでは「意味はないけど、人間も喜んでるしいいか」くらいの感覚でいました。エと関わる中で真っ当な価値観を知り、自分が消えたりエが死んだりしたらもう会えなくなるという恐怖を知って、初めて「死んだら駄目だ」と理解します。
    指輪の意味は信者から聞きました。
    「婚姻関係にあると示すために、左手薬指に指輪をはめる慣習があるんです」と、穏やかに笑って指輪を撫でていたので、良いものとして記憶していました。実際、その信者は、施設のお偉方が決めた男と結婚するだけなので、まともな人間からすれば幸せではないです。洗脳されてるから幸せに感じているだけです。
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