まぼろしみたいな ? …いま、唇に触れたのって、…まさか?
ふわり、とからだが宙に浮いたと思ったら、ぐいん、と背中から地面に引っ張られていく感覚がした。同時に遠くの方から「エレン!」と叫ぶリヴァイ班の先輩達の声が聞こえて、そのなかで、一番近くで聞こえたのが「チッ」という舌打ちの音で、だから、ちょっと安心してしまう。
ああ、あの人が来てくれた。
ふわりと香る石鹸の匂い。視界にさらりと靡く黒髪のシルエット。彼の首元のクラバットが、エレンの頬を撫でた。そして、次の瞬間にそれは起きた。ふに、と柔いものが唇に触れる。ほんの一瞬だった。
「エレンッ!」
「兵長!
ぼうっとするエレンを世界は無視して回っていく。まるでそんな出来事はなかったみたいに、ぐるり、ぐるりと。
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