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    もんじ

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    もんじ

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    ゲヘナAn『ドキサバ3rd』

    ##TRPG

    水槽の中「ナイイェル、どこ?」
    自分の飼い猫の名前を呼ぶ。かつて前の支部で、同じ名前の天使の女の子に餞別で「わたしだと思って大切にしてください!」なんて、きらきらとした瞳で言われてしまって(半ば強引に)自分が飼うことになった猫。
    飼う、という行為に未だに慣れず禄に世話など焼いていないが、賢い猫のようであまり手は掛からなかった。
    そして、この支部は動物に寛容なようで、みんなが集まる談話室に居てもナイイェルを構ってくれる。ナイイェル自身も人なつっこく、構われるのを嫌がらないので好かれている……のだと思う。
    そんな、猫のナイイェルがご飯の時間だというのに談話室に居ない。

    「ナイイェル……」
    何度目か分からない彼女の名前を呼ぶと、遠くから微かに鳴き声が聞こえる。声の方へと歩いて行くと、先日建造したばかりの『驚異の部屋』へと到着した。
    中に居る人の気配を感じ、数度ノックすると返事が聞こえた。どうやら、やはり部屋の主であるユーセフが居るらしい。
    「入るわね」
    そう告げて、ドアを開ける。中には先日作ったウッドチェアに揺られるユーセフの姿があった。そしてその膝の上にはナイイェルの姿もある。
    ナイイェルは私の姿を見て「みゃお」と鳴くと、彼の膝から飛び降りこちらへと駆け寄った。
    「ここに居たのね、ご飯の時間よ」
    そう告げると、ナイイェルはうにゃうにゃと返事のような鳴き声をあげると足にすり寄る。それをそのまま抱きかかえ、ユーセフの方へと身体を向ける。
    「ごめんなさい、ナイイェルを見て貰っていたようね」
    その言葉には彼は、様子なんて見てはいないと答えたけれど、私の方がきっと様子を見てなんていない。飼うことから目を逸らしている。みんなが見てくれているから、それに甘えているだけだ。
    その沈黙に気付いたのか、彼はどうかしたのかと訪ねる。何でもない、と答えるが彼は更に言葉を被せてきた。この部屋がいけないのか、と。
    この部屋を造った後、私が何気なく漏らしてしまった言葉。あの言葉を、覚えていたらしい。

    ――違う、違う。この部屋と、あの場所は違う。あそこは暗くて、狭くて、誰も居なくて、助けを呼んでも誰も来なくて、出ようとしても上手く歩くことが出来なくて。
    冷たい汗が伝う、心臓は早鐘のように鳴り打ち、喉がからからと渇く。震える手が、そっとナイイェルの背を撫でた。
    「私は、私は……この子と同じだった。でも違った。…………自由なんてなくて、暗くて狭くて、ずっと、ずっとあの水槽の中だった」
    震える唇で言葉を紡ぐ。ああ、私は何を言ってしまってるのだろう。だけど、その言葉は止まらない。
    「……出られなかった、出ても歩けなくて、すぐに連れ戻されて。恐くなかった。……だって、そんなもの何処かへ行ったから。私には、そんなもの持つ資格なんてなかった……だって、私。……私は、私は、あそこでは……ただの」
    抱きかかえるナイイェルへの力が込もる。暖かくて柔らかい毛の感触が、痛いほどに感じられた。
    「私は、観賞用の魚だった」
    その言葉を紡ぐと、ナイイェルは大きく鳴き声を上げた。その声に我に返る。私は、彼に何を言った?
    自分の、過去を話した。こんなこと、知る必要がないのに。知らなくていいはずなのに。私なんかの、こんな聞くに堪えない話を。
    気付くと目の前には彼が居た。何を言っているのかわからない。知らない。知りたくない。
    「……ごめんなさい」
    やっと出てきた言葉は、消え入りそうなほど小さく震えていた。そのまま踵を返して、ドアを開けて走った。走って、走って、甲板に出たところで躓いて転んだ。
    ナイイェルは躓いた拍子に腕からするりと抜けて、着地していた。無様に転んだのは、私だけ。

    手を握り、力を込めた。身体は痛いが、そんなの些末な事だった。そんなのには慣れていた。ただ、どうしようもなく胸が痛い。喉が痛い。鼻がツンとする。
    どうして、言ってしまったのだろう。誰にも、自分から話した事なんてなかったのに。誰一人として、話した事なんてなかったのに。
    こんな話を聞いて、どう思われてしまったのだろう。きっと侮蔑されたに決まっている。きっと軽蔑されたに決まっている。やはり距離を置かれてしまうのだろうか。話してくれなくなるのだろうか。
    そう思いながら、やっとの思いで起き上がると、ポケットの中からするりと貝殻の装飾品が床へと落ちた。彼が、私にくれたお守り。返す機会もなく、そのままにしていたもの。それにそっと手を重ねた。
    ――ああ、私。こんなに人のことを気にした事なんてあったっけ。

    気付けば視界は歪んで、お守りを掴んだ手の甲には水滴が落ちていた。
    「……私、泣いているの?」
    涙なんてとうに枯れ果ててしまったと思っていたのに。それはしばらく流れ続けた。
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