Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    もんじ

    卓関連の文とか
    絵はこっち https://poipiku.com/1467221/

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 43

    もんじ

    ☆quiet follow

    グラクレ『晨星落落のソラに』『借金卓』

    ##TRPG

    去った星の話物事の終わりというものは、珍しいものではない。誰かによって奪い、奪われ、そしてやがて来る滅びというのは等しく訪れるものだ。特にこのアトラタンはそれが満ち満ちていて、国も、人も、獣も、誰もが何もが死と隣り合わせの匂いを纏っていた。
    そんな中で出会った一人の“人間”は、少し違う匂いがした。
    大義を掲げ、混沌を切り払って行く彼の周りには、次第に人間やそれ以外のもの達が集った。きっと他の者達も、何かを感じたのだろう。他の人間とは違う、彼の何かに。
    ある魔術師はそれを「才」と呼び、それを讃えた。
    ある森の人はそれを「質」と呼び、それを慈しんだ。
    自分はそれを「力」だと思い、それを恐れた。
    しかしどう言われ讃えられようと、彼は少し驚いたような、困ったような顔で「そうなのか」とだけ答えるのみで、彼自身が何一つとして変わることがなかった。
    だが、それで良いと思っていた。それが良いとも思っていた。

    「彼はとても人間らしいね」
    そう、混沌の落し子は言った。穏やかに、だが冷たく、まるで遠い物事を語るように。そして、それはこちらを少し見やると困ったように嘆息した。
    「キミは、そう思ってないんだね?」
    彼を人間らしいだなんて、一度も思ったことはない。──あれは少し異質だ。
    「お前が思っている程、皆人間はああではない。人間は然程、獣と変わりはしない」
    世に蔓延る人間達は、獣と相違はない。
    誰もが生きる為に己のことのみを思い、考え、行動している。混沌によって奪われても、人間は人間同士で争いを続ける。立ち向かい、手を取り合おうとする者達は少なく、そうしようとした者達は人間によって邪魔をされることも少なくない。
    そうやって醜い部分も曝け出し、感情によって生きているのが大抵の人間だ。
    それが“人間らしさ”なのだろう。彼がその言葉に当て嵌まるとは思っていない。寧ろそう当て嵌めようとするのなら、彼よりもあの魔術師の方がよほど人間らしいと言える。
    「ふふ、それを自らを獣と定義するキミが言うのかい?」
    「……だからこそだ」
    目の前に有るのは、人智未踏の天蓋。混沌の指先。同じ世界に生き、違う理で生きるモノ。それに恐ろしさはない。ただ遙か遠くに居るようで、触れ合うことの叶わない、見上げるソラのようだ。
    じっと、それを見やる。生命規模の違い、とでも言うのだろうか。こちらを映す瞳はまるで裁定するかのようだ。
    「矛盾だね。──いや、むしろ矛盾こそがヒトの本質か。」
    「……あれに、人間の理想を押し付けるな」
    その零れ落ちた言葉に、自分でも少し驚くのを感じた。それとは対照的に、目の前のそれは目を数度瞬かせるのみで表情一つ変えさえしなかった。思わず息を呑み、口に手を遣った。
    まるで、自分が“人間らしい”行動をしているようで。
    「ああ、成程キミも……」
    人間になることを望み、人間としての死を願うものは口を開いた。
    そして獣であることを望み、獣として生きる自分は目を閉ざした。
    そして、そのまま踵を返し走り出した。その続きを聞かない為に。

    しばらく走って、ふともう嗅ぎ慣れてしまったあの匂いに足を止めた。足を止めたとてどうするのか。そう逡巡し、その場を去ろうとした時、声が投げかけられた。
    「誰だ?」
    彼はゆっくりと近付いてくる。そして自分の顔を見て、やはりそうだと笑みを見せた。それを見るだけで、息が詰まる。
    「どうしたんだ、お前から来るなんて珍しい」
    「……近くまで来てしまっただけだ」
    乾いた喉で、短く言葉を返す。掠れた声が響いた。彼はいつもと同じように穏やかな声で「そうか」と答えた。
    匂いがする。人間の匂いが。獣のようで違う、それとは一線を画する匂いだ。だが、それらとも少し違うのが彼の匂いだ。
    温かな、穏やかな匂いがする。だが留まることはない、吹き抜けてゆく風のような匂いが。
    「……あんたは、人間らしくない」
    これもまた矛盾なのだろう。特別に感じようと、彼は──クリューソスは唯の人間だ。変わりはない、普通の人間だ。
    「はは、俺は人間だよテンロウ。……俺は人間でしか在れない、人間だよ」
    彼は笑う。困ったように、少し悲しそうに。
    同時にまた彼の匂いが鼻を掠めた。
    やはり、こんなに痛くなるほどに優しすぎる匂いは、人間らしくない。こんな人間の匂いは、他に知らないのだから。
    Tap to full screen .Repost is prohibited

    recommended works