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    steadfastm_f

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    第13回ミ受けワンドロワンライで書いたものです。お題はずぶ濡れ、拘束、ぶるぶるローズでした。

    #晶ミス

    答え合わせは貴方の部屋で 晶は一人で夜の散歩をしていた。
     散歩といっても、魔法舎から出るわけではなく、中庭を歩いて少し夜風に当たろうとしたのだ。近頃日中は日差しが強く暑くなってきたのだが、夜になると外気がひんやりとして肌寒い。昼日中忙しく任務に追われていると、夜半まで目が冴えて眠れないときがある。この日はまさにそんな夜だった。
    「こんばんは、賢者様」
    「ぅわっ……こんばんは、ミスラ」
     不意に声を掛けられて晶はびくりと声の方へ振り返った。ぬう、と夜の闇から溶け出るように現れたミスラはずぶ濡れだった。
    「ミスラ!? 大丈夫ですか、びしょびしょじゃないですか」
    「ああ……風呂に入ったら暑かったので。水浴びしてました」
     ポタポタと石畳に水滴を垂らしながらミスラは晶の方へ歩み寄った。
    「夜はまだ冷えますから、早く着替え、」
     月明かりに照らされて、先程よりもその姿がよく見える。見えてしまう。水を吸った衣服が肌に張り付き、無造作にかき上げられた赤い髪は普段見ることのない額へつう、と雫を滴らせている。
    「あ、いや……えっと、タオルが、先ですね」
    「寒くありませんけど」
    「そういう、問題ではなく」
     そもそもミスラは魔法使いなのだから、魔法で一瞬で身体を乾かすことだってできる。すぐにそう言えないほど晶は動揺していた。月の光を弾く濡れた色白の肌。首筋を伝う雫が音もなく張り付いたシャツの胸元へ吸い込まれていく。目に入る全てが艶めかしく、目を逸らしたくなるのを堪えられず晶は俯いた。
    「ああそうだ。これ、何かわかります?」
    「わひゃっ」
     ひた、とミスラの手の甲が晶の頬へ触れる。ギクリと肩を跳ねさせる晶には構わず、ミスラは掌を返して指で弄ぶように耳を挟んだ。その仕草の色気に反して、本人にはそういった意図はない。晶はわかってはいても、暴れる心臓をどうにもできなかった。想い人に艶っぽく触れられて平然としていられるほど晶は経験豊かではなかった。
    「夕食のあとからずっと震えてるんですよ」
    「へ……?」
     煩い鼓動を脇へおいて触れた耳に意識を集中させると、確かにミスラの手はぶるぶると震えていた。触れられた意図がわかり落ち着きを取り戻した頭にふと昼間の出来事が過ぎる。夕食の前に、キッチンを訪れるとネロが余ったぶるぶるローズを集めて何やら思案していた。リケが明日のおやつにパンケーキをリクエストしていると聞いて、ネロはぶるぶるローズをジャムにするか生地に混ぜ込むかで迷っているらしかった。通り掛かったラスティカがジャムにすると香りが良いかもしれないとアドバイスしていた。
    「ミスラ、もしかして夕食のあと、キッチンへ行きました?」
    「? はい」
    「鍋に煮詰めてあったジャム、味見しました?」
    「……? ああ、まだ腹が減っていたので食べました。甘ったるかったのでパンと一緒に」
     やはり、晶の予想通りミスラの身体の震えはぶるぶるローズの食べ過ぎによるものらしい。ホワイトから聞いた震えの止め方を伝えようとしてはた、と気付く。この流れでいくと、晶がミスラを抱き締めることになるのではないか。
    「それで、どうやって止めるんです?」
    「それは……その」
     言い淀むと怪訝そうな顔をしたミスラがはあ、とため息をつく。たとえ呆れられても、今晶はミスラと密着するわけにはいかなかった。情けないほど集まった下半身の熱に気付かれてしまう。想いを伝える以前に、人として善くない、と良心とほんの少しの見栄が叫んでいた。そんな晶の葛藤をよそに、ミスラはスリスリと何の気無しに手中の耳を弄んでいる。
    「貴方最近変じゃないですか?」
    「えっ」
    「冷たいというか……うまく言えませんけど」
     目線を逸らしたまま、つまらなそうな口調でそう言うと立ち去ろうとする気配。晶は咄嗟に離れていく腕を掴んでいた。
    「抱きしめるんです」
    「はあ?」
    「誰かに抱きしめてもらえば、震えは止まります。すぐに言えなかったのは、俺が、ミスラを抱きしめると思うと、緊張したからで」
     なるようになれ、と半ば自棄っぱちになって晶は捲し立てた。体面やちっぽけな見栄は守れなくとも、ミスラに冷たくしてしまうより良かった。
    「ミスラに冷たくしようとしたからじゃないです! すみません!」
     中庭に晶の声が響いて、しんと静まり返った。それでも今夜に限って他に起きている魔法使いは居ないのか誰も現れる気配はない。さわさわと風が草を揺らす音と遠くで鳴く虫の音だけが聴こえる。ぎゅっと目を瞑っていた晶が恐る恐るミスラを見上げると、目を丸くして見つめる顔と目があった。どこか幼さのある表情が美しく崩れて破顔する。
    「じゃあ、抱きしめてください。賢者様」
     両手を広げて少年のように笑う顔に心臓は痛いほど高鳴った。逆らいようもなく、誘われるように細い腰に手を伸ばして晶はミスラを抱きしめた。いつの間に魔法を使ったのか、抱いた身体は乾いていて、余計に互いの体温が溶け合うようだった。心地良くていつまでも抱きしめていたい気持ちと、何もかもバレてしまっている故の罪悪感と焦りが晶の中でせめぎ合う。本当なら直ぐに離れるつもりが、抱き返してくるミスラの腕に欲をかいてしまっていた。
    「……当たってますけど」
    「本当にすみません……」
    「悩殺されました?」
    「!? ちがっ……わ、ない、です」
     はは、と可笑しそうに笑う声が上機嫌で、腕を解く気がなくなっていく。理由を確かめたいと思うのは欲張りすぎるだろうか、と悩みながら緩い拘束を続ける。触れた身体の震えはとっくに止まっていた。




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