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    【フェルヒュー】貴方が望むならそれは体の端が冷えてくる守護の節のことだった。最小限の、局部だけを外に出して汗を流しながら部屋で運動をしてもすぐ体が冷めた。凍りつく寒さに身を震えながらも簡単にやめられなかったこの肉体関係を終わらせることにしたのはヒューベルトの決定だった。

    「そろそろやめませんか、フェルディナント殿」
    「今日はこれでやめようって? 私も賛成だ」

    ベッドに腰をかけたフェルディナントは、ヒューベルトの寮室にある小さな火鉢に足を伸ばして足の指を動かした。シャツのボタンを閉じて、ジャボを首に巻いて布団を広げて肩を包んだ後、フェルディナントはやっと落ち着きを感じた。この部屋、ベッド、そして布団の持ち主であるヒューベルトはまだシャツ一枚のままだったが。いつでも布団を出せという話に応えられるように、体を丸めていた布団の一部を外して彼の席を残そうとしたフェルディナントは、ヒューベルトの笑い声にそんな雰囲気ではないことに気づいた。

    「はい、本日これを最後に、貴殿との関係はお辞めさせていただきます」
    「私との関係?」
    「もう少し直接な言い方をすれば理解できますか。体を交して欲求を処理するためにセックスする関係ですね」

    目を丸くしたフェルディナントはヒューベルトの言葉にそのまま固まったようだった。雰囲気に流されてやったというには、かなり長く維持した関係だった。晩夏からだったので季節が2度も変わった。それは規律は固くて割り切れぬものだらけのセイロス教の士官学校生活に些細で刺激的な楽しみだった。少なくともヒューベルトには。

    今はどうでもいい遊びに時間と体力を使うことを減らし、目の前に来る目標に向けて集中しなければならない時が来たとヒューベルトは判断した。間もなくやってくるエーデルガルトの即位式を控え、人目を避けて処理しなければならないことが多かった。フェルディナントが今後、エーデルガルトのために働くかどうか、どのような選択をするかも見守らなければならない問題だった。フェルディナントとの関係を終わらせるのに適切な時期だった。

    しかし、フェルディナントは違った。 前も後ろも気にせず、ヒューベルトの挑発に飛び込んだその時から何度も身を交えたが、その瞬間だけ。一度もまともに関係を命名したこともなく、この関係の終わりがどうなるとは想像したこともなかった。

    「そうだな。君が望むなら」

    そう答える以外には、選択できることがなかった。ヒューベルトの話を聞いて初めてフェルディナントは自分に尋ねる機会を得た。

    「私はこれまでヒューベルトとセックスをしていたのか?」

    ほとんど追い出されたみたいに寒い廊下に出て、フェルディナントは自分の部屋に戻る短い距離をぼんやりと歩いた。


    協力課題を終えたあとの時間、そして日曜の礼拝の時間にはこれから何をしたらいいか。フェルディナントはこれからよく考えておかねばならなかった。これまでその時間はずっとヒューベルトと過ごしてきたから。決まった時間が来たらもう過ぎ去った前のことだけを振り返って過ごしてしまいそうだった。

    フェルディナントにとってセックスは別に聖なるものではなかった。しかし、このようにむやみに消耗する行為ではなかった。心を越えて体を通じて情を交わすのであって、他人の身体を借りて腹いせと欲求を解消することはセックスではないと思った。
    ヒューベルトにとっては違ったのか。ヒューベルトにとって、これはどのような意味だったのだろうか。関係をやめようというヒューベルトの声には、何の重みもためらいもなさそうだった。自分にとってそうであったように、ヒューベルトにとっても何の意味もなかったのだろうか、何の意味もなければ続ける理由もなく、やめる理由もないのではないかと、フェルディナントの頭の中で次から次へと考え続けた。
    ヒューベルトが辞めることを提案した理由が気になってきた。この行為を簡単に承諾し、終わらせることに簡単に同意したのに。いや、フェルディナントにはヒューベルトを引き止める理由はなかった。だが、ヒューベルトなら何か明確な理由をもってこの関係を終わらせたのだろうと思われた。
    彼に笑われてでも、情けないというように苦言を受けてでも、フェルディナントはこの関係に終焉を告げられてからようやく彼の気持ちが知りたくなった。

    しかし、長い悩みと決心を交互に繰り返している間、時間が経ち、まるで機会を逃したかのように、なかなかヒューベルトを見ることができなくなった。ベレスに聞いてもエーデルガルトに聞いても分からないという答えだけを聞いた。毎日ヒューベルトを探し、毎晩彼を思う日が続いた。 フェルディナントはその時間の中で、また別の意味を積んでいる自分を発見した。初めて長い混乱の中で整理したことのない感情の名前も思い出せそうだった。



    長い間見られなかったヒューベルトの顔を合わせたのは、また別の混乱の中でだった。不慣れな空気に満ちた聖墓で姿を現したヒューベルトは、「学校ごっこはここまで」と言った。ずっと探していた彼に会って喜ばなければならないが、いや、予期せぬ登場に当惑すべきか。

    エーデルガルトは大司教の目の前で、そして教会の中心で教団との戦いを宣言した。それは言葉だけの脅威ではなかった。ただ担任教師の決定を全面的に信じて逃げるように出てきた自分とは比べ物にならないほど、エーデルガルト、そしてヒューベルトがこの日のために準備して築いてきたことは格が違ったとフェルディナントは思った。そんなエーデルガルトの口を通じて聞いた帝国の消息は混乱を加重させた。フェルディナントの父であるエーギル宰相が罷免されたという話を、それを指示した現皇帝から聞いたのだ。エーデルガルトはフェルディナントにこれからどうするかを尋ねた。それだけだった。何の条件もつけず、選択肢も示さなかった。帝国に反旗を翻してフェルディナントの手に残るものはないだろう。たとえ空手を覚悟してここで背中を見せたとしても、無事にこの部屋を出られるだろうか。

    「先も言ったじゃないか。皇帝に忠告できるのは、この私だけだ」

    フェルディナントは精一杯答えた。父の命を、自分の命乞いをするように思っていた。そのとき、ベルナデッタがドアをガタンと開けて息切れして入ってきた。

    「エーデルガルトさん!」

    ヒューベルトがベルナデッタの後についてきた。

    「ヒュ、ヒューベルトさんから聞きました! あ、父が失脚…したと…」
    「そう」

    おびえる齧歯動物のように騒がしく話しかけるベルナデッタとは違って、エーデルガルトはとても落ち着いていた。

    「ああ、母が…」
    「うん、ベルナデッタ」

    涙がこもった声ではきちんと話せなかったが、事情をすべて知っているかのようにエーデルガルトはうなずいた。

    「父を…父を…!」

    しきりに震える肩が気の毒に見えたフェルディナントは思わず手を伸ばしそうになったが、再び立ち止まった。

    「私、覚悟しました! あの、ベルは、エーデルガルトさんの味方ですから!」
    「ベルナデッタ…」
    「父を処断しても、大丈夫です! 反皇帝派だったから当然のことだし…決して言い人では…ない、なかったから…」

    エーデルガルトが席を立ち、ベルナデッタを抱きしめてくれた。

    「ありがとう」

    フェルディナントは一歩引いて部屋を出ようとした。ドアの前に居たヒューベルトと自然に目が合った。その視線を遣り切れず、顔をそむけた。

    ヒューベルトは時々何でも知っているという冷たい顔でフェルディナントに視線を向けた。フェルディナントはそれが大嫌いだった。自分は知らない多くのことを、何も知らなかった自分を、すべて見下ろすような視線はフェルディナントをしばらく苦しめた。ヒューベルトとは同じ空間にいないように努力した。 過ぎし日の思い出と、来る日への望みがすべて燃えてしまう戦乱の炎に身を任せ、フェルディナントは長い時間をかけて考えを整理し、気を引き締めなければならなかった。



    ***



    体が遠くなれば心も遠くなり、体が近くなれば心も近くなる。
    かつて士官学校があった旧修道院でフェルディナントとヒューベルトは再び長い時間を共にするようになった。不思議なことにフェルディナントはまたあの時とは違う視線でヒューベルトを見るようになった。そのような視線を送るのはフェルディナントだけではなく、今はヒューベルトの視線が嫌ではなかった。何回も二人の眼差しが交差したのだろうか、フェルディナントは新たに芽生えた感情をヒューベルトに告げた。今回はその気持ちを、この関係をまともな名前で呼ぶことができた。フェルディナントは恋人に古い気持ちを告白した。もちろん、ヒューベルトは信じてくれなかった。

    「今になって冗談は…まあ、私も貴殿との悪戯が、それなりに気に入りました。嫌だったらとっくに辞めたでしょう」

    「うん。そのとき、君への感情を打ち明けられなくてよかった。もしそうだったら今のようにはならなかっただろう」

    心の中だけに収めておいて幸いだった。長い間にぼんやりとしたその心が新しい風に芽を出した。盛り上がると思っていたあの時の感情と、落ち着きの中で熱くなっている今の感情は全く違う物だった。

    「あの時は私も君も若かったから…」
    「力だけ溢れていましたね」

    ブーッ。フェルディナントがテフを吹いた。素早く口を塞いだおかげで、汚れたのは手袋だけだった。

    「とても凄かったです」

    皮肉たっぷりの言い方でフェルディナントにハンカチを渡すヒューベルトだった。

    「ゴホン!反省してる」

    若い頃は欲求だけが先駆けてしまってまともな配慮もなく、優しく触れなかった。振り返ってみると、ぞっとするほど乱暴で無礼だった。

    「最近、のろのろしているのはもしかしてそのせいですか」
    「それなりに大切にしようとしてるのに、もしかしてそうするのが嫌だったか?」

    まさか正式に付き合い始めてからの営みに満足できなかったのか、フェルディナントはいらだってきた。

    「.......」
    「ヒューベルト?」

    ヒューベルトはほんのりとほおを赤らめて顔を背けた。

    「嫌ではありません」
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